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第54話 『本質を見極める能力』

 マイカがリーセロットとララの方を見たところ、二人とも首を横に振った。

 それはそうである。

 二人にも自分が異世界から来たことは、つい先程話したばかりなのだから、アフネスが聞いていた訳がない。


「え…?どうして…?」


 マイカが不思議に思い、アフネスに尋ねた。


「ワタシねー、モノの本質を見極める特殊能力スキルがあるんだー。」


「本質を見極める能力スキル…」


「だからぁ、このワタシの能力スキルでぇ、色々とアナタのことを調べてあげるぅ。

 アナタ、自分のこと、何も判ってないんでしょう?」


 (うわっ!そんなことまで判るのか?…何だかコワい気もするけど、生まれ変わった、このエルフの自分について知らないこと、疑問に思ったことを解明してくれるかもしれない。)


「ちょと待って下さーいねー。」


と、アフネスは後ろにあった棚から、灯りの水晶玉よりもやや小さめな水晶玉を取り出し、机の上に置いた。


「んー、どれどれー…えっ!ナニ?ナニナニ?

 アハッ、アハハハ!ギャハハハハハッ!!」


 アフネスが水晶玉を覗き込み大笑いしたが、マイカ達三人には水晶玉に何も見えないため、訳が判らない。


「これ、アフネス何なのです?説明しなさい!」


と、リーセロットがアフネスに言うと


「いやーアナタ達三人には見えないと思うけど、ワタシにはこの水晶に高位ハイヤーエルフっちの前の姿が見えてるんよ!

 オッサンよ!オッサン!!」


とアフネスが答え、それに対しリーセロットが


「それは先程、私達もマイカ様から聞いたわ。でも、それを笑うなんて!

 それと、高位ハイヤーエルフっちって言い方も、重ねて失礼よ!!」


とアフネスをたしなめた。


「だって想像してみ?筋骨隆々のいかついハゲのオッサンよ!

 でも、それだけじゃなくて、目だけはキラキラしたキレイな瞳なんよ!

 いかついハゲのオッサンなのに目だけが乙女!!そんなん笑うっきゃないっしょ!!」


「ハゲのオッサン…目だけが…乙女…

 クッ…ククッ…プププッ…」


 リーセロットがアフネスの言った通り想像し、笑いをこらえてプルプルと震えだし、ララに至っては


「…キモッ…」


と一言、小さな声で呟いた。


 (…そうか…やっぱり女性からすれば、オレってそんな感じか…

 どおりでモテなかった訳だよ…)


 マイカは、アフネスとリーセロット、ララの反応を見て愕然がくぜんとし、床に両手両膝をついて激しく落ち込んでいた。


「マイカっち、どしたん?今はキレイだからいいじゃん。」


「アフネス!その呼び方!あと、さっきから口の利き方自体が失礼よ!!」


「うるさいなあ、リーセロットちんはー。

 ワタシも高位ハイヤーエルフについては、パパから詳しく聞いてるし!

 でも、マイカっちの中をよく見てみたら、かしこまった態度とかは、本人が望んでいないみたいだよ!」


「はい、その通りです。

 様を付けて呼ばれるのとか、面映おもはゆいというか、気マズイというか…

 はっきり言って好きではありません。」


と、マイカはアフネスの発言に同意した。


「ほら、タメでいいじゃん、タメで。」


「アフネスさんの言う通りです。敬語なぞ使わず、名前もマイカと呼び捨てにして下さい。」


「え…いや…」

「し…しかし…」


と、リーセロットとララはマイカの言い分に戸惑いを見せた。

 その二人の煮え切らない態度を見て、マイカは思い切って


「では私も敬語とかやめます。名前も呼び捨てにします。いや、する!

 リーセロット、ララ、そしてアフネス、よろしくね!!」


と、宣言するように言った。


「ヤッホー、マイカっちヨロピクー。

 ほら、リーセロットちんも、ララちんも!」


「…あ…マイカ…さん。」

「いや…マイカ…ちゃん?」


と、まだ躊躇ためらうリーセロットとララに対して


「マ!イ!カ!!」


と、マイカは強く念を押した。


「話が違う方にれちゃったねー。

 高位ハイヤーエルフについて全く知らないってことだったねー。

 じゃあ、高位ハイヤーエルフについての伝承を最初から説明するねー。

 高位ハイヤーエルフがワタシらエルフ種の頂点なんは、エルフの始まりだからなんよ。」


「エルフの始まり?」


「そうそう、元々エルフって、姿が、んー肉体が?無かったらしいんよね。」


「え!?肉体が!?」


「そー。魂そのものだけの存在?まー精霊みたいなもん?」


「精霊…」


「それが何らかの理由で肉体を持つようになってー、それが始まりのエルフで、高位ハイヤーエルフの姿だったの。

 その始まりの高位ハイヤーエルフを祖として庸常ノーマルエルフだの褐色ダークエルフなどが生まれたらしいんだよねー。」


「全てのエルフ種は、その始まりの高位ハイヤーエルフの子孫ってことか。」


「そうそう。それでね、ワタシみたいな庸常ノーマルエルフと、もしくは褐色ダークエルフと他人種とのあいの子を混血ハーフエルフって言うけどねー、元は庸常ノーマル褐色ダークも、高位ハイヤー常人つねびととの混血だったらしいんよ。」


「ふーん…じゃあ、この私の、高位ハイヤーエルフはどうやって生まれてきたの?」


高位ハイヤーエルフは、高位ハイヤーエルフ同士のつがいからしか生まれてこないっていうけどねー…

 でも、伝承では高位ハイヤーエルフ同士の夫婦の話って、一度も出てこないんだよねー。何せ、高位ハイヤーエルフ自体が何千年に一度現れるかどうかってレベルだからねー。」


「でも、私がここに存在するんだから何処かに居るんじゃないの?

