「僕の不注意で、大事な人が危険に落ちてしまいました。本当に申し訳ございません」
「いい。急な出来事だから仕方がない。戦略というものも分からない単細胞動物の勝手な行動だ。あんなところ、不良品の異能力者を量産する下手工場にすぎないのに、万代家はまだそれに執着している。それを維持するために莫大な資源を浪費し続けている。近年、それは権力争奪の引き金にもなっている。潰したら、逆に
「あの二人に、新世界の内部で意見が統一していないから、聖地の破壊を一旦保留になったと伝えてくれ。万代家の聖地は、新世界にとって、相変わらず大きな『脅威』だと思わせるんだ」
「かしこまりました」
青野翼その方針をしっかり覚えた。
「それより、あの人の能力に何か変化があった?」
青野翼はパソコンを開いて、とあるウェイブ状のデータを見ながら返事をした。
「渡したスマホに通じてずっと測定しています。ほんの少しだけ上昇の傾向がありましたが、実用できるまでまだまだ遠いと思います。それと、上昇する度に急降下が発生するという不思議な現象も観測されました」
青野翼の報告を聞いて、電話の向こうの青年はやはりと鼻で笑った。
「推測通り、『吸血鬼』がいるからだろう」
上司との電話が終わったばかり、イズル連絡用の携帯が鳴った。
青野翼は電話に出て、言われた通りのスタンスでイズルと情報交換をした。
「なるほど、こちらの推測と同じ、CEOの異能力は極めて危険な状況で発揮しましたのね」
「だが、お前は精神の安定性に関係があるとも言った。この三回、安定性が全く見えない。それに、あの妖怪の仲間は、オレに彼女に反噬させたとか妙なことを言った。オレの能力はそんなこともできるのか?」
イズルは連続的に青野翼に質問を投げた。
イズルは気づいている。相手は情報出しを控えているようだ。
「なら、推測を増えましょう。CEOさんの力は自分を守るだけではなく、相手の異能力を弾ける効果もあるかもしれません」
「お前たちはプロの異能力組織だろ?推測ばっかり定論はないのか?」
「プロだから結論に慎重です。断言できることもありますよ。守護系の力というものは、守るという意思がある時のみ発揮できるものです」
「そんなことあたり前だろ。オレを馬鹿にしているのか」
青野翼との情報交換で新しい収穫がなかったので、イズルつまらなさそうには電話を切った。
もう夜11時だ。
きれいな服に着替えたら、ライトをつけないままベッドで仰向けになった。
ドタバタな数時間だった。一回状況を整理しよう。
エンジェは自分の周りを監視している可能性がある。誰かに頼んで調べよう。
そういえば、エンジェはおかしくなった自分に保護を強要したけど、彼女が襲撃された時に力が全然発揮しなかった。
その時の襲撃はまだ危険性が足りないのか、それとも自分はおかしくなってもやつを守る意思がないのか……
それに対して、妙なことに、二回もリカを守った。
いいえ、妙ではない。あたり前だ。
二回とも、リカは先に命を張って自分を守ろうとした。
彼女を守る意思があるのは当然だ。
もしエンジェの言ったように、リカは自分を道具として利用しているなら、リカの行動が明らかにおかしい。
命がなくなったら、家に残る意味はない。
やはり、リカの目的は自分を利用して、万代家に残るなんかじゃない。
本人が言った「贖罪」が本当ことだろう。
その贖罪は一体どんなものなのか、気になって仕方がないが、深く問い詰めたら、リカのかさぶたをはがすようなことになるかも……
思い出せば、リカは自分に笑顔を見せたことがない。
彼女はもともと笑わないの、それとも、ずっと「贖罪」とかを考えて、笑えなくなったか……
ずっと考えていたら、お腹がすいた感じがした。
携帯で出前を注文しようとすると、ドアノックの音がした。
ドアを開けたら、リカが外に立っている。
リカは何かを言いたがそうで、言いにくそうな顔でイズルを見つめる。
「どうした?」
イズルは先に切り出した。
「ちょっと見に来ただけ。体に、頭に変なところはないの?」
