目次
ブックマーク
応援する
3
コメント
シェア
通報

第62話 『ベレイド家における酒宴~やらかしたマイカ』

 (え!?何だ?プロポーズ?今の、プロポーズの言葉だよな!?

 初対面なのに、何なんだコイツ!!)


「何を言っておるのだマルセル!マイカ殿が困っておられるではないか!!」


「おお!団長か!!いつ参られたのだ!?」


 いつの間にかベルンハルト近衛騎士団長がやって来ており、マルセル近衛騎士団2番隊隊長の横に立っていた。


「さすがは団長ですな!誰にも気付かれずに近寄って来られるとは!!」


「この酒宴は無礼講と聞く。団の序列は排して普段通りに話せ、マルセル。」


「おお、判ったベルンハルト!貴様、突然現れるなり叱責とは、いい度胸ではないか!!」


「当たり前だマルセル。お主、マイカ殿のお気持ちも考えず、いきなり求婚とは…

 失礼にも程がある!大体、初対面ではないか!!」


「うむ、最も!だが我が想いを押さえられなんだ!!

 クライン村のノーラ少女よりマイカ殿の話を聞いてからというもの、想いは募る一方だったからな!!」


「それが一方的だと言うのだ!

 そもそもマイカ殿は男……

 おっ!いや、何でもない…」


「何だベルンハルト!?そもそもマイカ殿が男…どうとか!?

 はっ!既に男が…想い人がおられるというのか!?

 さては、そこに座っておる男!中々の色男だが、そなたがマイカ殿の想い人であられるか!?」


と、マルセルは同じテーブルに相席しているハンデルに向かって言った。


「私は、マイカにとっては只の雇用主でございます、マルセル隊長閣下。」


「ほう!マイカ殿の雇用主とあらば、名高い闘商ハンデルとは、そなたか!?

 なるほど!只者ではなさそうだな!!」


「ああ、先程お主は私が誰にも気付かれずに来たと言ったが、この中でハンデルうじのみが私の動きを捉えていた。

 …商人として成功されていなければ、間違いなく近衛騎士に迎えたい傑物けつぶつだ。」


 ベルンハルトが、そのようにハンデルをマルセルに紹介した。


「あの…ベルンハルト団長閣下は、私が男嫌いとおっしゃりたかったのでしょう。

 ところでマルセル隊長、マルセル隊長はクライン村でノーラに会われたのですか?」


 マイカはノーラの名前が出た事が気になり、マルセルに尋ねた。


「うむ、会ったぞ!そこのベルンハルトからマイカ殿より預かった品物をクライン村のノーラ少女に渡すように言われたのでな!!」


「マルセル隊長が届けて下さったのですか?それは有難うございます。」


「うむ!その後ノーラ少女がマイカ殿の手紙を読んで聞かせてくれてな!

 何と素晴らしく愛の込もった手紙なのだろうと感心し…惚れてしまったのだ!!

 それに、ノーラ少女は更にマイカ殿の事を…」


と、マルセルはマイカの目を見つめていた視線を一瞬、胸元まで落とし


「マイカ殿のマイカ殿はとても大きいと言ってな!うむ!まさに母性のかたまりと言うべきかな!!」


 (今、マルセル隊長の視線がオレの顔から30cmほど下に落ちたのを感じた!

 …ノーラが何を言ったのか理解できたぞ…さてはマルセル隊長、おっぱい星人か!?)


 マイカは心で思い、言葉には出さなかったが、無意識に両手を胸の前で交差させて隠すような素振りをしたため、マルセルの言葉の意味が、マイカ本人だけではなく、周りの人にも判ってしまった。


「ゴホンッ!マイカ殿のマイカ殿は置いといて…それよりマルセル、お主、何か預かってきたのではないか?」


「おお、そうだった!忘れておったわ!!

 よく気付かせてくれたなベルンハルト!!

 マイカ殿、これを!!」


と、マルセルは上着の内ポケットから一通の封書を取り出し、マイカに渡した。


「…手紙?」


「そうだ、手紙だ!ノーラ少女からマイカ殿宛の手紙だ!!」


 (ノーラ…)


 マイカが受け取った手紙を胸に抱いたまま、じっとしていると


「どうされた?読まれぬのか!?」


と、マルセルが聞いてきた。


「後で一人で読みます。私宛ですし。」


 マイカは無意識だが、やはりマルセルに対しては冷たい口調になっている。


「あ、読み聞かせて頂きたいですわ。

 クライン村とは、マイカさんがお救いになった旧コロネル領の村でしょう?

 そこの少女との交流…是非、知りたいですわ!」


と、ベレイド子爵夫人ソフィーが口を挟んできた。


「あっ!私も…

 マフダレーナ伯母おばさまもハンナも聞きたいですわよね?」


と、皇宮侍女セシリアもソフィーに同調した。


「はい、まさに!」


と、マフダレーナが同調し


「はい、私も同じく!

