目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

第53話 『アフネス』

 (クソッ、逃げ足の速いガキだ!一体、何処へ行きやがった!?)


 結局レフィを捜し出すことが出来ずに戻ってきたマイカを見て、エフェリーネとリーセロット、ララとベルンハルトの4人が、また声を上げて笑った。


 (ムッ!)


 ふくれっつらをしてにらんでくるマイカに向かってエフェリーネが


「フフフッ、マイカ殿ごめんなさいね。何だか凄く可笑おかしくて…フフフフッ…怒らないで下さい…

 あー、こんなに笑ったの、何だか久し振りのような気がする。」


 (本当、殿下のこんな笑顔を見るのは何年振りかしら…)


 エフェリーネの笑顔の横顔を見て、リーセロットは沁々しみじみと思った。


「摂政殿下。」


「何でしょう、リーセロット。」


「これよりマイカ様を魔導講究處まどうこうきゅうしょへお連れするつもりです。」


魔導講究處まどうこうきゅうしょ…アフネスに会わせるのですね。」


「はい。マイカ様をアフネス處長しょちょうに会わせます。

 アフネスに、色々とマイカ様について鑑定してもらうつもりです。」


「なるほど、それは良い考えと思います。

 …ならばわらわは執務室へ戻るとしましょう。」


 (あー、摂政さん御多忙だろうしなー。)


 マイカは、エフェリーネがこれ以上自分に付き合わない理由を、多忙ゆえと単純に考えた。


「摂政様、本日はお招き頂き、大変光栄でございました。

 またお呼び立てを受けますれば、直ちに参上致します。」


「はいマイカ殿。これから色々と話し合わねばなりませぬものね。

 あ、次に参られる際は、あなたのお友達の、ケルベロスの子も連れていらして下さい。

 可愛いんですってね。わらわも会いたくなりました。」


「はい。ケルンも喜びます。」


「では、わらわはこれにて。

 レーデン卿、執務室までの供を頼みます。」


かしこまりました!摂政殿下!!」


 エフェリーネとベルンハルトは肩を並べて歩きだした。

 その後ろ姿を見送っていると、二人は顔を合わせ、会話しながら歩いていく。


 (おっ!摂政さんとベルンハルト君、良い雰囲気じゃん!

 オレは、二人はお似合いだと思うよ!)


 マイカは二人の様子を微笑ましい気持ちで見ていたが、やがて少し不機嫌になった。

 ベルンハルトがチラチラと振り返ってマイカの方を見て、マイカがレフィを追った時の真似をしていたのだ。それを見てエフェリーネが笑っている。


 (あ…あの、右手を上げて拳固げんこを握ったのって…さっきのオレのマネだな!

 ベルンハルト君、オレをネタにして笑いを取ってやがるんか!?)


 そのマイカのふくれっつらの横顔を見て、リーセロットとララも、また笑っていた。


 ラウムテ帝国魔導講究處まどうこうきゅうしょは、皇宮ヒローツパレイスに7つ有る塔の内、最も高い塔に所在する。


「これより参ります魔導講究處まどうこうきゅうしょとは、魔法の研究や、魔法に対抗するすべを研究している部署でございます。

 そこの處長しょちょうアフネスには、マイカ様が来られる事は既に話しております。」


 (ほう、魔法の研究ねぇ。オレが魔法を使えるかどうか、とかが判るのかな?)


 高い塔の最上階まで階段で上ると、左右に分かれてドアがあり、マイカはリーセロットとララに先導されて、左側のドアから中へ入った。

 部屋の中には、何やら見たことのない石やら金属のような物がテーブルの上や床に置かれており、また、部屋の壁一面に設置されている本棚には、本がぎっしり詰まっていた。

 その部屋に居た数名の男女の内の、一人の若い男性にリーセロットが


「アフネス處長しょちょうは?」


と尋ねたところ


「奥のにおられます。」


との返答があったため、この部屋の奥にあった小さなドアの方へ三人は向かった。


「アフネス、入るわよ。」


 リーセロットがドアをノックしながら声を掛けたものの、何の反応も無い。


「まさかアフネスったら、また!?」


 リーセロットがドアを開けると、奥の間の真ん中にある机に、何やら全身を覆うマントようの黒づくめの衣装を身に付けた人物が顔を突っ伏して眠っていた。


「こらアフネス!あなた、また仕事中に居眠りして!!」


 リーセロットが大声で呼び掛けると、その人物は机に突っ伏していた顔を上げ、こっちを見たが、黒いフード付きベールを被り、口元にはスカーフを巻いていて、どのような顔なのか、一切判らない。


