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21 愛情じゃない、恨みです!

イズルはリカに小さく頷いてから、今までのない真剣さで英子に告げる。

「リカさんはわたしの命の恩人ではなく――医師です。」

「!!」

「実は、あの事件があってから、わたしの精神状態はかなり不安定になっています。伯母さんはもう気付いたのかも知れません。今の私は、以前のわたしと大分雰囲気が違いますね」

「……」

英子は戸惑った。

確かに、イズルは以前と違う。時々幼稚そうな言動も見せる。

事件の後、親戚やグループの要人との個別対面もほとんど避けている。

まさか、本当にそのような事情があるの?

「わたしの主治医はリカさんの両親です。お二人は外国で働いている有名な精神科の医者さんです。リカさんはわたしの日々の状態を両親に報告して、治療をサポートしています。CEOの精神状態は不安定のことがバレたら、神農グループによくない影響があります。ですから、こうやって秘密治療をやっています。もし必要があれば、この件の資料を青野翼に送らせてあげます」

そう言いながら、イズルは愛しい何かを見るような柔らかい目線でリカを見つめる。

「たまに、彼女を見る目線がおかしいかも知れませんが、それは可哀そうな病人が医者さんに助けを求める目線です。これ以上誤解しないでください。彼女に申し訳ないです」

「……」

英子は返す言葉も見つからない。

趙氏財団の社長夫婦も何が何だか分からなくなるような表情になった。

「おじさんもおばさんも、大変申し訳ありません。お見苦しいところを見せていましまた。趙氏と神農は長年のパートナーです。わたしの精神病のことを、内緒していただけませんか?」


世間知らずの甘えん坊、愛人いっぱいの暴力狂人、小学中退、無能CEO、いじめられる弱虫、精神病患者……この人の設定はますますひどくなっているんじゃない。

何が本当か何が嘘か、リカはもうつっこみ気力さえ失った。


「プッハハハハ!!」

最初に沈黙を破ったのは奇愛の笑い声だ。

奇愛はリカに一目をして、英子の手を揺らしながらねだった。

「英子おばさん、お兄ちゃんとお姉ちゃんと遊びたいから、放っといてください」

「でも……」

まだイズルとリカの関係に疑問を持っているが、奇愛の頼みは断りずらい。

英子は一ため息をついて、頷いた。

「分かったわ。何があったら、すぐおばさんを呼んでね」


英子と趙氏夫婦の姿が視野から消えた途端に、奇愛はハンドバッグから名刺を出して、興奮そうにリカに渡した。

「お姉ちゃん、これはあたしの連絡先です!毒針、刀、拳銃、毒薬、農薬、爆薬、電気警棒……凶器なら何でもある!必要になったらいつでも連絡してね」

リカがまだこの独特な挨拶を理解していないうちに、イズルは代わりに返事をした。

「彼女はそんなものに興味ない。お気遣い無用だ」

「今は興味がなくても、イズルお兄ちゃんと一緒にいたら、早かれ遅かれ興味が湧いてくるわ。こんなきれいなお姉ちゃんの一生は台無しになった未来を見たくないの」

「一生は台無し?どういうこと?」

リカはやはり理解できないから、二人に会話に口を挟んだ。

すると、奇愛はハンカチで鼻と口を押えて、しくしくと泣くような悲しい声で語った。

「知り合いのお兄ちゃん四人、お姉ちゃん三人、全部このイズルというやつのせいで人生がめちゃくちゃになった……悲劇です、悲惨です……ここで明かしたら、このイズルはあたしに手をかけるかもしれない……だから、お姉ちゃんに名刺を渡すことしかできない。お姉ちゃん、頑張って生きてください!」