 その手紙を読んで下さいマイカさん!」


と、ハンナも同調してきた。


「マイカ殿、私からもお願い致す。

 その手紙を読んで頂けまいか?」


と、ベレイド子爵まで要請してきたため、マイカは


「判りました。では、今から声に出して読んでいきます。」


と、ノーラからの手紙を皆に読み聞かせる事を承諾し、椅子から立ち上がって読み始めた。


  大好きなエルフのお姉ちゃんへ


  お姉ちゃんからのお手紙読みました。

  お姉ちゃんが無事帝都に着けて、元気

 でおられて嬉しいです。

  帝都でも事件を解決したんだね。騎士

 様から聞きました。騎士様からいきなり

 お礼を言われてビックリしちゃった。


  手紙と一緒に送ってもらったお金です

 が、使わずにとっておきます。

  お姉ちゃんが今度来た時に返すね。

  もう大丈夫です。村はお姉ちゃんのお

 かげで救われました。

  なので、もうお金は送ってこなくてい

 いからね。


  うん。夢は絶対叶えるよ!

  幼年学校には12歳まで入れるから、

 まだ2回もチャンスあるし!

  何もかもマイカお姉ちゃんのおかげで

 す。

  ありがとう。

  アタシね、お姉ちゃんはね、神様が遣

 わしてくれた救世主だと思ってるの。


  本当に大好きよ、お姉ちゃん。

  いつまでもお友達でいてね。

  また会えることを心から楽しみにして

 います。


  大好きなマイカお姉ちゃんへ

  ノーラより愛を込めて


「良いお手紙ですわね…」


「本当ですわね…」


「マイカさんが、どれほどその少女に心を尽くしたかが、よく伝わってきますわ。」


「心からの愛が込もった手紙ですね…涙が出ちゃった。」


 ソフィーとセシリア、マフダレーナとハンナが目を潤ませながら感想を述べた。


「ウ、ウ、ウオオォーーン!!」


 マルセルがこらえていたものを爆発させたかのような大声を上げて泣き出した。


「何という心の込もった手紙だ!何という愛だ!感動した!!」


 (何なんだよコイツは!さっきから、やたら声デカイし。

  当のオレの感傷が何処かに行ってしまったじゃないか!

 …まあ、手紙を届けてくれた礼くらいは言っておくか。)


「マルセル隊長、ノーラからの手紙を届けて下さり、有難うございました。」


「何の!マイカ殿から受けた大恩に比ぶれば微々たるものだ!!

 それに、マイカ殿だけでなくノーラ少女とも知り合えた事を嬉しく思う!なんという思いやりに溢れた少女だ!!」


 (あ、ノーラの事をそういう風に褒めてくれるのは嬉しいな。)


「はい。本当にいい子なんですよノーラは。」


「ええ、私達もまだ会っていないノーラという少女が好きになりましたわ。

 帝都の幼年学校に入るのが夢ですの?帝都に来れたら私も是非会いたいですわ。」


「はい、子爵夫人。ノーラは必ず幼年学校に入学できると思います。

 その時、ここにおられる皆さんに紹介します。」


 その後マイカは席を立ち、他のテーブルに居る人達に挨拶をしに行った。

 ふと、マルセルがついてこないか気になって見たが、マルセルは大勢の人に囲まれ楽しそうに歓談している。


 (何だ、意外にも人気あるんだなアイツ。)


 マイカが宰相府の役人ら数名と立ち話をしているとマルセルが近寄ってきたため、その場から立ち去ろうとしたところ、急に下から風が巻き上がるのを感じた。

 いつの間にかレフィが後ろから近付いてきて、マイカの若草色ワンピースの裾を思い切りまくり上げたのだ。


「あっ!」


と、マイカが後ろを振り返ると、素早く立ち去るレフィの姿と、片膝をついて両手を拝むように合わせているマルセルの姿が見えた。


 (なに拝んでんだコイツ!

 って、レフィ!あのクソガキ、さっき謝りにきたばかりなのに、また!

 今度という今度こそゆるさん!!)


 レフィがあるテーブルの下に隠れたので、マイカもそのテーブルに行き、テーブルクロスを捲ってテーブル下を見たが既に居ない。


 (クソッ!何処へ逃げやがった!!)


 マイカが棒立ちになって大広間内を見渡していたところ、また後ろから風が巻き上がるのを感じ、ワンピースの裾を捲り上げられた。


「そこかっ!!」


 マイカが振り向きざまにそこに居た子供の頭を


「ペチンッ!」


った。

 …だがレフィではなかった。

 年頃はレフィと同じくらいだが、見覚えのない

   金髪 坊っちゃん刈り

   濃い青色の瞳

   やや痩せ型

の子供が、マイカにたれた頭を両手で押さえていた。


「あれ?レフィじゃない!誰?この子。」


 それまで多人数の話し声で騒がしかった大広間内が水をったように静まりかえった。

 その中、顔面を蒼白にさせたベレイド子爵が近付いてきてマイカに言った。


「マ、マイカ殿…こ、こ、こちらにおわすは、こここ、皇帝陛下にあらせられますぞ!!」


「………はい?」


              第62話(終)


 エルデカ捜査メモ〈62〉


 今回ベレイド子爵が主宰した酒宴などは貴族同士においては、よく行われている。

 貴族同士の交流を深めたり、お互いの家族の付き合い等を良好にしようという目的が多いが、宮廷内における勢力拡大を図るための派閥を作る目的のものも多い。

 これら貴族の私的な酒宴や会合は、先帝ヨゼフィーネ女帝時代には必ず届出(帝国宰相へ。宰相から皇帝へ上申し決裁を受ける。)が必要であったが、崩御後、僅か2ヶ月ほどの今、その届出制度が崩れてきている。

 今回のベレイド子爵の酒宴は勿論、摂政エフェリーネへ届出・認可済みである。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?