「実は、気になることがあって、ちょっと調べました」
英子の疑問が分かって、イズルは一言の説明を添えた。
「英子さんはあの家の女性がいいと思ったのは、もしかして、向こうがうちと何か深い因縁でもあるから?」
イズルがすでにいろいろ知ってるようで、英子も隠せずに裏のことを告げると決めた。
「因縁というより、あちらはうちの保護人みたいなもので……」
「保護人……?」
英子は続こうとしたら、先ほど注目した女子はこちらに向かってきた。
途中で、とあるシャンパン色スーツの青年が女子と合流し、一緒にイズルたちの前に来た。
「あなた……
英子はまずその青年に声をかけた。
「お久しぶりです、英子さん」
青年はさわやかな笑顔で挨拶を返した。
「イズルの誕生日のために来てくれたのね、わざわざありがとう」
なぜか、英子の表情が少し強張った。
「いいえ。これも仕事の一環ですから」
そう言って、陽華という青年はイズルに微笑みをかけた。
「イズルさん、お久しぶりです。お誕生日おめでとうございます。」
「お久しぶりです……?すみませんが、以前、どこかでお会いしたことがありますか?」
イズルは困惑した。彼の記憶によると、この青年とは初めての対面のはずだ。
「イズルさんが小さい頃に、うちのお坊ちゃまとうちの島で一緒に暮らしていました。お二人は毎日喧嘩ばかりで、本当に困りました」
「島?」
「最後に会ったのは、イズルさんが6、7歳の頃でしょう。私もかなり変わりまして、覚えていないのも普通でしょう」
イズルは妙だと思った。
彼の物心の付きが早かった。幼稚園で先生にいたずらをしたことすら覚えている。
けど、どんなに記憶を探っても、陽華らしい人物が見つからない。
イズルが間を置いたら、陽華と一緒に来た女性は自己紹介をした。
「ご招待いただき、ありがとうございます。初めまして、
イズルと短い挨拶を交わしたら、緑縁は英子を《》誘った。
「英子さん。この間のプロジェクトの詳細について伺いたいです。ちょっとお時間をいただけますか?」
「えっ、今から、ですか……?」
英子は心配しそうにイズルと陽華に振り向いた。
どうみても、これはイズルと陽華に二人きりのチャンスを作るための話だ。
「大丈夫です。『少々疑問がありますけど、話し合えばすぐ解決できると思います』」
緑縁は穏かな笑顔で英子を安心させようとした。
「……」
その話に隠された意味を理解して、英子は心配しながらも頷いた。イズルに「すぐ戻るわ」と伝えて、緑縁について行った。
もちろん、イズルも気付いた。
これは、わざわざ彼と陽華に作られた話の時間だ。
イズルは何も言わずに、陽華の切り出しを待っていた。
「ご家族のこと、とても残念と思います」
イズルの一家の悲劇に触れたのか、陽華は笑顔を収めた。
「親族関係が断ち切ったから、遠慮されたのでしょうか、ご家族は万代家のことについてうちに相談しませんでした。もしそれを知っていたら、悲劇を事前に防げたのかもしれません。万代家がやったこと自体は、異能世界にとってとんでもない迷惑行為です。これから、ほかの勢力も彼らの制圧に動き出すでしょう」
「……」
「とんでもない」といえば、陽華のその話にもとんでもない情報量が入っている、とイズルは思った。
「その話からすると、『私たち』と『あなたたち』は『親族』だったんですか?」
「ご存じないですか?……あっ、すみません」
いきなり、陽華は何かを思い出したように、苦笑した。
「イズルさんの記憶が削除されたことをすっかり忘れました」
「……」
ベランダの洗濯物を忘れた~
みたいな軽い言い方で告げられた「重大事件」を聞いて、イズルはさすがに笑えない。
そういう手段が好きなのは万代家だけじゃないのか……
「あなたたち暗黒家族は、人の記憶を勝手にいじっていいUSBメモリーと思ってない?」
「すみません。故意による削除ではないです。『異能力封印』の副作用のようなものですので、事前に予想できませんでした……」
「……」
またまた、「重用事項」を夕べ雨が降るかな~
みたいな表情で暴いた。
イズルは一度ため息をしついて、丁重に陽華に要求した。
「……陽華さんですね。できれば、最初から、話を聞かせてもらえませんか?『一番最初から』でお願いします」
陽華はイズルをつれて、誰もいない中庭に出だ。
「イズルさんの家は、確かにうちの家族の一部でした。うちはかなり古い異能家系だけど、時間の流れに連れて、異能力がだんだん衰えていて、族人を縛られなくなりました。たくさんの族人は離脱を希望しました。数十年前に、家の当主は脱離の条件を出した――
『離脱するなら、未来永劫に自分と子孫の異能力を封印する。勝手に封印を解いたら、本家からの処刑を受ける』
あれから、生まれた子供が異能力を持つ場合、皆一度本家に訪れて、その力を封印してもらいます。イズルさんの異能力は十数年前に、うちの島で封印されたものです。その封印のせいで、能力に関連する記憶が失ったのでしょう」
「……」
陽華がさらっと経緯を伝えたら、イズルは先ほどの英子の心配がわかった。
「陽華さんは今回、オレを処刑しに来のか?」
「イズルさんの場合はちょっと複雑ですね」
陽華は気軽そうな笑顔で続けた。
「封印が解けたのは、命の危険に遭遇したせいで、自分の意思と関係なく、本能が働いた結果だと思います。本来なら、もう一度封印を固めて、不問となりますが――
最近、イズルさんはまたその封印を解けようとする報告を受けました。私はその一件の調査に参りました」
「……オレはまた封印を……!?」
イズルはピンと来た。
まさか、青野翼にやってもらった異能力制限解除っていうのは、封印の解除なのか!
通りに、青野翼の態度は妙だった。
やつはきっと自分の家系も異能力の封印も知っているんだ。
「老当主は皆さんに異能力を封印させたのは、異能世界と一般社会の秩序を守るためです。私がまず知りたいのは、イズルさんが封印を解除する理由です。その理由によって、処置も変わります」
「命を守るためだ。万代家に狙われっているから、身の安全を守るために強い異能力を手にしたい」
「そうですか?」
陽華は少し戸惑った。
「私が聞いた話ですと、恋のライバルに勝つために、一時的なやきもちで解除を希望したのですが……」
「!」
絶対に青野翼のやつが情報を流したな!
イズルは心の中で青野翼を百回殴った。
「とにかく、オレは万代家に入ったことを知っているだろ。オレはもう異能世界に戻ったから、このぐらいの力を持っていてもいいだろう。それに、この力を一般社会に使うつもりはない。見逃してくれないか?」
「イズルさんの理由を上に報告します。が、最終の判断を下すのは私ではないです。それともう一つ――」
陽華は話しながら、右手で空気中に何か図形を描いた。
すると、彼の周りに、数十本の火炎が形成された。
陽華を中心に、火炎は大きな鳥かごに化して、中庭の全体を覆う。