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39 選ばれた場所

最後に、あかりは白鳥ボートのチケットをイズルに渡した。

そして、リカの腕をギュッと抱きしめて甘える。

「白鳥ボートを乗りたい!お姉ちゃん、お兄ちゃん、連れてって!」

あかりの思うままになりたくないイズルはわざと困りそうな表情を作った。

「ごめんね、あかりちゃん。わたしは子供を連れて白鳥ボートを乗るようなことをしたら、あなたのお姉さんに怒られますよ」

「……」

その返事を聞いたら、あかりの笑顔が一瞬で失望になって、目が潤んでリカから離れた。

「お姉ちゃんの仕事はこのお兄ちゃんのお世話だよね?彼が行かないと言ったら、お姉ちゃんもいけないだよね……」

リカが返事する前に、イズルの仲間たちのほうから非難の声が上げられた。

「ひどい!それでも人間なの!」

最初の一声は当然奇愛から。

「隊長……」

「子供をいじめるのはちょっと……」

「白鳥ボートくらいならいいじゃない」

リカの悪評で溜まっているから、その妹に八つ当たりをしているとほかの人たちは勝手に思った。


イズルは凶悪な目線で仲間たちを睨んだ。

(前売り券数枚で記憶操作でもされたのか?お前たちは誰の味方だ?!)

軌跡は誠実そうな目線を返した。

(だけど、隊長……向こうはかなり警戒しているぞ。無理矢理に押しても逆効果だ。俺たちはここでいったん引いて、油断させて、裏で彼女たちの様子を観察したほうがいいと思う)

「減点しないから、行きましょう」

「?!」

イズルは軌跡と目線のコミュニケーションに集中したら、リカのほうから意外な言葉があった。

「確かに減点すべきだけど、ここは私の公私混同にして、一ヶ月の給料を引いていいから、一緒に来てほしい」

「?!」

イズルの頭は鐘のようにゴンと鳴った。

減点魔女のリカは減点を諦めたと?しかも給料を代価に?

そんなにこの妹を可愛がっているのか……


いいえ、妹より、今日の「陰謀」のためだろう。


一緒にお昼をする約束をしてから、イズル三人は皆と分かれて、湖の岸に向かった。

乗船場にすでに長い列が並んでいる。

「おつまみを買ってくるから、お姉ちゃんとお兄ちゃんは先に並んでて!」

待ち時間30分の看板を目にして、あかりは近くの露店に走った。


「妹さんのことだけど……」

イズルはあかりのことをもっと聞き出そうとしたが、リカが遠い岸辺を眺めている。

仕方がなく、イズルは話題を変えた。

「何を見ていますか?」

「釣りの人は多くなった」

リカが眺めている方向に、釣りをする人はあちこちにいる。

「釣りはお好きですか?」

「大嫌いだ」

「……」

やばい、またタブーだった……

リカはイズルに振り向かないまま、釣りの人たちを見ながら続けた。

「釣りはもともと生存のためのスキル。食べるためなら、やってもいいと思うけど、今となって、もう一種の趣味や娯楽になった。魚が抗うほど、釣りをする人は喜ぶ。その戦いは、人間にとってただの暇つぶししかないけど、魚にとって命のための闘いだ。つまり、人間は魚の命を弄んで、楽しんでいる」

「……そんな、シリアスなことですか……?」

本当はツッコミしたい気持ちだったが、リカの目はあまりにも真面目で、イズルはちゃらい話をあきらめた。

でも、なんとなく皮肉を感じて、自己流の理論を返した。

「食いしん坊の魚も馬鹿だと思うけどね。ただより高い物はない。命の安全が欲しいなら、水底で泥でも草でも食っていけばいい。安くて美味しいものを食べたいなら、代償を払う覚悟が必要だ」

