目次
ブックマーク
応援する
3
コメント
シェア
通報

第59話 『異世界初のカタログ販売?』

「…という訳で、私が警察の組織作りをやる羽目になったんだよ。」


「なるほどねえ、お前さんが言い出しっぺだから後には引けないってことか…うーん…」


 皇宮からヘルト商会帝都本部に戻ったマイカは、ハンデルとビールをみ交わしながら摂政エフェリーネとの謁見の様子を話していた。


「つい義憤から勢いで言ってしまったけど、やっぱりこの話、断ろうか?」


「そんな事出来る訳ねえじゃねえか!

 相手は摂政だぞ!この帝国のトップだ!

 お前さん、直臣にもされたみたいだし、もう腹をくくるしかねえよ。」


「でも、それだとこれからアンタの仕事を手伝うのが難しくなるかもしれない…ファッションモデルのとか…」


「ああ、仕方ないさ…その件については、俺も反省してる部分があるのさ。

 帰り際にリーセロットさんにも言われたけど…ヘローフ教の奴らが、まだ何処かでうごめいているらしい。だから、お前さんがエルフという事を隠しておくべきだった。」


「そうなのか?ファッションモデルの件では、皆、好意的に見てくれたし、多くの人が集まるから、かえって安全じゃないのかな?」


「ああ、でもその事でお前さんの名が響き渡ってしまった、園遊会の件も併せてな。

 大勢の人々に存在を知られてしまうきっかけを、俺が作ってしまった。」


「…また何かあったら守ってくれるんだろ?まあ、私も腕をあげていくし。」


「お前さん、これから何度も皇宮へ行く事になるんだろ?俺はその度にはついていけないし、今日みたいに迎えがある訳でもない。商会の他の者っても、お前さんより腕が立つのは俺だけだろうから、却って足手まといになっちまう。」


「うん、そうだな…じゃあ、自分で何とかする!

 あ!摂政さん、今度はケルンも連れてこいって言ったんだ。ケルンがいれば心強い。」


とマイカは、二人の酒盛りのご相伴に預かって、横手でチーズを食べているケルンの中央の頭を撫でながら言った。


「ああ、ケルンなら心強い相棒だな。

 でも、これもリーセロットさんに言われたんだが、お前さんを皇宮に住まわせるのはどうか?って。」


「皇宮に?リーセロットがそんな事…」


「おいおい、お前さんもそばで聞いていたじゃないか!

 …そういや、お前さん達、名前を呼び捨てで呼び合っていたな。どういう経緯でそうなったんだい?」


「ああ、私がエルフの中でも上位の高位ハイヤーエルフってやつらしいから、リーセロットもララも「様」付けで呼んだりして、堅っ苦しいの、苦しくないの。それで「様」付けとか止めてって言ったんだ。」


高位ハイヤーエルフ?初めて聞いたぜ。

 お前さん、珍しいエルフの中でも、更に特別だったんだな?」


「らしいよ。でも、そんなの私も知らないし。庶民の私にそんな口きかれるの、私の方が気を使ってイヤだったからさ。」


「まあ、お前さんも皇家の御直臣になったから呼び捨てでも構わないのか。

 摂政の秘書なんて相当な身分に違いないぜ。多分、爵位も持ってるんじゃないかな?それは聞いてないか?」


「うん、聞いてないや。今度会ったら聞いてみよう。

 で、私が皇宮に住むようになったら、益々ますますヘルト商会の仕事が出来なくなるじゃないか。」


「それは仕方ないさ。俺もこれから皇宮へはちょくちょく行くようになるから、その時にでも用向きの事を伝えるようにするよ。」


「ちょくちょく皇宮へ…って、それがアンタの恩賞に関わる事かい?何か、商売上の便宜を図る云々うんぬんとか言ってたね。」


「ああ、侍女や女中など、皇宮内で働く女性達の衣装や小物類を、全部ウチで用立てする事になった。」


「おー!それは凄いじゃないか!」


「だろ?しかも仕事用の物だけじゃなくて、私服や私物についてもウチの品物を買わせてくれっていうんだ。

 あ…でも、それはまたお前さんにモデルになって貰って購入の参考にして貰う算段だったんだが、無理になっちまったな…」


「え?無理じゃないだろ?一回、見せればいいんだろ?」


「一回じゃ済まねえよ。なんせ二千人からの客数だ。希望があればその都度って訳にはいくまい、これからは。

 あー、どうするかなー。」


「あ、じゃあさ、カタログ作れば…」


 (いや、絵を描くのはかなり時間がかかるな…それに絵だと、どんなに上手くても、やっぱり本物とは大分だいぶ違ってくるし…

 異世界こっちの文明進度から考えると、写真は無さそうだし…

 …ん?待てよ…写真…写真って、光学利用だよな…)


