「本当に、ごめんね。何かをしてあげたいと思ったのに、逆に助けられたのね」
「気にしなくていい。友達になるだろ?ほかに手伝うことがあるなら、遠慮なく言ってください」
イズルはエンジェの話に合わせながら、彼女の目的を聞き出そうとした。
でも、少しおかしい。
エンジェの色仕掛けは気持ち悪いのに、心臓の鼓動が早くなった。
特に、エンジェの体と接触しているところが変に熱くなっている。
思わずエンジェをもっと強く抱きしめた。
前を見て歩いているイズルは知らなかった。
後ろについているようこは彼の背中に向けて「異能力」を放っている。
ようこはイズルに気づかれないように二人と距離を取って、両手で口を遮って何かを念じ続ける。
その指の隙間から一つ一つ、ハート形で赤い光の玉が飛び出して、イズルの体に入った。
「CEOさん、いろいろ誤解があったけど、あたしたちは友達になれるのね?」
エンジェはぱちぱちと目を瞬かせた。長い睫毛とブルー色のコンタクトは彼女の愛嬌をよく引き立てる。
イズルの目の中で、その姿はとても可憐に映している。
「なれると思う……いいえ、なれる」
イズルの胸は羽に掠れたように、口調が変に柔らかくなった。
「あの、CEOさんじゃくなくて、イズルで呼んでいい?友達だもの」
「なんでもいい、好きに呼んでくれい」
(どういうことだ……)
イズルの頭の中で疑問の声が響いた。
「あたしは、イズルのことを信じるから、イズルもあたしのことを信じてくれるのね?」
「もちろんだ」
(なぜ彼女の話に従う……理性がおかしいと言っているのに、感情はまるでコントロールできない、だんだん舞い上がっている)
「実は、あたしは外見と職業のせいで、よく誤解されて、ビッチだの愛人だのと罵られるの……けれども、本当のあたしは、誰よりも純情な女の子で、好きな人に尽くすいい女でいる自信があるの」
「偏見を持ってエンジェを見る人が悪いんだ。オレはエンジェを信じる。エンジェのすべてを受け入れる」
(断れない……)
(今の彼女はあまりにも可憐で、純粋だ……)
(以前はどんな誤解や争いがあっても、今の彼女はもう違う……)
(今の彼女こそ真実だ。愛すべき人だ……)
(そうだ、オレは、彼女に惚れた、いいえ、愛してしまったようだ……)
(愛の本能が叫んでいる……彼女のすべてを受け入れよう……自分のすべてを捧げよう……)
強い感情の波はイズルの意識を打ち続けて、あるはずもない飛び切りの考えが相次ぎ湧き出ている。
リカは森に隠れて、密かに三人についていた。
ようこが異能力を使うところを見たら、止めようと駆け出したが、ようこに気づかれた。
ようこはいきなり奮発して、全力でリカに体当たりした。
その勢いでリカを道辺の草むらに押し込んだ。
「はなっ…っ!」
「だめだよリカ!」
ようこは体重の優勢を利用して、リカの体に座って両手で彼女の口を塞げた。
「人の恋路を邪魔するものは馬に蹴られて死ぬのよ!しつこく付きまとっても、CEO兄ちゃんはあなたが好きにならないの!彼はもうエンジェのものだ!早く身を引こう! CEO兄ちゃんのことも、継承人のことも!あなたのために言っていの!」
一方、イズルは大事なお宝を扱うように、エンジェをロードスターの助手席に座らせた。
「イズル、運転してちょうだい。あなたはあたしの車によく似合っているのわ」
「はい、エンジェが笑ってくれれば、運転手でもなんでもなる……」
イズルはマリエネットのように運転席の扉を開いた瞬間、空からゴロンゴロンの雷が響いた。
「?!」
続いて、一本の稲妻がロードスターの車ライトに落ち、ライトを粉砕した。
「ギャァァ――!!」
びっくりしたエンジェは悲鳴を上げた。
イズルは空を見上げると、数十本の大きな稲妻が空を飛んでいる不思議な光景を見た。
稲妻は山の奥に向かっている。途中でいくつの小さな光が落ちてくる。
すぐに、山の奥から爆発音がして、大地が何回も揺れた。
「地震……?あそこは……!」
イズルは少し意識を取り戻した。
よく見たら、稲妻が向かっている方向が先ほどリカが言った万代家の聖地だ。
「はっ、早くそっちへ!」
エンジェは叫んだ。
何があったのかまだ分からないけど、この辺りの警備は彼女が当番している。リカを陥れてやっと手に入れた重要な仕事だ。
問題が出たらすべては台無しになる!
