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第二十二章 花婿試練?

104 獏と羊

誕生日パーティが終わったら、イズルは車を運転して、リカと一緒に家に移動した。

まだ営業中のデパートを目にしたら、リカはいきなり声をあげた。

「ちょっと止まって、そっちのデパートに行ってくる」

「付き合うよ」

にこやかな笑顔で乗り出すイズル。

「ダメよ。ここで待っていて」

きりっとした顔で断るリカ。

「……やっぱり、オレの気持ちを弄んでいるだろう」

しゅんと落ち込むイズル。

「一人のほうが早い……」

言い方に問題があると気づいて、リカは補足した。

「でも、一人ほうが寒いだろ」

「私は平気よ。車が寒いなら暖房の温度をあげて」

イズルはリカの手を掴もうとしたら、リカがすぐに身を翻して、車を出た。

「……」

イズルは自分の眉間を摘んだ。

お互いに好きなのは多分本当だけど、一体どこが噛み合わなかったんだ?


20分も経たずに、リカはプレゼント袋を持って帰って、丁重にイズルに渡した。

「誕生日プレゼントを忘れた……ごめん」

「!」

(だから、「ついてきてはダメ」なのか……)

イズルはさっきの謎を解けた。

リカを理解するには、一歩待ったほうがいいと悟った。

「急いで選んだので、気に入らなかったら無理にもらわなくても……」

「リカからくれたものなら、なんでも――」

イズルは待ちきれずに袋の中身を掴み出した。

「これ、なに?」

何か動物のぬいぐるみだ。

長い鼻で、デブデブな体。色はラベンダー、耳なし。

「獏」

「獏?」

さすがリカだ。動物でもこんなレアなものを選ぶのか……

イズルは心の中で感心した。

「悪夢を食えると言われるから、ベッドの近くに置いて」

「なるほど」

リカが獏を選んだ理由に気づくと、その獏がもっとかわいく見える。

「ありがとう、枕の隣に置いとく」

気に入ることを表すように、イズルは獏のほっぺに軽くチューした。

そのしぐさに、リカは心のどこかで痒いを感じて、口元に微笑みが浮かんだ。

「この子、リカの催眠羊と似てるな。帰ったらふたりを並べて写真を取ろう」

「獏と羊が似てるわけがないでしょ……引いていえば、目が閉じているところが同じだけど」

リカはイズルの目を疑った。

「外見じゃなくて、機能的に似てるんじゃない?リカの羊はどこで買ったの?」

「両親がイギリスから持ち帰ったもの」

「ご両親が……」

リカの両親ときたら、イズルはリカの家庭の事情を思い出した。

「そういえば、ご両親の飛行機はどうなってる?」

「先ほどメッセージが来て、もう家に着いた。私は明日に帰る」

「今から送ってあげよう。早く両親に会いたいだろ?」

リカの気持ちを配慮するほかに、イズル自身も早くリカの両親に会いたいと思う。

「帰ってきたばかりだから、今頃、まだ祖父と話をしているでしょう。邪魔したくない」

「そうか……」

リカの家庭関係に微妙な匂いを嗅いで、イズルはこれ以上追わず、黙って獏を紙袋に戻した。

すると、紙袋の底に、ある紫のお守りを見つけた。

そのお守りはリカが持ってるものとほぼ同じだが、結びの色は青色だ。

「これも、オレに?」

「ちょっと前にできたものだけど、渡しのを忘れた。念のため、持っておいて」

リカの表情が少し真面目になったので、そのお守りに何か裏があるとイズルは悟った。

「これの効果は催眠じゃないよね」

「人に頼んで作った法具が入っている。精神干渉系の異能力を妨害できる。万代家の上層部の人たちは皆も似たようなものを持っている」

「ありがとう。オレの異能力が即時に対応できなかった場合はこれに頼るね」

「それと、ちょっと特殊な機能がついている……」

いきなり、イズルのスマホがメッセージの着信音が響いて、リカの話を遮った。

イズルはメッセージを消そうとしたら、その文面に驚いた。

「どうしたの?」

イズルはメッセージを開いて、リカに全文を見せた。

