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105 撤回させない

マサルは梱包用のテープを出して、シユウの手足を縛った。

それからスマホのメッセージを目に通した。

「!!」

知らない番号からのメッセージだけど、その内容が衝撃的なものだ。

一番早いスピ―ドでメッセージを読み終わったら、マサルはさっきよりも凶悪な目線をシユウに向けた。

シユウはまずいと察して、一生懸命に足掻いた。

「俺、何も知らないぞ!エン姉はお前たち二人が夫婦喧嘩だって!お前にちょっとお仕置きをしたいだけだって!何があっても、彼女はお前を抑えられるから、この部屋の物は好きに取っていいって!全部、全部彼女が……!!」

マサルは取り乱したシユウにメッセージの内容を見せて、冷たい声で聞いた。

「この『エンジェルクラブ』、お前も入っているのか?」

「えっ……」


「エンジェルクラブ」はエンジェが会社名義で作った撮影クラブ。彼女が認める若い男性しか入れない。

事実上、エンジェが自分の勢力を作るためのところ。

エンジェは万代家の任務システムを真似して、クラブの掲示板でリアルクエストを出す。

クエストの内容は大体ショッピングの付き合いや写真の修正などつまらないもの。それに通じて、エンジェは自分の言いなりになる人を洗い出す。

そのような人たちに、自分が持っている本物の家族任務を分ける。

クラブに参加する若い男性は、ほとんど万代よろずよ家の新人か、継承順位の低い人。地位を上げるために、喜んでエンジェの遊びに付き合う人がそこそこいる。


マサルはずっとそのクラブの真相を知らなかった。

さきほど、スマホに送られたメッセージを見るまで……


一通目のメッセージは「エンジェルクラブ」の仕組と詳細。

二通目のメッセージはクラブのメンバーリストと、それぞれのメンバーがエンジェに付き合った内容と回数。

三通目のメッセージは、エンジェがメンバーたちに振り分けた家族任務。


マサルはこの上のない屈辱を味わった。

自分と交際していたこの二年間、エンジェは愛を囁きながらもほかの男と遊びまくっていた。

さらに、エンジェは落合からもらった美味しい任務を特定メンバーに分けていた。その中の二、三人はもう落合の側近になった。

エンジェとの関係はもう終わった。男のプライドを捨てて、広い心で過去の嘘や裏切りを許せたとしても、ほかに大きな問題がある。

エンジェは落合の隠し子。落合には正式な子供がいないので、必ずエンジェの選んだ男を抜擢する。

マサルの競合品のような人はまた増える。


どうやら、前々から、エンジェと落合は自分を切り捨てる準備をしていたようだ。

「……」

マサルはある決定をくだして、ぼうっとメッセージを見ているシユウに交渉を出した。

「俺の条件を飲めば、今日のことは見なかったことにしてやってもいい。でないと、俺はお前の体を操って犯罪をする。異能力に体を操られたという理由は、今の社会では通用しない」

「は、はい……!なんなりと!」

シユウはとにかく、ここから逃げ出すことを優先して、何回も頷いた。

「落合の側近に会いたい。俺から声をかけたら向こうは応じないだろう。だから、俺の代わりに、お前がやれ」


ある暖かい照明に照らされている小さな部屋の中で、あかりはパソコンの操作を一旦止めて、お菓子に手を伸ばした。。

この間ずっとまとめていたエンジェクラブの資料をやっとマサルに送った。

それで、あの二人の関係を徹底的に壊せばいい。

できなかったとしても、嫌がらせの効果は抜群だろう。

エンジェの本性はもう隠しきれない。

マサルはどう動くのか分からないけど、ほかの手も用意してある。

しばらく休んだら、あかりはまた作業に入った。

異世界でリカを陥れたカツオは「エンジェルクラブ」のメンバーだ。あかりはカツオのアカウントにハッキングして、クラブのDMでエンジェにメッセージを送った。

「エン姉、助けて!俺は戻ってきた!天童大宇の人に地下室に閉じ込められた!

霊護がなくても異世界に行けるんだ!奴らは異世界の人材を独占するために、霊護の嘘をついた!

本当はもう何回も往復したんだ!俺が向こうで奴らの計画を見破って、チャンスを見て一緒に扉に入って、戻ってきたんだ!

このスマホは俺のものじゃない、他人のものだ。ほかの電話番号を覚えていないから、ここで助けを求めるしかない!お願い!助けに来て!