「変なところ?例えば?」
「……心臓が破裂しそうな、魂がコントロールできなくなるような、運命の人を見つけたような感覚……」
「はっ?」
イズルは戸惑ったら、リカは更に意味不明なことを言った。
「分からない?具体的に言えば……今すぐエッフェル塔の頂上に登って告白しようとか、ノートルダム大聖堂を買い取って電撃婚しようとか、世界が滅んでもいい、すべてをあの人に捧げようとする衝動がある……」
イズルの表情はさらに歪んだ。
「あの人って…誰?」
「エンジェ」
「なぜオレは妖怪みたいなあいつを運命の人だと思わなければならないんだ?しかも告白だの電撃婚だの自分を献上だの……お前はどういう根拠でそんな目でオレを判断したんだ?」
「……」
イズルの抵抗強い表情を見たら、リカはほっとした。
「なら問題なさそうね。ようこの異能力は、人を指定した誰かに狂おしいほど恋させること。あなたに効かなかったみたい。あるいは、あなたの霊護に飛ばされたかも」
「先に異能力のことを言ってくれないか……」
イズルは長いため息をついた。
(一応オレを心配しているようで、ツッコミをやめよう。)
あの時、自分の中から確かに変な情熱が湧いた。本当に制御できなくなって、エンジェを愛したようだ。
危うくその血色の口に食われるところだった……
人の感情を操作できる能力。
ある意味、殺人能力よりも恐ろしい異能力だ……
「何もなかったらそれでいい。ちょっと用事があってこれから出かける。あなたも気を付けて……」
「待って!」
リカは離れようとするのと見たら、イズルは一歩先に両手を伸ばし、リカを彼と扉の間に囲んだ。
「その異能力のこと、まだいろいろ分からない。オレの家族のこともまだ教えてもらっていない。それに、お前の話し方について、一度話し合う必要があると思う……」
距離を縮めたら、イズルはリカにいい匂いがついていると気づいた。
この前のスプレーの香りではなく、食べ物のいい匂いだ。
食欲がそそられて、イズルは思わず質問を変えた。
「……何かおいしいものを食べた?」
「まだあるけど。食べる?」
イズルは餌を待つ子犬のように、大人しくリカについてキッチンに来た。
リカは冷蔵庫から何か赤いものの入っているボールと黄色の麺の入っている袋を出した。
「何を作った?」
「玉ねぎとトマトのミートソース。これは専門店で買った生パスタ。食べたいならい全部食べていい」
イズルは慎重にボールと袋を受け取った。
「お前は?」
「ちょっと出かける。朝まで戻るから、話はそれからにしよう」
「万代家のことか?」
「いいえ、私用だ」
そればかり言って、リカは急いで出かけた。
「徹夜で私用か……」
イズルはてっきり聖地の騒乱のことだと思ったけど、リカの答えは違った。
その用事に気になるけど、リカを引き留めなかった。
ボールをレンジに入れて、お湯を沸かした。
待っている間に、青野翼のスマホについているGPSでリカを追跡した。
「食べながらコミュニケーションの問題をどうにかすると思ったけど……」
イズルは仕方がないと笑った。
「まあ、いいだろう。これからにしよう」
リカの位置情報はスマホに表示された。
車で移動し始めたようだ。
青野翼のスマホを持ち歩いているということは、秘密なことじゃないだろう。
ミートソースはいい匂いがしている。イズルは食事を先にした。
リカはタクシーを呼んで、
懐中電灯を持ってイズルと一緒に歩んでいた道を辿って、契約の洞窟に入った。
洞窟と隠し通路の中をじっくり探して、何も見つからなかったら、昼間にようこと絡まったところに向かった。
そこも収穫なしで、急いで刻印聖地の村に入った。
村はもう静寂に戻った。
監視カメラはまだ働いているけど、探し物程度なら許されると思って、リカは迷いなく村に入った。
いきなり、後ろから人の気配を感じた。
どうせ万代家の人でしょうと、リカはあまり驚かなかった。
ゆっくりと振り向いて、懐中電灯でその人を照らす。
「?!」
その人の顔を見たら、リカは逆に驚いた。