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50 古い恋愛観

イズルは微笑みを浮かべながら、エンジェの両手を自分の首から下した。

「残念ながら、オレには運命を感じてなかった」

「?!」

その目つきの変化に気づいて、エンジェはびっくりした。

「オレの恋愛観は古いものだ。付き合うなら手を繋げることから。二回しか会っていない相手と運命の恋をする柄じゃないんだ。エンジェさんの運命の恋を受け入れるような器を持っていない」

皮肉交じりに拒絶されて、エンジェの目は驚きと怒りで破裂そうになった。

(失敗した?!)

(馬鹿な!)

(ようこの「キューピッドの矢」は失敗したことがない! どうして?!)

イズルは礼儀正しい笑顔のままでエンジェから一歩離れる。

「そういえば、言い忘れたことがある。先ほど、オレは万代家に入った。推薦人入族の形で、推薦人はリカだ。ここでの出来事をしっかり見届けて、上司に報告するから、これで失礼する」

「!!」

(クソ!もうリカの人になったのか!)

(……よくも、あたしを騙したのね!)

エンジェはイズルの離れていく後ろ姿を睨みつけて、悔しさと怒りが火山のように噴出した。

(彼が万代家に入ったら、リカの任務は成功だ。継承権が生き返る……)

エンジェは中指につけているルビーの指輪を抜いた。

(彼の力も特別なもの、すぐ成り上がりになるわ……あたしの手に入れないなら、リカにも渡さないわ!)