母と叔父に知らせて!」


「エンジェは星空の石を盗んだということは、異世界にいくつもりだよね……」

「早く行けよ、霊護なしで……」

年齢を超えた黒い影が、あかりの目に浮かんでいる。

「絶対許さない……あなたたちのせいよ」

「お姉ちゃんが離れるのは、あなたたちのせいだ!」


***

告白した日に彼女の両親に呼ばれたが、恐らく告白と関係ないだろう、とイズルは思った。

第一、リカの両親は告白のことを知らない。

だったら、一体どうして帰国早々自分に声をかけたのか?

マンションに戻ったイズルはリカに両親のことを聞いた。

「ご両親はどんな人?」

「二人ともハイレベルの異能力者。家の中では、先輩として後輩を指導する立場。基本的に親切で、他人のことを干渉しない主義」

「基本的に?」

「いつも忙しくて、家にいる時間が少ない。仕事場でどんな様子なのか、私もよくわからない」

「……じゃ、家ではどんな感じ?リカとどんな風にやり取りをしている?」

「どんな風に……」

リカは少し考えて、珍しく不確かな口調で話した。

「勉強は…特に問題ないので、教えてもらったことがほとんどない。ご飯は…家政婦さんか私が作ったのが多い。三人で一緒に食べることが少ない。二人とも出張するときに、電話をくれる。毎年の誕生日プレゼントは私の好きなものを選んでくれる。家にいなくても、EMSとかで送ってくれる。あと、私の友達関係を干渉しない……大体、こんな感じ?」

「……」

(なんだか、語られるエピソードがないような……)

イズルはなんとなくリカの家庭事情を理解した。。

かなりドライな家庭関係のようで、どこか義務家族の感じもした。

だからリカへの感情教育が欠けているのかもしれない。

リカの一家は万代家という暗黒組織の頂点に立つ家庭である。

だが、みんなも仕事のために駆けずり回るせいで、一般家庭にあるべき匂いがなくなったみたい。


「ご両親は、どんな用件でオレを呼んだと思う?」

イズルは本題に戻った。

「あなたに何か任務を依頼する可能性が高いと思うけど、あなたは私の推薦で入族した私の直属部下、依頼するなら、まず私に言うのが普通のはず……」

「マサルか誰かに唆されて、『100億をやるから、娘から離れろ』って可能性は?」

「両親の知力を侮辱しないでくれる……?」

リカの顔色は一変し、採点スマホで思いきり大幅減点をした。

「……」

採点スマホをみると、リカは何かヒントを掴めた。

「そう言えば、あの異常天気が発生した空港は、新世界の勢力範囲だわ」

「!」

言われたら、イズルも妙なことを思い出した。

「偶然だな、今日青野翼のやつがいない……オレは彼をパーティに招待したけど、断られた。何か大事な用事があるから休みを取りたいって気味悪い顔で言った」

「まさか、彼が異常天気の件に関与してるの」

「かなり怪しいだろう」

「じゃあ、明日、私がそいつのところにいく。話を叩き出す」

思い出せば、リカはまだ青野翼と裏社会の身分で対面したことがない。今回のことをきっかけに、そろそろ開き直そうとリカは思った。

「電話で聞けばいいだろ?わざわざ行かなくても……」

「普通に聞いていも何も言わないと思う」

「確かに……でも、両親のほうはどうする?」

「二人が呼んだのはイズルだけだから、私に知らせる必要のないことでしょう」

「……」

(やはり、よそよそしい親子関係だな……)

そのコメントを口にせずに、イズルは背中をソファに預けて、話をチャラかした。

「しかし、明日もまた一緒にいられないなんて……告白の次の日に、デートに行くのは決まりなのにね。残念……」

イズルが雰囲気を和らげろうとするのが分かって、リカもその話に合わせた。

「そんなに残念だったら、『あなたが好き』という話を撤回する。そうすれば、決まりを守らなくていいでしょ」

「だーめ」

イズルは笑って腕を伸ばして、ソファから起き上がろうとするリカを腕の間に囲んだ。

「もうちゃんと受け止めたから、撤回させない」

そう言って、イズルは唇を軽くリカの唇に重ねて、そっと引いた。

「!」

リカの速くなった心臓音の中で、イズルは微笑んだ。

「これは、証だ」


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