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20 天敵登場

リカの予備ドレスは極簡単な白いワンピース。

急いで着替えして休憩室から出たら、廊下にイズルの姿はなかった。

「……やはり、馬鹿か」

リカはサーブルのケースから青野翼の採点スマホを取り出して、GPSでイズルのスマホを追跡した。


遠く行ってないのを見たら、リカは少し安心した。

すぐGPSにフォローして、ホテルの裏側の小さな庭まで追いつけた。

こちらの庭はパーティー会場のような明るい照明がなく、花壇の中に数点の淡い光だけが灯っている。

ガラス窓の向こうから、イズルが庭の真ん中に立っているのを見える。


急いで庭に入ったリカに、イズルは全く反応がなかった。

ただ夜と一体になった石像のように佇んでいる。

「どうしてここに?動くなと言ったでしょ」

リカは単刀直入に聞いたら、イズルは音もなく振り返った。

錯覚なのか、彼の目から氷の結晶のような光が煌めいた。

そして、イズルの声も凍り付いたように平穏で、冷たかった。

「死者を蘇らせる異能力は、ありますか?」

リカの心臓は強く鼓動した。

今の言葉で彼女は確信した。先ほど潮の隣にいた女は、「例の人」だった。彼女は自分の任務を邪魔しに来たのなら、必ずイズルに手を出す。

イズルを殺すのか、それとも誘うのか。

―――

騙されないで。

あれは幻術のような異能力。

一定の時間内で、あなたの精神を干渉して、彼女を特定な人物に認識させる異能力だ。

―――

リカはイズルに本当のことを告げようとしたが、躊躇って口を噤んだ。

イズルは自分を信用する理由がない。

自分もあの人も同じ万代よろずよ家の人、同じイズルを利用しようとしている。

あの人はイズルを害する、自分はイズルを害しない証拠はどこにもない……


「……ないとは言えない。でも、私は見たことがない」

リカは目線を逸らして、イズルに曖昧な返事をした。

「ないと思う」

「!」

けど、イズルは強い口調で否定した。

「オレの家族はもういない。オレの前で旅立った。彼たちを利用してオレを騙すことは、彼たちへの最大な侮辱。もし、誰かがそのようなことを企んでいるなら、奴らに知らせてやる。オレの家族を利用する代価は、想像もつかない高いものだ」

「!」

今、リカははっきりと感じた。

イズルの冷気は無数の氷柱になっていく。

そして、氷柱は青い火炎のように燃え上がる。


その時――

「シ―イ―オ――!!」

青野翼の叫び声は庭に侵入した。

「一体どこに行ったのですか?探しましたよぉぉ!!」

青野翼は大げさにイズルに突進したけど、イズルに両肩を掴まれて、腕一本の距離に止められた。

イズルは死神のような顔で低い声を発した。

「万代家の人がきている。お前は言わなかった」


青野翼は「なるほど」と笑って、リカに目線を投げながら小さい声で返した。

「万代家の人への対応は、彼女の役目ですから」

「……」

「放っといて、漁夫の利を待てばいいです。それより、英子さんはCEOを探しています。かなりお急ぎのようです」

「お急ぎ?何があったのか?」

「いいえ、別にお急ぎの要件ではないと思います。趙氏ちょうしし財団の社長夫婦と一緒にいます。趙氏のお嬢様はCEOに会いたいとおっしゃいました」

「!!」

イズルは反射的に震えた。

さっきの暗い状態から一気に通常に戻った。

「………………」

数秒もがいたあげく、イズルは嫌々でリカに向かって、雨でびしょぬれになった子猫のようにリカに頼んだ。

「すみません。約束します。もう変なことをしません。だから、助けてほしい」

?!

