おそらく世界広しと言えど、デート中に後輩の女の子から07ホールをプレゼントされた人類は俺が初めてに違いない。
インテリアのつもりで渡してきたらしい07ホールを片手に、デートを続ける人類も俺が初めてに違いない。
そう考えたら俺は今、人類の進化の最先端を歩いているのではないか? ということに気づき、ちょっとだけテンションが上がった午後5時少し前。
俺とましろんは駅前のレインパークを2人で当てもなくトボトボ歩きながら、
もうすぐデートが終わる。
それが分かっているからか、俺たちの歩く速度は亀の歩みよりも遅い。
「ハァ~、遊んだ、遊んだ! 久しぶりにたくさん遊びましたね、センパイ!」
「確かになぁ。俺、久しぶりにゲームセンターに足を運んだ気がするわ」
「ゾンビぶっ殺すの楽しかったですよね。またやりましょうね?」
そう言って笑みを
いや俺さ、つい数時間前までましろんと2人でゲームセンターにあるゾンビモノのシューティングゲームをしていたんだが……もう凄いぞ?
何が凄いって……すっげぇゾンビ殺すの上手いのね、彼女。
始める前は『うわぁ、真白こういうの初めてやるんですよねぇ。ちゃんと出来るかなぁ?』とぶりっ子全開でキャピキャピ♪ しながらガンコンを触っていたのに、いざゲームが始まるともうビックリ!
的確にゾンビの脳天めがけて銃弾がめりこんでいくのね。
もう吸引力の変わらないただ1つの掃除機なんて目じゃないくらいに、吸い込まれるようにましろんの放った銃弾がゾンビの
ほんと吸い込まれるように、まるでマイホームかのように弾丸が1ミリのブレもなく脳天に風穴を空けていく姿は、まさに生粋の殺し屋を彷彿とさせたよね!
あまりの上手さにゾンビの方が『すみません、もう撃たないでください……』って命乞いを始めたくらいだからね?
何なの俺の後輩?
銃の悪魔なの?
ヤベェ、ちょっと誰かチェンソー先輩呼んでこい!
ただマキ●さんだけは勘弁な!
「なんでましろん、あんなに銃の扱いが上手かったの? ハワイで親父に教わったの?」
「あっ、よく分かりましたね。そうなんですよ。実は昔、ハワイでお父さんに教わって、向こうでは実銃をバンバン撃ってましたよ」
「マジかよ……俺の後輩パネェ」
君は一体どこの名探偵なんだい?
おいおい、絶対コイツそのうちセスナやクルーザーを操縦し始めるぜ?
ほんとハワイ万能過ぎるだろ……。
というか俺の後輩万能過ぎるだろう?
めっちゃハイスペックじゃん。ワガママボディのハイスペック、略してワガママハイスペックじゃ~んっ!
今度からガンコンを持ったときのましろんには絶対に喧嘩を売らないでおこう。
と1人こっそりと決意していると、ましろんはどこか名残惜しそうに目を
「……もうすぐ今日が終わっちゃいますね」
「だな。やり残したコトがあるならまだ付き合うけど?」
「それじゃお言葉に甘えて、あと1つだけ」
ピタリッ! とましろんが足を止めたので、釣られて俺の足も止まった。
湿度を孕んだが風が彼女の色素の薄い髪をハラハラと
見ると、ましろんは口元に笑みを
そのどこか俺を試すような、吸い込まれるような瞳に自然と身体が硬直していく。
「ねぇセンパイ……」
まるで俺の中にある見えない真実でも見抜くかのように、彼女の潤んだ瞳が俺を
見えないモノを見ようとするのはシ●ナーを吸っている田舎の中高生(偏見)か、みんな大好きバ●プ・オブ・チキ●と相場が決まっているもんだ。
ほんと何であの人たちは名曲しか作らないのだろうか? もう大好き!
常に最前線を走り続ける、進化を辞めないグループ――それがバ●プ・オブ・チキ●だ!(確信)
なんて、普段の俺ならそんな
「――真白と駆け落ちしませんか?」
「……はっ?」
瞬間、頭の中が白濁液で
自分が何を言われているのか理解出来ず、空白の時間が俺たちの身体を包み込む。
な、ナニか言わなきゃとは思うのだが、舌が箱詰めされたかのようにピクリとも動かない。
それでも何とか必死に気力を振り絞って出した答えは、
「えっ?」
という実に情けない声だった。
「真白と駆け落ちしませんか? 今、ここで」
「……冗談?」
俺は彼女の真意を確かめるように、あえて
瞬間、ましろんが何とも言えない苦笑を浮かべた。
ふっくらとした唇は優しく弧を描いているのに、俺を見る瞳にはチロッとした低い温度と、
その時、俺は察してしまった。
――あぁ、俺は選択を間違えてしまったのだと。
「あはは、バレちゃいました? こう言ったらセンパイ、どんな風に焦ってくれるのかなぁと思って、ついやっちゃいました」
てへっ♪ と言った様子で苺のように真っ赤な舌をチロッと出して、蠱惑的に微笑むましろん。
そうすれば、俺がコレ以上何も言ってこないことを知っているからだろう。
ましろんは、気を取り直すかのように俺の手を優しく握りしめて、歩き始めた。
「さっ、行きましょうかセンパイ。そろそろ迎えの車が来る時間ですよ」
「ま、待てましろん。俺は――」
「ほらほら、行きますよ!」
ソレ以上は何も言わせないと言わんばかりに、俺の手をリード代わりに引っ張る後輩。
先を歩く彼女の顔色は窺うことは出来ないが、何故か俺には彼女が泣いているように映って仕方が無かった。