 それで、高位ハイヤーエルフ同士の夫婦の赤ん坊として私は何年も前に生まれて、その記憶を失っているとかじゃないの?」


「うーん…それなら、マイカっちの本質を見極めている事で判る筈なんだけどねー…

 どうても、マイカっちは1ヶ月くらい前にこっちに来たばかりで、人格は、元のオッサンのまま…としか。それ以外は見えてこないんだよねー。」


「…じゃあ、別の人格に私の魂が乗り移ったという可能性はないのかな?」


「うーん…それも、ワタシの能力スキルなら視える筈なんだけどねー、元の人格、とか記憶?とかがね…

 でも、そんなん一切ないわー。」


「でも私、この世界の言葉も文字も最初から判ってたよ、誰にも習わずに。

 これって、やっぱり何年かこちらで暮らしていたからじゃない?」


「うーん…もしかして…始まりの高位ハイヤーエルフと同じなのかも、マイカっちは。」


「始まりのエルフと同じ…?」


「うん。始まりの高位ハイヤーエルフが魂そのものの存在から肉体を持った時って、突然、そこそこ成長した姿で、どっかからピョコッと出てきたんだって。」


「ピョコッと?」


「もしくは、バーンッて…よくよく考えたらオバケみたいね、始まりの高位ハイヤーエルフって。」


「オバケて…それと同じってか?」


 (いや、確かに今のオレってオバケみたいなもんか)


「それで突然現れたのに、全てを判っていた状態で世に出てきたんだって。」


「全てを判って?」


「うん。だからマイカっちが、こっちの言葉やら文字やらが最初から判っていたのも、そういう事なんかも?始まりのエルフがそうだったように。」


「でも、私、その他の事は何も知らないよ。どんな国があるとか、どんな人がいるとか、モンスターの事とか魔法の事とか…」


「それは、前世の記憶が邪魔してるとか?

 前世の記憶のせいで、この世界の情報が入る余地がなかったんじゃないかな?」


「確かに前世の事は全部覚えている!」


「まあー…マイカっちの生まれについては推定でしかモノ言えないけどねー。

 言ったとおり、ワタシの能力スキルでも見えてくるのは、前世のオッサンと、こっちの世界では、まだ1ヶ月くらいしか経ってないって事だけだからねー。

 大体、高位ハイヤーエルフってのは謎が多いんよねー。始まりの高位ハイヤーエルフ以外の伝承は殆どないし。」


「始まりの高位ハイヤーエルフの伝承について、他にはどんなのがあるの?」


「うん。オトコとオンナの高位ハイヤーエルフでー、世の中の事を全て知り尽くしているだけじゃなくてー、世の事は全て、その始まりのエルフの意志で決定されている、とか、色々と言い伝えがあるよー。」


「世の中の事を知り尽くしている、とか、全てその意志で決定される、とか…

 …それって、人というより…」


「そだねー、まんま神様だねー、まるでー。

 だからエルフ種が多くの人々に信仰されてるのは、その始まりのエルフのせいかもねー。

 でねー、一説によると、その始まりのエルフの二人はまだ生きていて、この世界の何処かに居るらしいんよ。」


「え!?じゃあ、もしかして私、その二人の娘ってことない?

 他に高位ハイヤーエルフの夫婦って、伝承にないんでしょ?だったら、その始まりのエルフの男女から私が生まれたとか。

 突然、世に出るってより、そっちの方が現実味ない?」


「んー、面白い説ねー。

 その二人の実の娘じゃないにしても、世の事全てを知ってたり、その意志で決定してるってんなら、マイカっちがこっちの世界に生まれ変わった事についても、何か知ってたり関わってたりするのかもね。」


「その始まりの二人は、生きているとしたら何処に居るのかな?」


「伝承について、ワタシはパパに聞いたんだけどー、パパも伝承を全部聞く前にエルフの里を出たからさー、みんな知ってる訳じゃないのよー。

 リーセロットちん、ララちんら混血ダークエルフには庸常ノーマルエルフほど詳しく伝わってないみたいだしー。

 だから判らないのよー。」


「…そっか…」


               第54話(終)


※エルデカ捜査メモ〈54〉


 混血ハーフエルフのアフネスも、褐色ダークエルフのリーセロットとララと同じく帝国創立期より仕えており、長い年月を生きてきている。(超長命種のエルフにとっては大した事のない年月ではあるが。)

 その、長い今までの人生の中で、アフネスは何度も話し方を変えており、現在の話し方は四周目である。

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