「…何じゃ、リーセロットか…」


 その人物は、スカーフに隠れた口から、しわがれた老女のような声を出した。


「何じゃ、じゃないわアフネス!ほら、高位ハイヤーエルフ様をお連れしたわよ、御挨拶なさい!!」


「ほう…これはこれは…」


 アフネスはマイカの方を見たが、ベールで隠れて視線が判らない。


「…これは、向かいのワシの部屋で話し合おうかの…

 さ…ついてくるのじゃ…」


 アフネスは立ち上がったが、腰は曲がっており、ヨタヨタとした足取りで奥の間を出て、研究室のような部屋からも出て、向かいのドアを開けて中に入った。

 アフネスとマイカ達が入った部屋は、窓もあかりもなく真っ暗だった。

 しかし、暗闇だがマイカには中の様子が見えた。

 大きなテーブル1つと椅子が4脚あり、その他に小さな台が部屋のあちこちにあり、その台の一つに大きな水晶玉のようなものが置かれている。


 (…初めてこの世界に来た時も、星明かりすらない闇夜だったのに、凄く夜目が効いたよな、オレ…

 いや、でもこれって夜目のレベルじゃないぞ、まるで暗視スコープじゃないか!

 どうなっているんだ、オレの目は?)


「灯りを点けるから待ってたもれ…」


 アフネスがそう言って大きな水晶玉に手を触れると「バチバチッ」という音がして、まばゆいばかりの光を放ち、たちまち部屋が明るくなった。


 (何だ!?これって電気、電球か?でもハンデルは電気を知らなかったぞ、どういう事だ?)


「これはねー、ワタシが造った水晶でー、魔法の効果を閉じ込めることが出来るんよぅ。」


 アフネスが先程までとは打って変わった若々しい女性の声でそう言った。


 (何だ?お婆さんみたいな声と仕草だったのに、いきなり若い声でギャルみたいな喋り方になったぞ!)


 アフネスは頭から被っていたフード付きベールを取り外し、口元に巻いていたスカーフも取り外した。

 隠されていた素顔は

   常人つねびとでいうと20歳前後

の若い女性の見た目で

   黒い瞳孔の金色の瞳

がキラリと光った。

 そして

   先の尖った長い、エルフの特徴を表す耳

が表に現れた。

 その顔の両側のエルフの耳以外にも

   黒髪ボブヘアーの頭頂部に左右対称

の、まるで猫科の獣のような耳も付いている。


「エルフ!もう一人のエルフって、この人!?」


 マイカが驚いて尋ねると


「そーだよー。パパが庸常ノーマルエルフでー、ママが猫人びょうじん族のー、混血ハーフエルフのアフネスちゃんですぅ。ヨロピクー。」


と、アフネスは軽い口調で自己紹介した。

 その上口唇の両端から、牙のような尖った歯が覗く。


「…あ、よろしく。マイカです…」


「わぁーっ、ホントにぃ白金色の髪と緑色の瞳だー。

 パパから聞いた伝承のとーりだわぁ。」


「伝承…?」


「そー。リーセロットちんら、ダークエルフにも口伝で伝わってたんだよね?大体のエルフには先祖代々伝わってるんよー。」


「…あの、私、その高位ハイヤーエルフって何なのか全然知らなくて…」


「んーっ…ん!アナタ、この世界の人じゃぁないわネ!」


「えっ!?」


               第53話(終)


※エルデカ捜査メモ〈53〉


 アフネスもリーセロットとララ同様、エルフである事を隠しているのだが、彼女の場合、エルフの特徴を表す耳以外の見た目は猫人族の母の方に似ているため、ケモ耳や猫の目、牙などを隠すために素顔を判らなくする格好をしている。

 そして、どうせなら徹底的に正体を隠そうとして、いかにも魔法研究者の長らしく、老女の魔法使いの振りをするようになったのだが、度々、素に戻って若い声で話したり、素早く動いたりして、「もしかして處長しょちょうって若いのでは?」と思われているが、そんな事は、魔法の研究に興味の全てを注いでいる研究員達にとってはどうでも良い事であり、誰も口に出さないため、アフネスはバレていないと思っている。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?