ベレイド子爵家における酒宴も
しかし、謁見の人物はラウムテ帝国の貴族でも臣民でもない。
その人物は他国の使者であった。
他国の使者はただ一人で供も連れていなかった。
その使者は
年齢40歳がらみ
綺麗に整えた茶色短髪
中肉中背
の見るからに紳士然とした男性であったが、エフェリーネとその秘書官リーセロットが待つ執務室に入るなり、二人の目前で
身長約170cm
ずんぐりむっくりな体型
焦げ茶色のボサボサ短髪
目の周りと鼻の頭が黒い
まるっきりの別人の姿の男性に変化した。
この男性、頭上に獣のような半円形の耳を持ち、腰部から髪色と同じ焦げ茶色の毛並みを持つ太い尻尾が生えている。
「お初にお目にかかりやす摂政殿下。
あっしはステルクステ騎士団団長ペトラ・リデルの副官、アードルフと申しやす。以後お見知りおきを。」
「お久し振りですね、アードルフ殿。」
「へい、お久し振りでやんすね、リーセロット殿。」
リーセロットは、いつも耳を隠すように深く
どうやら旧知の間柄らしく、エルフである事を隠さなくてもよい相手のようだ。
「アードルフ殿、変化の魔法をお使いになってお姿を変えておられたのは、やはりへローフ教の連中の目を
「へい、さいでやんす。あっしの
それはさておき本題に入らせて頂きやす。
我がステルクステ騎士団領はラウムテ帝国との攻守同盟を白紙に戻し、名誉ある中立国へと戻ることとなりやした。」
「……元々母上の…ヨゼフィーネ大帝の生ある限りということでしたものね、この同盟は…」
「ええ、さいでございやす摂政殿下。
この同盟は我が団長ペトラとヨゼフィーネ陛下の個人的
ですので、ヨゼフィーネ陛下が御崩御なさった今、無効となるのは当然のことで。」
「…同盟継続の交渉の余地は無いのでしょうか?」
「へい、団長ペトラは同盟
それと、何やら近頃帝国内で噂の、白金色の髪のエルフ少女とも会いたいと。
お二人が来て頂けるのなら、その折にでも話してみれば良いかと存じやす。」
「私はともかく、マイカ殿まで
「リーセロット殿は御存知の筈。我が団長ペトラが女の身でありながら、男よりも女性の方を好む
あと、そのマイカ殿でやんすか?マイカ殿が飼い慣らしたケルベロスの子も見たいと申しておりました。」
「…同盟締結の際には、母ヨゼフィーネ大帝が直々にステルクステ騎士団領に向かいました。ですので今回は、
「へい、ペトラは今の皇帝陛下や摂政殿下には興味がない…いや失礼、失礼ながらそう申しておりやして、来て頂くのはリーセロット殿と、そのマイカ殿、そしてケルベロスの子だけで結構でございやす。」
「…判りました、リーセロットとマイカ、ケルンの3名を貴国へ派遣致します。」
「早速の御返答
交渉の結果に関わらず、その御
「その点については心配しておりません。誉れ高きステルクステの皆さんが闇討ちのごとき真似など絶対にしないことを
ですので他の随行員も付けずに、その3名のみで向かわせようと思います。」
「へい、我がステルクステ騎士団を上げて歓迎致しやす。」
「…御用件は以上でしょうか?使者殿。」
「へい、左様でございやす摂政殿下。」
「それでは、急のお越しゆえ充分なもてなしの準備は出来ておりませんが、どうぞ今宵はお泊まり下さい。
当皇宮においては天然温泉が湧いております。どうか旅の疲れを癒して下さい。」
「お心遣い感謝致しやす摂政殿下。
しかし、一刻も早く御返答をペトラの元へ持ち帰りたいので、あっしはこれにて失礼致しやす。」
そう言ったアードルフの目が妖しく光り、アードルフの姿が、現れた当初と同様の
年齢40歳がらみ
綺麗に整えた茶色短髪
中肉中背
の見るからに紳士然とした
「では、これにて。」
と、一言残してアードルフは摂政執務室から去っていった。
第64話(終)
※エルデカ捜査メモ〈64〉
ステルクステ騎士団領はラウムテ帝国北西と境を接する約300名の騎士が治める小国である。
国民皆兵策を施き、ラウムテ帝国との攻守同盟締結前は長年に渡り中立を保ってきた。
領域北方をへローフ教を国是としたフリムラフ教国と接しており、度々フリムラフ側からの侵攻を受けてきたが、その都度撃退している。
ステルクステ騎士団団長ペトラの副官アードルフは
フリムラフ教国、へローフ教の者達はアードルフのことを
狸の皮を被った鬼人
と呼び、恐怖と憎悪の対象としている。