イズルの背中に向けて、エンジェルは思いきり指輪を投げた。


稲妻と火炎がぶつかる騒音の中で、小さな指輪は音もなくイズルの足元に落ちる――

「伏せて!!」

間一髪の瞬間、暗闇から突如に人が飛び出して、イズルを地に押し倒した。

二人は何回も転がって指輪から離れた。

その短い数秒で、イズルが立っていたところはもう赤い炎が盛大に燃え上がった。

「!!」

その光景を見て、イズルは自分が助けられたのを知った。

淡いジャスミンの香りがする。

意外というより、やっぱり、リカだ。


「リカ!?」

その人影がリカだと気づいたら、エンジェは更に苛立った。

二人はまだ立っていないうちに、迷いなく腕時計をはがして、投げ出した。

腕時計に嵌められているダイアモンドは一本の剣となって、二人に襲いかかる。

それをいち早く気づいたイズルは身を翻して、リカの盾となった——

その時、赤金色のバリアが彼の体から展開して、剣を受け止めた。

剣はバリアに飛ばされて、近くの民家に直撃した。

民家はたちまち爆発し、飛び散った石と木の欠片がエンジェに降りかかる。 

イズルの心臓はまた重く跳んで、もう一つの炎色のバリアが展開された。意識に残っているすべての不潔なものは二つ目のバリアの展開とともに、炎の光にきれいに燃やされた。


ほぼ同時に、村の入り口のほうから、バイクの騒音と女の悲鳴が届いた。

「来ないでぇぇ――!!」

イズルとリカはさっそく立ち上がって、新しい状況に構えた。

十数台のバイクは石壁の建物に向けて走っている。

あるバイクの運転手の後ろに、叫んでいるようこが乗っている。

石壁の建物に着いたら、運転手たちはバイクから降りて、異様な空を見上げながら、建物を守るように半円形の輪を作った。

そして、ある人の手から雷の矢を、ある人の手からレーザーのような光を、ある人の手からの炎の蛇などを生み出して、空に向けて、さまざまな攻撃をかける。

まさに、アニメやゲームでよく見る魔法使いそのものだ。

ようこだけは攻撃陣に入っていなく、何から逃げるように、叫びながら村の中を走り回った。

「来ないで来ないで来ないで!くさいぃぃ!!」


「彼女はどうした……?」

イズルはリカに質問の視線を投げた。

リカはイズルを追いかけるために、全力で走ってきたので、まだ少し息が続かない。

「……」

息を調整しながら状況を観察したら、イズルと同じような困惑な顔をした。

「あの人たちは万代家の守衛隊、ようこは彼たちに拾われたけど……」


エンジェはなんとか無傷で爆発の余波から逃れたが、リカたちを襲う機会がもうなくなった。仕方がなく、目標を変えて、守衛隊の人たちの後ろに駆け付けた。

「みんな頑張って!家の重要な施設を破壊しようとする敵をやっつけるのよ!あたしは今日のこと、みんなの功績をちゃんと上に報告するから!」

しかし、奇妙なことに、もともと空で絡み合う炎と雷は喧嘩をやめて、共に方向を変えて、万代家の人たちに反撃した。

万代家の人たちの法術は、あっという間に打ち消された。

幸い、空から落ちた炎と雷は人を狙っていないようで、万代家の人たちがかろうじてその反撃から逃れた。


その無茶苦茶な対応を見て、リカは我慢できず前に出た。

「攻撃をやめなさい!相手の正体も分からないのに、無意味な消耗戦になる。半分の人は防御に取り組んで、残った人はまず相手の正体を見つけるんだ」

「グズグズしたらどんなん男も逃げるのよ!スピードこそ一番!正体はどうでもいい、攻撃しにきた以上絶対敵なの!早く獲物を撃ち落として!」

リカと争うように、エンジェは更に大きな声で指示を出した。

「守衛隊の任務は聖地を守ることよ。獲物を打ち落とすのではない。見たでしょ、相手の力はこっちよりずっと強い。むやみに攻撃しつづけたら、敗れるのはこっちだ」

「守衛隊の責任者はもうあたしなのよ!あんたには指揮を取る資格がない!黙ってなさい!じゃないと、公務妨害であんたを通報するわ!」

リカの正論はエンジェにとってまさに火に油。

エンジェは可憐そうなセレブ女子のイメージにも構わず、リカに牙を剥いた。

「……」

リカは心の中でため息をついた。

もう何を言っても無駄だ。

エンジェは成果を手に入れるまで忍耐強いが、その分、いったん成果を掴んだら、すぐ調子に乗って威張る傾向がある。

この仕事は彼女がようやく掴んだ成果だ。自分のような「負け犬」に口を出されるのが許さない。

「その通り。彼女はこの件を処理する資格がない」

リカはあきらめて、離れようとすると、

イズルは二人の間に入った。

イズルはスマホを持って笑顔でエンジェに告げる。

「でも、あなたも資格がないと思うよ。こういう時、警察と消防署を呼ぶのは常識だろ。もう呼んであげた。どういたしまして」

「?!」

エンジェが返事する前に、イズルはリカの腕を引っ張って現場を離れた。


村の外に出たら、イズルは青野翼のスマホを出して、スピカ―をオンにした。

「お二人とも、ご無事で何よりです」

青野翼の声はいつもと違って少しだけ緊張感があった。

「情報が遅れて申し訳ありません。万代家が気に入らない異能力者は刻印の聖地を破壊しに行きました。お二人はそんなところにいるとは思いませんでした。

すでに助っ人を呼んで、そいつ止めに行かせたけど、抑えられるかどうかまだ分かりません。お二人は巻き込まれないように、今すぐそこを離れてください」

「ほぅ、新世界の仕業じゃないと言いたい?」

イズルは疑いの冷笑をかけた。

「とんでもないです。僕たちの差し金なら隠す必要はありません……っ」

話の途中、青野翼はふっと失言に気づいた。

イズルは「新世界」と言って、彼はそのまま「僕たち」と認めた。

でもまあ、認める形は不本意だけど、今となって、もう隠す意味がない。

「帰ったら話を聞かせてもらおう」

イズルは電話を切って、リカに「行こう」の合図をしたら、後ろから呼び声が届いた。

「ま、待ってぇぇ!!」

振り向くと、よろめきながら追ってきようこがいた。

「うちに、うちに何をしたの?!」

「どういうこと?」

イズルは戸惑った。

ようことやり取りはほとんどしなかった。何をしたと言われても……

「反噬、反噬……!うちの反噬……おかしいの!!!」

ようこの話は意味不明で、代わりにリカは質問をなげた。

「あなたの異能力の反噬は、体がしばらく臭くなることでしょ。それは何があったの?」

「違う、違うの!!うち、彼に送ったキューピッドのハートは、全部ブラックハートになって戻ってきたの!!怖い、怖い!来ないでぇぇ!」

ようこはそう言って、何かを払おうと手足を踊らせた。

そして、イズルに向けて咎め続けた。

「乙女心をめちゃくちゃにしたのはあなたの仕業なのね!この偽物鬼畜CEO!やっぱり…ねぇ!!」

「……」

訳の分からないクレームに、イズルは返す言葉も見つからない。

「みなん、みんなうちのことが嫌いだなんて、嘘よ!嘘なのよ!」

ようこが尖った声で叫びながら、リカとイズルに飛びかかろうとしたら、二人は息びったりに後ろに下がった。

ようこはの厚底靴がつまずいて、顔が下向きの姿勢で転がった。

「……」

「……」

イズルとリカは一度目を合わせて、それをチャンスに急いでこの混乱な場所から去った。

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