「カタログって何だい?マイカ。」


「…光学…光で…その空間の物を照らして…写し出す…

 …光の魔法!空間照射!!」


 マイカはそう唱えると、数メートル先の壁に掛かっている、風車を描いた絵画を右手人差し指で囲む仕草をした。

 すると、マイカが指で囲んだ空間に、数メートル先の絵画と全く同じ画像が浮かび上がった。


「マイカ、お前、それ!今、魔法って!?」


「ハンデル、紙持ってきて、布でもいい。」


 ハンデルが慌てて部屋を出て、一辺30cm位の白い正方形の紙を何枚か持って戻ってきた。

 するとマイカは、空中に浮いている絵画の画像の両端を両手で摘まむように持ち


「転写!」


と唱え、画像をテーブルの上に置かれた一枚の紙に押し付けた。

 マイカが魔法で映し出した画像は紙に移り、一ようの写真紙が完成した。

 紙に移った後も、元画像は消えず、空間にそのまま残っている。


「おお、やった!これなら一つの画像で何枚も写真が作れる!」


 どうやらマイカは、一枚きりではなく、何枚も写真を写し撮れる事をイメージしていたようだ。


「壁の絵と全く同じ物が、まるで複製されたように!マイカ、これは何だ!?

 魔法って言ったな?お前さん、魔法が使えるようになったのか!?」


「そう!皇宮の魔導講究處まどうこうきゅうしょって所の處長しょちょうに会ってコツを教えて貰ったら、光の魔法が使えるようになったんだよ!!

 あ、これは写真といってね、光の作用を利用すれば出来るものさ。」


「写真…?光の作用…?」


「うん。えーっと、私達の普段目に映ってるものってね、そのものズバリを見ている訳じゃなくて、光の反射を見ているんだよね。

 その反射した光を捉えれば、元のものと同じ映像を写し出す事が出来るって訳さ。」


「それは、お前さんが居た元の世界の?」


「うん。前世の世界での常識、というか、科学知識さ。その、写真を撮るための機械があったよ。

 さっき言ったのは、ほんの雑学程度で、私も詳しい事は知らないけど、巧くいったよ。」


「はあ…説明を受けても頭がついていかねえなあ…納得出来るまで時間がかかりそうだぜ。」


「ハハッ、じきに慣れるさ。これで私が商品を身に付けて姿を撮っていけば…

 って、あれ?これ、自分の姿は撮れないのか?」


 (そうだ、鏡に自分の姿を映して撮るってのは…いや、それよりも、オレが指で囲った範囲がレンズなりファインダーなりの役割になるみたいだから…)


「光の魔法、空間ー…」


 マイカがそう唱えると、マイカの右手人差し指の先が光り、マイカは部屋にあった、大きな姿見すがたみの外枠を、その、光る人差し指の先で囲むようになぞった。


「…照射!」


 マイカが唱えると鏡が光り、姿見に映ったマイカの全身の画像が浮き出るように姿見の前に写し出された。


「おっ、巧いこといった!よし、この画像を…」


 マイカは、空間に浮き出ている自分の画像の上部を手で押さえた。

 すると画像のたけが短くなり、次に両手で左右から挟み込むような仕草をして、画像を全体的に縮小していった。


「撮った画像を自由にトリミング出来る!イメージの通りだ!!

 よし、この縮小した画像を…」


 マイカは、その縮小した自身の姿が写っている画像の端を持って紙に押し付けた。


「転写!」


 マイカ自身の写真が出来上がった。


「よし!これで私が色んな服や装飾品アクセサリーを身に付けて、次々と撮っていった写真を編冊すればカタログが出来るじゃん!」


「カタログ…見本画の冊子ってことか?

 そうか!その見本冊子を見せて注文して貰えば…よし!それでいこう!!」


「ああ!ちなみに、こんな風に見本の絵とかの本を作っての商法とかは?」


「無いさ!聞くのも初めてだったぜ!!」


「じゃあさ、この世界初のカタログ販売ってことになるな?」


「ああ、そうなるな!

 カタログ販売か…本当に良い事を考えてくれたな!マイカ!!」


               第59話(終)


※エルデカ捜査メモ〈59〉


 前に魔導講究處まどうこうきゅうしょ處長しょちょうであるアフネスが言ったとおり、魔法は、その者が持っている属性に関わる事についてイメージ出来れば使えるようになるのだが、イメージさえ出来れば良いので、この度のように、雑学程度の知識しかない事柄でも、魔法として現出する事が出来た。

 この、イメージ出来れば良い、という事については、完璧にイメージさえする事が出来れば、現実には無いもの、理論すら完成していないもの、でさえも、魔法として現出可能である。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?