「……」
イズルはとりあえずエンジェの指示に従って、車を発動した。
稲妻を追って、車は村のような所に入った。
道の状況が悪くなったので、イズルはスピードを落とした。
この村は廃村のようで、全く人が見えなく、破損の建物も多い。
淡い光を放っている数の少ない街灯は余計に寂しく見える。
村の一番奥のところに、何か大きな建物がある。
その建物の真上の空に赤い光が爆発している。
光から巨大な炎の矢が落ちてきて、何かにぶつかって、巨大な衝撃を起こした。
もう少し進んだら、その建物の様子がはっきり見えた。
一面の山を丸ごと使って作られた四方型の岩の建物だ。
空から炎の矢が相次ぎで、安全のために、イズルは車を止めた。
よく見てみると、炎の矢は岩の建物に直撃していない。
建物に触れる前に、建物を囲む金色の光に飛ばされた。
金色の光と炎の矢がぶつかり続けて、爆発を起こし続ける。
空の赤い光はもう一輪大きくなり、炎の玉が流星群になって落ちてくる。
でも、今回の攻撃を受け止めたのは金色の光ではなく、空から飛んできた数十本の稲妻だ。
稲妻と火炎流星が絡み合い、無数の「星屑」を四方八方に飛ばす。
「た、助けて――!!」
大地に落ちた電流と火炎の星屑は拳の大きさもある。
それを見たエンジェは慌てて叫んだ。
イズルはエンジェを抱きあげて、自分の背中を盾にエンジェを庇いながら車を飛び降りた。
急いである民家の駐車場に隠れたら、やっと一息ができて、エンジェを下した。
「これはどういうこと?」
「わ、分からないわ……万代家の敵が多いです……」
エンジェは荒い息をしながらも、まず自分の髪を整えた。
(この攻撃のレベルはやばいわ。万代家に守護系の力が足りない噂を聞いて、聖地をつぶしに来た強敵でしょう。けれども、いくら守護系の力が不足といって、ここは家の核心となる施設、防御体制が万全だわ。あの稲妻も炎を抑えているらしい)
(聖地は一応無事そう。それより、ちょうどチャンスだわ。このイズルはあたしの捕虜になったかどうか、本当に霊護の力があるかどうか、試してみるんじゃない)
イズルはこんな「異能力の戦い」を見たことがない。
思わずスマホを出して、リカに連絡しようと思った。
その時、エンジェは彼の裾を引っ張った。
「あ、あの……」
「……」
(そうだ、エンジェも危ないんだ。彼女を助けなくちゃ!)
エンジェの潤んだ目を見たら、イズルは彼女を優先した。
「とにかく、一刻も早くここから離れろ!」
「できないの!」
エンジェは震えながら立ち上がって、揺るぎのない口調でイズルに意思を表明した。
「ここは万代家の大事な施設です!逃げないわ!継承人ですから!家の、家族の財産を守るの!!」
「どうやって?」
その少女漫画主人公のような毅然とした態度に、イズルはちょっと違和感がした。
「もうすぐ万代家の救援が来るわ。その前に、あたしは状況をしっかり把握しないと!来る人たちに正確的な指示を出すために!」
「それでも、もう少し離れたところに……」
「怖くないわ」
エンジェは目を光らせて、イズルに魅惑の笑顔をかけた。
「イズルはきっと、あたしを守ってくれるから、そうでしょ?」
「!」
エンジェに見つめられたら、イズルの心臓はまたとんでもない速さで動き出した。
めまいをしながらも、エンジェを抱きしめたい衝動があった。
心の中から強い声が叫んでいる。
どんなことがあってもエンジェのそばから離れない、エンジェを守るんだ!
「あの、吊り橋効果を聞いたことはない?あたしはずっとそれを疑っていたけど、今はやっと信じたの」
エンジェは囁いきながら、指先でイズルの腕を撫でる。
「ほら、聞こえないの?あたしの心臓の鼓動……まるで、本物の恋をしたみたい。けれども、あたしたちは二回しか会っていないのに、不思議でしょ。今から思えば、あの夜のトラブルは、あたしたちをつなげるための神様のいたずらかもしれないわ。これって、運命の恋でしょ?」
イズルが動けなくなるのを見たら、エンジェは彼の首に手をかけて、唇を彼の目の前に送り、吐息のような柔らかい言葉をかける。
「イズルちゃん、あたしを信じて。リカはあなたを利用しようとしているの。彼女をあきらめよう。あたしこそ、あなたを心から愛している運命の人よ。あなたはあたしの騎士になる運命なのよ、さあ、誓って、『あなたの力』を使って、あたしを守るって」
「はい……エンジェを、守る……っ!」
イズルは機械のようにエンジェに誓いを述べる途中、突然に、「守る」という文字に神経を痛く刺された。
「エンジェを守るんだ!」と叫ぶ声以外に、もう一つの声が心の底で響いた。
「守るべきなのに、守れなかった」
家族を守るべきなのに、守れなかった
守護系の力を持っているのに、何も守れなかった
何もかも失った今、まだ何かを守りたい?
エンジェじゃない?
ほら見ろ、彼女はあんなに弱くて、可憐で、かわいそうだ。
彼女はあなたを愛している、あなたも彼女を愛してしまった。
さあ、早く誓おう!彼女のために、力を解き放つのだ!
イズルの目はエンジェから離れられない。
エンジェの姿は、どんどん彼の魂の奥に侵入している――
だがその時、あの夜の記憶が爆発のように飛んできた。
エンジェは彼に向けて、法具を投げ出した。
逃げ切れなさそうな時に、彼の後ろに立っているのは――リカだ!
そうだ!エンジェは守るべき相手ではない!母を利用して、自分を殺そうとする敵だ!
家族を守るとかを言い張っても、なんの行動もない、自分に怪しい誓いと愛を求めているだけだ!
一時的なときめきで嘘つきの妖怪に恋する?
今までのことは全部運命の赤い糸だと?
笑わせるな!
イズルは何か強力なものが自分の魂を包んだのを感じた。
その同時に、何か汚いものが心から弾けられた感じもした。
一瞬で目が覚めた。