突然に変化した口調と反発に、リカはただ平静な目線でイズルを見返した。

「……そういう考え方もあるでしょう。でも、人間がちっぼけな欲望を満たすために、心と命を翻弄する罪は変わらない」

「釣りのこと、それとも……?」

リカの話の意味は明らかに釣り哲学の範囲を超えた。

その湖のような平静な目に、冷たい光が宿っているように見える。

自分を責めているわけでもないのに、イズルはなぜか妙な圧迫感を感じだ。


よく晴れた空にドロンが飛びまわっている。その影はちらっと二人の顔を掠めった。

「ここの祭りはどうして地域最大になったのか、知っている?」

リカは話題の方向を変えた。

「馬鹿ほどの莫大な投資とネットコメント員の工作のおかげ、ですか?」

イズルは即答した。

以前、商業施設やイベントのプロモーションを参考するために、この「万霊祭」を調べてことがある。

リカの口から高霊山の名前を聞いてから、青野翼に頼んであらためて調査をしてもらった。

案の定、万代家の影がある。

このあたりの商業施設のスポンサーはほぼ万代家の人か万代家の人が経営している企業だ。

十年前から、ほぼ何もないこの地で設備や施設を整えて、商店街とリゾートホテルを作った。

コストを遥か越える報酬でたくさんの優良商店を誘致。

客が足りなかったら、有名芸能人を起用して、テレビ番組を作って広告を打った。

更に、人気なアイドルゲームの版権を買い取って、お祭りを背景に実写映画まで撮った。

長年にネットコメント員を大量に雇って、いい口コミを書き込む人に全員報酬を出す。

まるで見返りを求めないように施策をどんどん打ち上げて、やっと観光地として名前を売り出した。


「運営上の話なら、間違っていない」

リカは、イズルの答えの半分しか認めなかった。

「10年前、ここはなにもない小さな村、いいえ、ただの山だった。交通も設備もない、有名な伝説も歴史もない、投資しても回収が見えないところだった」

「それでも選ばれたのは、それなりの理由がありますね。リカさんは知っていますか?」

イズルはニコッと笑顔を見せた。

万代家が選んだ領地だから、絶対何か秘密がある。

家族が悲劇になったのは、偶然にその秘密を知ったのかもしれない。

……思い出せない。

あの夜、この山で一体何があったのか……

リカはそれを教えるために自分をここに誘ったのか?


この前に、イズルはパーティーの監視カメラをチェックして、

自分の母に変化した「妖怪」を調べた。

あの妖怪の名前は砂浜エンジェ。20代前半の若さで、Endless Joy Businessという小型エンターテインメント企画会社の社長をやっている。

青野翼の情報によると、エンジェは万代家の継承人の座を狙っている。自分を襲ってきた時の発言から見ると、自分の力を試そうしている。そして、リカに強い敵意を持っている。

エンジェとリカは競争関係だったら、先に自分の力を手に入れた人が有利になる。

ライバルが派手に動いたから、リカもじっとしていられないだろう。

いずれにせよ、イズルはもっと多くの「裏情報」を望んでいる。リカからの「真相告白」をかなり期待している。


「ここの秘密を教えてくれるなら、喜んで学費を払います」

イズルはリカの返事を促した。

その話の意味を読み取ったのか、リカの目線が鋭くなり、何かを言おうとしたが、ちょうど、あかりは帰ってきた。

あかりを見ると、リカは表情を解いて、イズルとの会話を中断した。


あかりは一つの三色ソフトクリームと二つの紙袋を持ち帰った。

ソフトクリームを残して、二つの紙袋をリカとイズルに渡した。

リカの紙袋に、綿飴とイチゴ飴が入っている。

イズル紙袋に、焼き鳥数本が入っている。

イズルは焼き鳥が好きだけど、もらったのは普段あまり食べない鳥もつだ。

どうやら、このあかりという子は自分の好みを当て外れたようだ。

「わたしだけが仲間外れ?わたしも甘いものが好きですよ。チョコバナナとか、りんご飴とか」

笑って聞いてみたら、あかりはニコニコして理由を説明した。

「お兄ちゃんは大怪我して入院したと聞いたから、栄養のあるものがいいと思ったの。これはハーツで、これは肝です。本当は脳を買いたかったけど、普通に売ってないよね。豆腐はどうかなと迷ったけど……やっぱり違いますね」

「…………」

まさか、悪口を言われた?

天使のような笑顔で言われた妙な言葉が自分への悪口だなんて、イズルは考えたくない。


20分後、三人は白鳥形の足漕ぎボートに乗った。

あかりは嬉しそうに二人に礼を言う。

「ありがとう、お兄ちゃん、お姉ちゃん。三人でボートを乗るのは初めてです!」

その無垢な瞳を見て、イズルはまた困惑した。

こうしてみれば、普通の子供と変わらない。

自分を誘ったのは陰謀とかじゃなくて、本当に、ただ乗りたいだけじゃないか……?

「三人で乗ったことはないですか?両親とは……!」

イズルの話がまだ終わっていないのに、リカの目線は手裏剣のように飛んできた。

「……」

察しのいいイズルはたちまち口を噤んだ。

あかりは平気な顔でその未完成な質問に答えた。

「あたしは両親がいない。いつも自分一人で遊んでいた。一回だけ、友達と乗ったことはあるけど、途中で二人とも力が尽きて、遠くへ行けなかったの……」

あかりは恥ずかしそうに笑って、親子らしい人達が乗っているボートを眺めた。

(両親が、いない……?この子はリカの妹だろ?資料ではリカの両親のことがちゃんとあるのに……)

イズルは疑問の目線をリカに向けると——

リカはまた採点スマホで減点をした。

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