祭壇の真ん中、炎の光から左腕が血に染められたリカが現れた。
落合と万代家の人を目にしたら、リカはその場で助けを求めた。
「早く扉を開けてください!異世界の人は私たちを追っている!みんなは向こうの陣で待っている!オペレーターのエンジェとマサルに連絡して!」
「リカ、落ち着いてくれ」
落合はイズルの祖父と父を一目見てから、ゆっくりとリカの前に来た。
「落合さんは『鍵』を持っていますね!早く、扉を開けてください!」
「そうだけど、今日は商談のために来たんだ。今は持っていない。後で取りにくるよ」
落合は困りそうに苦笑いした。
「それは間に合いません……今頃、みんなはもう捕まえられたのかも!エンジェとマサルに連絡してください!遠隔操作装置を持っているのはあの二人だけです!」
取り乱したリカに対して、落合は余裕そうにもう一度渡海父子を見た。
「リカ、客人がいるぞ。落ち着いてくれ。帰ってからゆっくり話そう」
「!」
リカはやっと外部者の二人に気づいた。
「何があったのか分からないけど、血が酷いです。早く手当をしましょう」
イズルの父はリカの傷を見て、心配しそうに声をかけた。
一方、落合は手下たちに命令した。
「とにかく、エンジェに連絡してみよう。後、リカを病院に送ってあげて」
「……」
リカはただ唇を噤んで、動かなかった。
落合はリカに構わず、渡海父子に向けた。
「申し訳ありません。お見苦しいところをお見せしてしまいました。彼女の言ったことはうちの内部のちょっとしたトラブルで、大した事ではありません。どうか気にしないでください。それと、ここでのことを内緒していただけると大変助かります」
大した事ではないと言いつつ、大急ぎで商談を中断してここに駆け付けた。しかも目撃者に内緒を要求。
渡海父子は落合の矛盾な言動から異様な気配を読み取った。
商売――特に違法商売で磨いた観が語っている。
この少女の出現と話は何か非常に重要かつ危険なことに繋がっている。
ここで気軽くに「見ないことにする」と承諾しても、後々災いの種にならない保証はない。
どうせ避けられないなら、賭けをして、更に突き込んで、完全に関係者になったほうがより安全なのかもしれない。
神農グループは万代家の長年のビジネスパートナー、万代家は神農グループにいろいろ頼っている。まだ取引の手段がある。
渡海父子は目で合図をして、父の紋治のほうから切り出した。
「万代家と神農グループは長年のパートナーですから、ご要望があれば、もちろん協力します。ですが、このお嬢さんの仲間は何か大変なことがあったようです。こちらから何かお手伝いができるのかね」
「気遣ってくださって、感謝いたしますが、とても残念なこと、ご好意を受けることはできません。なぜなら……」
落合は顎を引いて、目線を下げ、打算的な笑顔を夜の闇に隠した。
「彼女の仲間は『異世界』にいるから」
「?!」
渡海父子だけではなく、リカもその発言に驚いた。
「異世界」のことは家の最高機密、なぜこんな簡単に外部者に教えるの……
「神農グループは万代家の長年のパートナーです。これ以上隠したら、お互いの信頼関係によくない影響を及ぼすでしょう。しかも、この件は、今回の商談にも関係があります。これからのパートナー関係のためにも、適切な情報共有が必要だと思います」
落合は渡海父子に目を向けたまま、リカの退場を催促した。
「リカ、早く病院へ行きな。ここはぼくが引き受ける」
落合は七龍頭の一人、いくら不服しても、リカはその命令に従うしかなかった。
それに、もっと重要なやることがある。エンジェとマサルを見つけて、一刻も早く異世界の扉を開くのだ……
「そのあと、落合は何を話したのか私も分からない。三日後、あなたの祖父は知り合いに通じて、私に電話をかけてきた。あの異世界のことの状況をいろいろ確認した……まもなく、神農グループは契約を破棄した情報が入った。万代家は何回も交渉したけど、徹底的に断られて、最後、あんな決定をくだした……」
「……」
散々答えに焦ったが、この時のイズルは異常なほど冷静になった。
暗黒家族の重大な秘密を知ったせいで、家族が殺害された――今までイズルはこう考えていた。
しかし、リカの話を聞いたところ、その推論は間違っている可能性があると思った。
落合は祖父と父に「異世界」のことを教えたということは、その秘密はまだ一定の融通性がある。
万代家は秘密保守より、神農グループとのパートナー関係を重視しているように見える。
契約が断られても、時間をおいてまた粘ってくるのだろう。神農グループを壊滅させるような決断を簡単にしないはずだ。
一方、成立当初から闇商売をやってきた神農グループは高いリスクにすでに慣れている。祖父と父に「危険」と思わせて、契約を破棄させたことは、一体何なのか……?
「一番肝心なのは、あの落合がオレの祖父と父に話した内容のようだな。お前が言ってた『復讐に手伝う』というのは、その落合を調べることなのか?」
リカは頭を横に振った。
「いいえ。手伝えるのは『あなたの家族の仇を、この世界から消すこと』。一人だけ、だけど……」
「その一人は?」
「私」
「?!」
「落合は何を話したとしても、そのきっかけを作ったのは私。私が任務に失敗したから、私が『異世界』のことを口にしから、その後の話があった……」
「お前が、任務に失敗……」
青野翼から聞いた。
リカは万代家の未来に関わる重大な任務に失敗して、家から追放されそうになった。
どうやら、リカの運命を変えたのはこの「異世界」任務のようだ。
リカはリーダーとして、任務失敗の責任を負うのは当然なことだけど、イズルはまだ覚えている。青野翼からその件を聞いた時、彼はもう一つの推測をした――「リカの失敗は偶然ではない」。
最近出合った万代家の人たちの言動を見て、イズルはその推測に確信を持った――「リカは反対派とやらに嵌められたんだ」。
普通に、たくさんの人がグルーになって一人を嵌める理由は、ただの嫉妬や悪しき心だろうが、リカは普通の人ではない。彼女は万代家の長女で第一継承人、祖父は万代家のトップに立つ人物。
彼女の遭遇の後ろに、暗黒家族の派閥闘争がある。
なのに、リカは万代家の内情に触れず、自分で責任を受け止めた。本当に馬鹿なのか、それとも……