言い終わったら、奇愛は走ってどこかに消えた。

来るのも慌ただしく、行くのも慌ただしい。

変な娘だ。

英子との関係はよさそうなのに、イズルに恨みがあるように見える。


無人の廊下に来たら、奇愛はさっそくスマホで電話をかけた。

「イズルの奴は来ている。計画通りにやって。大丈夫、あたしが邪魔されないように見張っている。ゆっくり遊んであげて」

電話の向こうからの「ありがとう」を聞いたら、奇愛は花が綻ぶように笑った。恋愛中の少女そのものだった。


「かわいい子ですね。あなたと一体何の恨みがあるの?」

リカは手元の名刺を見た。

ゴ〇ラのような怪獣が描かれている。

イメージはなぜか持ち主の奇愛に連想させる。

「かわいいという言葉に何か誤解でもありますか?」

イズルはため息をついた。

周りを見たら、青野翼はいつの間にか消えた。

念のため、「医師の話」の資料を用意してもらう。

青野翼にメッセージを送ってから、イズルはリカを二階のバルコニーに連れてきた。

ここは人が少ないし、下のパーティー会場の状況もよく見える。

いい話ところだ。


「恨みですね……あると言えばあるかもしれないが、オレのせいじゃない」

イズルは両腕を垣立において、まず強めの口調で言っておいた。

「あの趙氏夫婦はもともと趙氏財団の第一継承人ではない。前の継承人がやがくれたせいで、いきなり抜擢されました。能力不足でいつも財団のことで手いっぱい、娘の世話をする余裕もなく、娘の本当の姿も知りません。ただの反逆期の子供だと思いこんでいるようです。だから、あの奇愛はやりたい放題です」

「一昨年、奇愛はただ16歳。好きな男を手に入れるために、その男が尊敬する兄を毒殺しようとしたんです」

そう言って、イズルは頭を両腕の中に沈ませて、口調もかなり暗くなった。

リカは眉をひそめて、自信なさそうに呟いた。

「あの男は……両性愛者、なの?」

「はっ?」

イズルは反射的に頭を上げて、目をぱちぱちしてリカを見た。

その反応を見たら、リカの口調は更に不確定になっている。

「あの男の兄は両性愛者、あるいは同性愛者、じゃなかった?」

「その発想はどこから……?」

「理論上で、奇愛はあの男が好き、とあの男が兄に尊敬、この二件は矛盾ではない。兄を殺さなくてもあの男を手に入れられる。もし殺さなければならない状況であれば、あの男は兄が好きか、あるいは兄はあの男が好き、この二つしか考えられない」

「…………」

イズルは再び頭を両腕の中に沈ませた。前より深く。

「コミュニケーションできない理由が分かったのかもしれない。オレたちの脳回路は違う言語でプログラミングされたらしい」

「確かに、嘘のコードでできた脳回路は理解できない。どんな優しい顔を見せても、『利益収穫』の時が来たら、その優しい顔のままで裏切ることもできる」

その言葉に冷ややかな意味を感じて、イズルは再びリカに目線を向けた。

「嘘でできた……裏切る?オレのこと?」

「……!」

聞き返されたら、リカも気付いた。

さっき言ったのはイズルのことではない……

何かを返事しようとしたが、突然に、一階の会場で「例の人」の姿を見つけた。

「人のいないところに行くなよ!」

イズルに厳重に警告してから、リカは垣立を乗り越えて、そのまま一階の会場に飛び降りた。

「?!」

そのいきなりの行動に、イズルは呆気にとられて、リカが会場を横切る走り姿をぼうっと見ていた。


奇愛は会場に戻ったら、ちょうどリカが飛び降りた姿を見た。

何があったのか分からないが、バルコニーにいるイズルは一人になったみたい。

チャンスだ。


イズルは青野翼を呼んでリカに追いかけようと思ったが、

向きを変えると、奇愛に行く手を遮ぎられた。

危険そうな甘い笑顔で奇愛はイズルに話をかける。

「イズルお兄ちゃん、英子おばさんは怒ったのよ。今日はもう帰るって。止めてあげなくていいの?」


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