「オニ党のアンナ=ヴェイングロリアス様ですね、こちらへ」
ヘイシ村を経ってから数日後、アンナは一人王宮に居た。
門前で衛兵に身分証を提示すると、すんなりと中へ通される。
振り返っても、仲間たちの姿は無い。
シュテン達は宿で留守番である。
なんでもメイ曰く、証言であれば直訴状を提出した本人が居ればよく、あまりぞろぞろと引き連れて行くべきものでは無いとの事。
なにか上手くいなされたようにも感じるアンナは、石畳を踏み締めながら頭を搔く。
「アンナ嬢!」
声がした方へ首を振ると、カティが手を振りながら近づいてくるところだった。
「よく来てくださった」
「いや、宛のない旅ですから」
アンナが笑みを返すと、カティも微笑む。
「そう言って貰えると助かる。さて、陛下がお待ちだ。案内しよう」
髪を翻し、堂々とした佇まいで歩き出す。
アンナは、そんなカティの後を追いながら、その後ろ姿を眺め、「ふふっ」と息を漏らした。
この人の気品や所作こそ一流だが、どこか貴族らしからぬフランクさがあるな。
そんな事を思いながら、王宮の廊下を進む。
じきに、大袈裟な扉の前へ着くと、カティがこちらへ振り向く。
「この先が謁見の間だ。貴君なら大丈夫だとは思うが…失礼のないように、な」
アンナは襟を正し、頷く。
それを見たカティが衛兵へ目配せすると、扉が音を立てて開く。
中には重臣たちがずらりと並び、正面の一段上がった場所にある、絢爛豪華な椅子には誰も座らず、傍に宰相が立っていた。
「冒険者パーティ『オニ党』メンバー、アンナ=ヴェイングロリアス、前へ」
宰相の号令に合わせ、アンナは謁見の間へ足を踏み入れる。
重臣たちの間に敷かれたカーペットの上を進み、先頭へ出たタイミングで跪く。
「アンナ=ヴェイングロリアス、参上致しました」
「…では、陛下の御成りである」
宰相の声に併せ、重臣たちも跪く。
正面、椅子の奥から靴音が徐々に近付き、止まった。
「皆、表を上げよ」
重臣たちが一斉に立ち上がる。
その音が鳴り止む頃に、アンナも腰を上げた。
視界を上に向けると、国王レキの姿が目に入る。
椅子に腰掛けた初老の男は、その威光を象徴するように、側頭部を三日月状に炎の輪が煌めいている。
火炎魔法は、王族のみに継承される固有魔法だ。
初代国王である勇者タイカより受け継がれるその魔法は、その威力を象徴する炎の輪が頭に顕れるのが特徴だ。
一般には炎冠とかフレイムティアラと呼ばれ、王族が持つ権力の象徴となっている。
「アンナ嬢、わざわざの参内大変ご苦労である。早速であるが、事件について二三聞きたいことがある」
それから暫く、事件についての事情聴取が行われた。
新進気鋭の黒爵であったパイナスレングスの不祥事であるだけに、重臣たちも動揺が隠せない様子で、場内のどよめきが止まらなかった。
「はぁ…」
一時間に及ぶ聞き取りからようやく解放され、王宮の廊下を歩くアンナは深い溜息をついた。
「やぁアンナ嬢、お疲れのようだな」
多少猫背になっていたアンナと対称的な、シャキッとした良い姿勢でカティが迎えに来る。
「そりゃあまあ、ね…」
「そんな所に済まないが、実はもうひとつ来て欲しい所があるのだ」
「え?」
カティは付いてくるように促すと、門とは逆方向へ歩き出す。
「……?」
アンナはとりあえず、その後を続いた。