イズルの表情の変化の速さにリカは驚いた。

しかも、その表情は今までの薄っぺらな演技と違って、本当に困っているように見える。


青野翼は二人を二階のロビーまで案内した。

壁際のソファの前で、会話している中年夫婦と一人の貴婦人がいる。

「あそこにいるのは趙氏財団の社長とその奥様……」

「イ、ズ、ル、お兄――ちゃん——————!!!」

青野翼はリカに紹介する途中、いきなり後ろから高い叫び声が届いた。

三人が振り返ると、どこから黒い影が走ってきて、一点の銀色の光と共に猛スピードでイズルに突き込んだ。

「!!」

イズルもまた疾風のような動きであの黒い影を食い止めた。

――

黒い影の正体は、ポニテールと深緑色のドレスの少女だった。

少女は頭をイズル胸に突き当てて、手に握っている何かをイズルの腹に刺そうと必死に力を入れている。

しかし手首はイズルに掴まれて、これ以上一ミリも刺せない。


イズルの顔に無理矢理に作られた笑顔が現れて、目に怒りの煙でも吹き出そうな抵抗感が見える。

奇愛きあちゃん、お久しぶり。相変わらず、独特な挨拶ですね」

「イズルお兄ちゃんこそ、いつもよそよそしい。お土産も受け取ってくれないなんて、奇愛ちゃん、悲しいです」

イズルに負けないくらい、少女は強引的に作った笑顔と切歯扼腕の口調で言葉を返した。

リカはちょっと移動して、やっと少女の握っているものが見えた――銀色に輝くナイフだった。

止められなかったら、そのナイフはすでにイズルの腹に刺し込んだ。

「あらら、奇愛ちゃんとイズルは相変わらず仲がいいですね」

趙氏夫婦と会話をしていた貴婦人は優雅に微笑みながらイズルと奇愛に近寄った。

リカは資料でこの人を見たことがある――イズルの伯母の英子ひでこだ。

英子は片袖のワイン色ドレスを身にまとい、首にルビーと黒曜石のネックレスを付けている。黒い髪はきっちりと頭の後ろにまとめられていて、そのシャキッとしたイメージはとても六十歳に見えない。

資料によると、表面に出ることが少ないが、彼女は神農グループの人間関係をまとめる重要な役目を担っている人物だ。

グループの後継者であるイズルの結婚のことにいつも心かけている。


「奇愛、何をしている。ちゃんと挨拶をしなさい」

英子の後についてきた中年男子――趙氏の社長は顔を引き締めて少女を叱った。

どうやら、この奇愛という少女は趙氏のお嬢様だった。

「お父さんは分からないの、イズルお兄ちゃんといつもこうやって遊んでいるのよ!」

奇愛は鼻でフンをして、イズルから離れた。

そしてナイフを高く上げて、思い切り自分の腹に刺した。

!!

皆の反応にも待たなくて、そのナイフは「ポンッ」と奇愛の腹から弾けた。

よくできたおもちゃだった。

「ちょっと、奇愛!ダメでしょ!こんなものでみんなを驚かせちゃって、早く謝って!」

小柄の中年女性――趙氏の奥さんは奇愛の背中を叩いて、頭を下げるように催促した。

「いいのいいの。仲のいい幼馴染だもの。このくらいの遊びは全然平気ですわ」

イズルの代わりに、英子はこの「ちょっとやりすぎ」な遊びを認めた。

それを聞いたイズル本人は白目をむいた。


奇愛はへへっと笑って、踵を返してリカに話をかける。

「このお姉ちゃんは、噂のイズルお兄ちゃんの恩人さんですね!お姉ちゃんは綺麗!特に服のセンスがいい!イズルお兄ちゃんと全然違います!」

「?」

イズルの服のセンスはよくないってこと?

リカは困惑そうにイズルを覗いた。

あの派手なドレスセットは、もしかしたら、報復じゃなくて、ただセンスが悪かったから?彼の人柄に誤解したの?


「聞きましたよ、イズル」

英子は話に割り込んだ。

奇愛に対する優しさが消えて、厳しい顔をイズルに見せた。

「恩返しは当たり前なことですが、恩人さんと毎日くっついているのは問題があると思います。特に、相手は若い女性です。距離が近すぎると、お互いにも迷惑をかけますよ」

イズルへの教訓が終わったら、英子は向きを変えて、リカに圧迫な質問をかけた。

「リカさんもそう思いますね?」


また、姑目線か……

とんでもない誤解だけど、リカは説明するつもりはない。

もともと、イズルの隣にいる理由は人に教えてはいけないものだ。

それに、変な嘘をつきたくない。

リカは英子さんの目に直視していて、堂々と返事をする。

「思いません」

「!!」

「実際に問題は起きていないし、ご想像のことも何も起きていません。周りの勝手な想像こそ、お互いに迷惑をかけると思います」

「!」

「あんた……!」

リカの反応は英子の想像外のものだった。

「イズルにその気はない」という方向より、「邪魔しないで」の方向で英子は誤解し続けた。

なるほど、お約束の反抗的なシンデレラじゃないか。

こうやってわざと反抗的な一面を見せたから、お坊ちゃまのイズルは新鮮味を覚えて、恋だの愛情だのと勘違いして、リカの手に落ちた。

今の女子、よくもこんな手段を!

英子の怒りは一直線に昇っていく。

「リカさん、よく聞いてください。いくらあなたがイズルの恩人だとしても、うちは由緒の知らない女を受け入れるような……」

「すみません。伯母さん」

イズルは英子の話を断ち切って、リカの前にでて、英子に頭を下げた。

「すべてはわたしのせいです」

「イズル……?!」

「本当のことを教えてあげましょう」

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