「本当に、ご両親からの?」

「!」

リカもイズルに負けないくらいびっくりした。

リカの両親と名乗る人は、イズルに対面の招待を送った。

発信の番号は、確かにリカの父のものだ。


***

リカの家族と食事をするために、マサルは今日のすべての仕事を断った。

食事がなくなったけど、気持ちがドン底に落ちたせいで、何もやるたくない。

オフィスにいてもしょうがないので、早めに家に帰った。

彼の自宅は万代家の「龍居」ではなく、その付近にある普通の一戸建てだ。

天童大宇に「龍居」に誘われたことがあるが、マサルは「私ごとき」という理由で断った。

プライベートまで、天童大宇の監視下に置きたくないから。


マサルは家の扉のノブを握ると、鍵がかかってないことに気づいた。

「!」

マサルは警戒を高めた。

今まで、カギ閉めを忘れたことが一度もなかった。

自分以外に、エンジェも鍵を持っているが、まさか、エンジェが?

しかし、部屋の照明は全部消えている……ひょっとして、エンジェが一度来て、カギ閉めを忘れたのか?

でも、まだ人の気配があるようだ……

マサルは静かにドアを開けて、足音を忍ばせて部屋に入った。

2階の寝室のほうに物音がした。


マサルは2階の廊下で寝室を覗くと、ある人が懐中電灯を持って、部屋の中を探っているのを見た。

(泥棒!?)

マサルは懐から拳銃を出して、その人影に指しながら、ライトをつけた。

「動くな」

「ひっ!!」

人影は震えて、抱えている物を全部落とした。

「お前っ、シユウ!」

マサルは驚愕だった。

思い出したばかりの嫌な奴、なぜ自分の家にいる?

「も、もう帰ってきた?はやすぎるだろ!」

シユウもマサルと同様にびっくりした。

逃げようとしたが、マサルの拳銃に気づいて、その場で行動力を失った。

「俺が留守だと知って、盗みに来たのか?」

マサルはシユウをきつく睨む。

「ち、違うんだ……エン姉に頼まれて、忘れ物を取りに来たんだ!」

シユウは慌てて、床から写真集を拾いあげた。

それは、エンジェのモデル写真集だ。

「なぜお前に頼む?」

「そ、それは……」

シユウの目がクルクル回ってから、パッと大きく開けて、マサルを睨み返した。

「お前のせいだろ!」

「!」

「お前はエン姉をひどく傷付けたから、彼女はもうこの部屋に入りたくない。だから俺に頼んだ……俺も好きできたんじゃねえんだ!」

マサルは無言にシユウの足元に落ちたものを見る。

高そうな腕時計が数枚、限定版の車の模型が数個、最新のゲーム機……

「……」

泥棒のくせに、よく威張るようなことを……

お金になるものの中で、エンジェの写真集がダントツに違和感がある。

エンジェは、なぜこいつをこんなことをさせるのか……

確かに、こいつの能力は……

「!」

シユウがここにいる理由に気づいて、マサルは拳銃を一ミリ迫った。

「その写真集を渡せ」

「な、何を……いまさら!エン姉はお前と復縁などしないぞ!」

「とぼけるな、その写真集の中にある手紙だ。お前の能力は『誓言反噬』だろ」

その写真集に、マサルが書いた手紙が挟まれている。

去年、エンジェの誕生日にエンジェに頼まれて書いたものだ。

エンジェがプレゼントに愛の手紙が欲しいとねだっていたので、マサルは彼女の希望通りの文面を書いた。

内容は――生まれてきてくれてありがとう、俺の傍にいてくれてありがとう、ずっと愛している、ずっと離れない……など、一見、普通の痴話だった。

問題にあるのは、その手紙ではなく、シユウの異能力だ。

シユウの異能力は「誓言反噬」。他人が約束を違反する証拠を手に入れると、その人に不運を運べる。

今まで、その能力はほとんど借金返済の催促に使われていた。

「俺に不運を運ぶつもりか?」

「ち、違う……エ、エン姉は……」

シユウは言葉に詰まったら、マサルのスマホからメッセージ受信の音が何回も鳴った。


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