目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

97 昔の家族

「実は、気になることがあって、ちょっと調べました」

英子の疑問が分かって、イズルは一言の説明を添えた。

「英子さんはあの家の女性がいいと思ったのは、もしかして、向こうがうちと何か深い因縁でもあるから?」

イズルがすでにいろいろ知ってるようで、英子も隠せずに裏のことを告げると決めた。

「因縁というより、あちらはうちの保護人みたいなもので……」

「保護人……?」

英子は続こうとしたら、先ほど注目した女子はこちらに向かってきた。

途中で、とあるシャンパン色スーツの青年が女子と合流し、一緒にイズルたちの前に来た。


「あなた……陽華ようかくん、なの?」

英子はまずその青年に声をかけた。

「お久しぶりです、英子さん」

青年はさわやかな笑顔で挨拶を返した。

「イズルの誕生日のために来てくれたのね、わざわざありがとう」

なぜか、英子の表情が少し強張った。

「いいえ。これも仕事の一環ですから」

そう言って、陽華という青年はイズルに微笑みをかけた。

「イズルさん、お久しぶりです。お誕生日おめでとうございます。」

「お久しぶりです……?すみませんが、以前、どこかでお会いしたことがありますか?」

イズルは困惑した。彼の記憶によると、この青年とは初めての対面のはずだ。

「イズルさんが小さい頃に、うちのお坊ちゃまとうちの島で一緒に暮らしていました。お二人は毎日喧嘩ばかりで、本当に困りました」

「島?」

「最後に会ったのは、イズルさんが6、7歳の頃でしょう。私もかなり変わりまして、覚えていないのも普通でしょう」

イズルは妙だと思った。

彼の物心の付きが早かった。幼稚園で先生にいたずらをしたことすら覚えている。

けど、どんなに記憶を探っても、陽華らしい人物が見つからない。

イズルが間を置いたら、陽華と一緒に来た女性は自己紹介をした。

「ご招待いただき、ありがとうございます。初めまして、程緑縁ていりょくえんと申します。緑縁でいいです」

イズルと短い挨拶を交わしたら、緑縁は英子を《》誘った。

「英子さん。この間のプロジェクトの詳細について伺いたいです。ちょっとお時間をいただけますか?」

「えっ、今から、ですか……?」

英子は心配しそうにイズルと陽華に振り向いた。

どうみても、これはイズルと陽華に二人きりのチャンスを作るための話だ。

「大丈夫です。『少々疑問がありますけど、話し合えばすぐ解決できると思います』」

緑縁は穏かな笑顔で英子を安心させようとした。

「……」

その話に隠された意味を理解して、英子は心配しながらも頷いた。イズルに「すぐ戻るわ」と伝えて、緑縁について行った。


もちろん、イズルも気付いた。

これは、わざわざ彼と陽華に作られた話の時間だ。

イズルは何も言わずに、陽華の切り出しを待っていた。

「ご家族のこと、とても残念と思います」

イズルの一家の悲劇に触れたのか、陽華は笑顔を収めた。

「親族関係が断ち切ったから、遠慮されたのでしょうか、ご家族は万代家のことについてうちに相談しませんでした。もしそれを知っていたら、悲劇を事前に防げたのかもしれません。万代家がやったこと自体は、異能世界にとってとんでもない迷惑行為です。これから、ほかの勢力も彼らの制圧に動き出すでしょう」

「……」

「とんでもない」といえば、陽華のその話にもとんでもない情報量が入っている、とイズルは思った。

「その話からすると、『私たち』と『あなたたち』は『親族』だったんですか?」

「ご存じないですか?……あっ、すみません」

いきなり、陽華は何かを思い出したように、苦笑した。

「イズルさんの記憶が削除されたことをすっかり忘れました」

「……」

ベランダの洗濯物を忘れた~

みたいな軽い言い方で告げられた「重大事件」を聞いて、イズルはさすがに笑えない。

そういう手段が好きなのは万代家だけじゃないのか……

「あなたたち暗黒家族は、人の記憶を勝手にいじっていいUSBメモリーと思ってない?」

「すみません。故意による削除ではないです。『異能力封印』の副作用のようなものですので、事前に予想できませんでした……」

「……」

またまた、「重用事項」を夕べ雨が降るかな~

みたいな表情で暴いた。

イズルは一度ため息をしついて、丁重に陽華に要求した。

「……陽華さんですね。できれば、最初から、話を聞かせてもらえませんか?『一番最初から』でお願いします」


陽華はイズルをつれて、誰もいない中庭に出だ。

「イズルさんの家は、確かにうちの家族の一部でした。うちはかなり古い異能家系だけど、時間の流れに連れて、異能力がだんだん衰えていて、族人を縛られなくなりました。たくさんの族人は離脱を希望しました。数十年前に、家の当主は脱離の条件を出した――

『離脱するなら、未来永劫に自分と子孫の異能力を封印する。勝手に封印を解いたら、本家からの処刑を受ける』

 あれから、生まれた子供が異能力を持つ場合、皆一度本家に訪れて、その力を封印してもらいます。イズルさんの異能力は十数年前に、うちの島で封印されたものです。その封印のせいで、能力に関連する記憶が失ったのでしょう」

「……」

陽華がさらっと経緯を伝えたら、イズルは先ほどの英子の心配がわかった。

「陽華さんは今回、オレを処刑しに来のか?」

「イズルさんの場合はちょっと複雑ですね」

陽華は気軽そうな笑顔で続けた。

「封印が解けたのは、命の危険に遭遇したせいで、自分の意思と関係なく、本能が働いた結果だと思います。本来なら、もう一度封印を固めて、不問となりますが――

最近、イズルさんはまたその封印を解けようとする報告を受けました。私はその一件の調査に参りました」

「……オレはまた封印を……!?」

イズルはピンと来た。

まさか、青野翼にやってもらった異能力制限解除っていうのは、封印の解除なのか!

通りに、青野翼の態度は妙だった。

やつはきっと自分の家系も異能力の封印も知っているんだ。

「老当主は皆さんに異能力を封印させたのは、異能世界と一般社会の秩序を守るためです。私がまず知りたいのは、イズルさんが封印を解除する理由です。その理由によって、処置も変わります」

「命を守るためだ。万代家に狙われっているから、身の安全を守るために強い異能力を手にしたい」

「そうですか?」

陽華は少し戸惑った。

「私が聞いた話ですと、恋のライバルに勝つために、一時的なやきもちで解除を希望したのですが……」

「!」

絶対に青野翼のやつが情報を流したな!

イズルは心の中で青野翼を百回殴った。

「とにかく、オレは万代家に入ったことを知っているだろ。オレはもう異能世界に戻ったから、このぐらいの力を持っていてもいいだろう。それに、この力を一般社会に使うつもりはない。見逃してくれないか?」

「イズルさんの理由を上に報告します。が、最終の判断を下すのは私ではないです。それともう一つ――」

陽華は話しながら、右手で空気中に何か図形を描いた。

すると、彼の周りに、数十本の火炎が形成された。

陽華を中心に、火炎は大きな鳥かごに化して、中庭の全体を覆う。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?