CEOになってから、彼はずっと謙遜な態度でいた。
グループの要人たちはもともとイズルに期待していないから、いい態度に予想以上のパフォーマンスを見せられた以上、もう言うことがない。
たとえ心の中でまだ不服があっても、表に出す余地はなかった。
イズルは知っている。
自分のボロを待っている人がたくさんいる。
リカに株を譲渡する件はその人たちにとって、待ち望んだチャンスだ。
だから、会議の終わり頃にいきなり質問されても、意外性を感じなかった
「別件なんですが……確認させていただきたいことがあります。あくまで確認ですが、CEOが10%の株を家庭教師に譲渡することを聞きしました。それは、ただの噂でしょうか」
質問を出したのは40代の女性、アジア開発部の
以前はイズルの実の叔母に頻繁的に挨拶をしていた人物だったが、イズルの叔母がいなくなった今、彼女の挨拶をする相手が
「吉川部長はどこからそのような噂を聞いたのですか?」
イズルはビジネス用の笑顔で聞き返したら、吉川部長の目線が英子のほうに移した。
「私が教えたのです」
英子は真剣顔で認めた。
「では、英子さんはどこからそのような情報を入手したのですか?申し訳ないけど、最近、体調が優れなくて、頭が回らない時もあります。うっかり馬鹿な事を口にしたのかもしれません。これもあくまで確認ですが、英子さんは、いつ、どこで、誰から、どんな状況でそのような話を聞いたのでしょうか?」
「っ……!!」
英子の顔色は青ざめた。
まさか、イズルは言ったばかりの話をひっくり返すつもりなの?
ごちゃごちゃな姑嫁ドラマを演じる時にイズルから聞いたなんて、言えるわけがないじゃない!
「情報源は……いろいろあります。本当かどうか分からないけど、確かにそのような噂が立っています。株のことは、全グループにも影響がありますから、CEOは本当にそのような意向がありましたら、予め皆さんに共有していただきたい」
英子は表情を整えて、自分を困らせる質問を回避して、イズルを追い続けた。
イズルも気にしないように、素直にうなずいた。
「譲渡について、確かに考えています」
「!?」
その話を聞いて、会議室中の要人たちはざわついた。
でも、その声が大きくなる前に、イズルはさっそく続きを話して、会議室を静めた。
「――ですが、相手は家庭教師だけではないです」
本当に困っているように、イズルは謙遜で真摯な表情で要人たちに考えを伝える。
「経営に関して、わたしは全くの新米です。筆頭株主になったのは本当に意外な出来事で、かなり恐縮しています。グループの将来のために、わたしのような未熟者が最大な決裁権を握るより、優れた経験と能力を持つ方々に任せたほうがいいと思います。例えば、わたしが持っている株の一部を、ここにいる皆さんに譲渡するなど――そのようなことを真剣に考えています」
「!!」
「もちろん、これは慎重なことで、譲渡の相手もパーセンテージも時期もきちんと考えなければなりません。わたし一人の知恵で到底できない大きな仕事だと思うので、ぜひ皆さんからご知恵を貸していただきたい。ご意見やアドバイスがあれば、
イズルは青野翼に信頼な眼差しを投げたら、会議室の雰囲気がまた微妙になった。
イズル一家の事件の後、この青野翼という若者が突然に現れて、CEOの秘書となった。
あまりにも怪しいから、グループの要人たちは青野翼の背景探りにかなり力を入れていた。
多方で調べて結果によると、青野翼は海外某有名大学の卒業生で、経営管理学専攻のエリート。
そして、弁護士資格、税理士資格証、会計士資格、証券アナリスト資格証……など信じられないほど多くの資格を持っている。
学歴は一応本物のようだけど、職歴が見つからない。
調べれば調べるほど、霧が晴れるどころか、事情が更に胡散臭くなった。
疑いの視線に対して、青野翼は礼儀正しい笑顔を見せた。
けど、その頭の後ろにすでに怒りマークがでている。
株譲渡の件について、イズルから何も聞いていなかったから。
いきなりこんなことを投げられて、イズルの目的が要人たちを困らせるのか、それとも自分を困らせるのか……
「CEOも人が悪いですね。あんな大事なことを考えているのに、一言も教えてくれないなんて、びっくりしましたよ」
エレベータに入って、イズルと二人きりになったら、青野翼はやっと嫌味の一つを言えるようになった。
「お互い様だ。
イズルは冷笑して言葉を返した。
「その日、CEOたちが万代家の聖地で手続きをすることについて、こっちは何も知りませんでしたから」
「その前、万代家の入族手続きと聖地に関する情報は何ももらえなった。山奥にあんな面倒なものがあるのは、オレは知るすべもないだろ」
「……」
「……」
睨み合いながら、小言を何回交わしたら、二人とも沈黙した。
責任の押し合いをしてもどうしようもない。
イズルとリカの関係に似っていて、イズルと青野翼の間にも基本的な信頼が欠けている。
約束したように、二人は同時に長いため息をついた。
どうやら、もう一度じっくり話し合う必要がある。
まもなく、エレベータが1階に到着した。
扉が開いた途端に、騒ぎの声が届いた。
若い女子の高い叫びに引かれて、二人はエントランスのほうに目を向けた。
「!」
「CEO兄ちゃんは絶対うちに会いたいの!早く入らせて!もういいから、自分で探すの、館内カードをちょうだい!」
スタッフは何が何だか全然わからなくて、とりあえずようこを静めようとした。
「すみません、お急ぎのことは承知いたしました……ですが、ご予約がないので、確認を取る必要があります……」
もう二人のセキュリティスタッフはようこの後ろまで来て、彼女を抑える準備ができている。
「CEO兄ちゃんに言ってよ!彼を救ったのはうちなの!リカが黒鳥で、うちこそ白鳥なのよ!」
「!」
青野翼は思わず震えた。
イズル救出の夜、ようこに掴まれて、銀行口座のパスワードから将来35年の不動産購入計画まで、隅々しつこく「尋問」された。
非常に気持ち悪かったけど、殺すのも殴るのもできなくて、ただただようこの蹂躙を我慢していた……
ようこに見つけられる前に、イズルを盾として突き出した。
「CEO、狙われていますよ」
「……」
イズルも訳が分からなく、ただ悪寒を感じた。
「!!」
ようこはイズルの存在に気づいたら、迷いなく飛びかかってきた。
「CEO兄ちゃん——!!」
その獲物に飛びかかる虎のような勢いを見て、イズルは反射的に服の裏に隠された拳銃を抜こうとした。
でも、青野翼は手早く彼の行動抑えた――
「バカ、なにを……!」
イズルは「やられる!」と思った瞬間、セキュリティスタッフたちがかけてきて、ようこを掴めた。
「はっ、離して!!CEO兄ちゃんと誤解を解くの!うちらは愛し合っているの!!恋する少女を邪魔しないで!警察に通報するよ!」
「警察を呼ぶのはこっちだろ……」
青野翼はこっそりスマホで110を押したけど、最後に理性が働いて、スマホを収めた。
「……」
ある意味、妖怪よりもやばい奴だ。
イズルは仕方がないと嘆いた。
「放してやれ、オレが処理する……」