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59 CEO、狙われている

神農しんのうグループの会議で、イズルはいい学生のように振舞って、みんなの意見を伺いながら、効率よく仕事を処理した。

CEOになってから、彼はずっと謙遜な態度でいた。

グループの要人たちはもともとイズルに期待していないから、いい態度に予想以上のパフォーマンスを見せられた以上、もう言うことがない。

たとえ心の中でまだ不服があっても、表に出す余地はなかった。


イズルは知っている。

自分のボロを待っている人がたくさんいる。

リカに株を譲渡する件はその人たちにとって、待ち望んだチャンスだ。

だから、会議の終わり頃にいきなり質問されても、意外性を感じなかった


「別件なんですが……確認させていただきたいことがあります。あくまで確認ですが、CEOが10%の株を家庭教師に譲渡することを聞きしました。それは、ただの噂でしょうか」

質問を出したのは40代の女性、アジア開発部の吉川よしかわ部長。

以前はイズルの実の叔母に頻繁的に挨拶をしていた人物だったが、イズルの叔母がいなくなった今、彼女の挨拶をする相手が英子ひでこに変わった。

「吉川部長はどこからそのような噂を聞いたのですか?」

イズルはビジネス用の笑顔で聞き返したら、吉川部長の目線が英子のほうに移した。

「私が教えたのです」

英子は真剣顔で認めた。

「では、英子さんはどこからそのような情報を入手したのですか?申し訳ないけど、最近、体調が優れなくて、頭が回らない時もあります。うっかり馬鹿な事を口にしたのかもしれません。これもあくまで確認ですが、英子さんは、いつ、どこで、誰から、どんな状況でそのような話を聞いたのでしょうか?」

「っ……!!」

英子の顔色は青ざめた。

まさか、イズルは言ったばかりの話をひっくり返すつもりなの?

ごちゃごちゃな姑嫁ドラマを演じる時にイズルから聞いたなんて、言えるわけがないじゃない!

「情報源は……いろいろあります。本当かどうか分からないけど、確かにそのような噂が立っています。株のことは、全グループにも影響がありますから、CEOは本当にそのような意向がありましたら、予め皆さんに共有していただきたい」

英子は表情を整えて、自分を困らせる質問を回避して、イズルを追い続けた。

イズルも気にしないように、素直にうなずいた。

「譲渡について、確かに考えています」

「!?」

その話を聞いて、会議室中の要人たちはざわついた。

でも、その声が大きくなる前に、イズルはさっそく続きを話して、会議室を静めた。

「――ですが、相手は家庭教師だけではないです」

本当に困っているように、イズルは謙遜で真摯な表情で要人たちに考えを伝える。

「経営に関して、わたしは全くの新米です。筆頭株主になったのは本当に意外な出来事で、かなり恐縮しています。グループの将来のために、わたしのような未熟者が最大な決裁権を握るより、優れた経験と能力を持つ方々に任せたほうがいいと思います。例えば、わたしが持っている株の一部を、ここにいる皆さんに譲渡するなど――そのようなことを真剣に考えています」

「!!」

「もちろん、これは慎重なことで、譲渡の相手もパーセンテージも時期もきちんと考えなければなりません。わたし一人の知恵で到底できない大きな仕事だと思うので、ぜひ皆さんからご知恵を貸していただきたい。ご意見やアドバイスがあれば、青野翼あおのつばさに送ってください。彼はまとめてわたしに送りますので」

イズルは青野翼に信頼な眼差しを投げたら、会議室の雰囲気がまた微妙になった。


イズル一家の事件の後、この青野翼という若者が突然に現れて、CEOの秘書となった。

あまりにも怪しいから、グループの要人たちは青野翼の背景探りにかなり力を入れていた。

多方で調べて結果によると、青野翼は海外某有名大学の卒業生で、経営管理学専攻のエリート。

そして、弁護士資格、税理士資格証、会計士資格、証券アナリスト資格証……など信じられないほど多くの資格を持っている。

学歴は一応本物のようだけど、職歴が見つからない。

調べれば調べるほど、霧が晴れるどころか、事情が更に胡散臭くなった。


疑いの視線に対して、青野翼は礼儀正しい笑顔を見せた。

けど、その頭の後ろにすでに怒りマークがでている。

株譲渡の件について、イズルから何も聞いていなかったから。

いきなりこんなことを投げられて、イズルの目的が要人たちを困らせるのか、それとも自分を困らせるのか……


「CEOも人が悪いですね。あんな大事なことを考えているのに、一言も教えてくれないなんて、びっくりしましたよ」

エレベータに入って、イズルと二人きりになったら、青野翼はやっと嫌味の一つを言えるようになった。

「お互い様だ。万代よろずよ家の聖地への攻撃のことも、教えてもらえなかっただろ」

イズルは冷笑して言葉を返した。

「その日、CEOたちが万代家の聖地で手続きをすることについて、こっちは何も知りませんでしたから」

「その前、万代家の入族手続きと聖地に関する情報は何ももらえなった。山奥にあんな面倒なものがあるのは、オレは知るすべもないだろ」

「……」

「……」

睨み合いながら、小言を何回交わしたら、二人とも沈黙した。

責任の押し合いをしてもどうしようもない。

イズルとリカの関係に似っていて、イズルと青野翼の間にも基本的な信頼が欠けている。

約束したように、二人は同時に長いため息をついた。

どうやら、もう一度じっくり話し合う必要がある。


まもなく、エレベータが1階に到着した。

扉が開いた途端に、騒ぎの声が届いた。

若い女子の高い叫びに引かれて、二人はエントランスのほうに目を向けた。

「!」

花山かやまようこは受付の裏側に体を突き出して、スタッフに迫っている。

「CEO兄ちゃんは絶対うちに会いたいの!早く入らせて!もういいから、自分で探すの、館内カードをちょうだい!」

スタッフは何が何だか全然わからなくて、とりあえずようこを静めようとした。

「すみません、お急ぎのことは承知いたしました……ですが、ご予約がないので、確認を取る必要があります……」

もう二人のセキュリティスタッフはようこの後ろまで来て、彼女を抑える準備ができている。

「CEO兄ちゃんに言ってよ!彼を救ったのはうちなの!リカが黒鳥で、うちこそ白鳥なのよ!」

「!」

青野翼は思わず震えた。

イズル救出の夜、ようこに掴まれて、銀行口座のパスワードから将来35年の不動産購入計画まで、隅々しつこく「尋問」された。

非常に気持ち悪かったけど、殺すのも殴るのもできなくて、ただただようこの蹂躙を我慢していた……

ようこに見つけられる前に、イズルを盾として突き出した。

「CEO、狙われていますよ」

「……」

イズルも訳が分からなく、ただ悪寒を感じた。

「!!」

ようこはイズルの存在に気づいたら、迷いなく飛びかかってきた。

「CEO兄ちゃん——!!」

その獲物に飛びかかる虎のような勢いを見て、イズルは反射的に服の裏に隠された拳銃を抜こうとした。

でも、青野翼は手早く彼の行動抑えた――

「バカ、なにを……!」

イズルは「やられる!」と思った瞬間、セキュリティスタッフたちがかけてきて、ようこを掴めた。

「はっ、離して!!CEO兄ちゃんと誤解を解くの!うちらは愛し合っているの!!恋する少女を邪魔しないで!警察に通報するよ!」

「警察を呼ぶのはこっちだろ……」

青野翼はこっそりスマホで110を押したけど、最後に理性が働いて、スマホを収めた。

「……」

ある意味、妖怪よりもやばい奴だ。

イズルは仕方がないと嘆いた。

「放してやれ、オレが処理する……」

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