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108 本当の異能力

***

イズルは片膝を地について、燃えるよう息を調整している。

リカの両親は数歩先で、驚きな視線で彼を注目している。

三人がさっきまで入った大聖堂も、薔薇の壁もすべて消えた。

周りにあるのは未開発な不毛な土地だけだ。

空気の中に、微かな火の光が残っていて、何かが焦げた匂いが漂っている。

「守護系、じゃない?」

最初に疑問の声を上げたのは、リカの母の綾綺だ。

「……」

リカの父の天童嵩の眉間に皺ができて、同じく不可解な視線でイズルを見つめている。

イズルは仕方なさそうに苦笑した。

「そのようですね。自慢ではないが、私はお二人が想像したより、もっと危険の存在のようです。でも、あの大聖堂までお二人の『異能力』とは、本当に驚きました」

イズルは自分の手を見る。

手を始め、彼の全身から微弱な赤い光が浮かんでいる。

「純粋なエネルギーはあんなこともできるのか……なるほど……だから、私はそれを喰えた」

何かを納得したように、イズルは呟いた。


***

誕生日に、イズルは陽華から自分の異能力の真相を教えられた。

「私たち炎帝一族の力は文字通りの炎、だけど、普通に目で見える火炎のことだけではありません」

陽華は両手で別々の火炎を点した。

右手にあるのは真紅色の炎の輪、左手にあるのは金色の火玉。

「私たちが操る炎は、すべてのエネルギーを燃やし、相手のエネルギーを自分の『燃料』にすることができます。つまり、他人の力を喰って、自分の力にすることができます。転化の効率は、自分の力の強さや、相手の力の属性や強弱によって違います」

陽華は二つの火炎を重ねたら、金色の火玉は真紅色の輪を喰い始めて、だんだん大きくなる。それに対して、真紅色の輪が崩れ、小さな火花となり、形もなく散った。

「法術はみんな、エネルギーを特定なルールで構成されているもの。安定構成があったからこそ、力を発揮しています。エネルギーの一部を燃やせば、その構成が壊され、法術が機能しなくなります。

 それは、イズルさんは他人の異能力を無効化できる原理です。

 イズルさんの力は弱いから、守護系だと誤解されました。でも本当は、守護ではなく、『溶断』と『併呑』です」


先ほど、イズルは強引にリカの両親のエネルギーを喰って、自分のものにした。

イズルの力の属性は炎、まだまだ鍛錬が足りなくて、そう強くない。もしも、相手の力の属性は相克の水で、イズルよりも強ければ、無茶をするイズルは破目になる。

幸運なことに、リカの両親の力は属性のない純粋なエネルギー。しかも、本気でイズルを攻撃する意欲がなかった。

力の使い方を模索しているイズルにとって、ちょうどいい経験値になった。

でも、こんな乱暴な使い方が始めて、イズルは力を完全に吸収できなかった。

今体から溢れている光と熱は、その喰えなかった分からの反動だ。

イズルは熱い血が体内で乱流しているような感じがした。


「この力のこと、リカにもまだ教えていないです。まずお二人に見せたのは、私なりの誠意です」

イズルは息を整えて、もう一回リカの両親の説得を試みた。

「リカは、仲間たちを助けるために、ずっと異世界に行く方法を探しているのはご存じでしょう。リカは仲間たちさえ助かれば、二度と戻らなくてもいいと言いました。

 万代家の継承人にとって、『実力のある配偶者』が必要かもしれないが、リカ本人にとって、一番必要なものはなんなのか、彼女の両親として、知らないはずがないでしょう」

イズルの優しくなった眼差しを見て、リカの両親は一瞬気を緩めた。

しかし、イズルの目線はまたきりっと鋭く光った。

「それに、私の復讐は、リカや万代家にメリットがないとは限らないでしょう」

「!」

「私の復讐はトラブルしかないなら、入族が歓迎されなかったと思います。少なくとも、私から見れば、私の入族を心地よく受け入れた方が何人もいます」

昨日、陽華の頼みとリカの話から、イズルは自分が七龍頭たちに歓迎された理由を大体読めた。

おそらく、自分の家族の殺害を含めて、万代家は何かをやらかして、異能世界のほか組織にも睨まれた。

その危機から潔く身を引くために、万代家の上層部は「毒龍」である落合を切り捨てようと企んでいる。

落合に深い恨みのある自分は、彼の処刑人に選ばれた。

なら、問題は復讐ではなく、復讐の後、自分はどんな立場になることだ。

使い捨ての凶器なのか、それとも、功労者として各組織の協力者なのか……

すべては、彼自身の働き次第だ。

「娘のパートナー」か、「落合の処刑人」か、

リカの両親はどういう目線で自分を試しているのか分からないけど、せっかくのチャンスだから、二人に認めてもらうように働くまでだ。

「私の復讐の方法によって、リカの継承人としての地位を固め、ご一家の悩みを解決する可能性もあるのでは?お二人がわざわざ私に会いに来た理由も、そこにあるでしょう」

「……」

リカの両親は沈黙でイズルの話を認めた。

昨日、青野翼が彼たちにイズルのことを紹介して、「ある交渉」を持ちかけた。

彼たちはイズルを確かめてから返事をするだけを言って、すぐ承諾しなかった。

正直、イズルのことをあんまり期待しなかった。一人で相手組織に侵入する方法で復讐、仇である家族の継承人のリカと恋愛、どう見ても感情に流される無謀な世間知らず。

しかし、イズルの今の対応で彼たちは分かった。

イズルはただの恋愛脳ではない。

年齢と経歴に合わない鋭い観察力と狡猾を持っている。


二人がまだ自分の出札を待っているのを知って、イズルは続けた。

「リカはどんな未来を歩むのか、私は断言できません。断言できるのは、彼女のいるところは私の居場所。たとえ愛人扱いされても、彼女の夫となる人を喰って上がる自信を持っています」

「……」

リカの両親はイズルの目から、炎が見えた。

真摯で、灼熱の炎だ。

だが、決し野性に任せて無謀に蔓延するような狂おしいものではない。攻撃性を持っていながらも、理性に抑えられている。

「これは私の提案です。私は復讐をコントロールできる範囲内にします。ご一家に迷惑をかけません。その代わりに……」

イズルはまだ交渉条件を言い出していないのに、天童嵩のほうから意外要求があった。

「その代わりに、リカを連れて、万代家を離れろ」

「!?」


***

リカはGPSでイズルの居場所を追跡し、ある無人の公園に辿り着いた。

イズルは彼女を待っているように、ベンチから身を起こして、微笑みを見せた。

「大丈夫!?」

「見ての通り、完全無欠」

確かに外見では無事。

でも、青野翼のプログラムの観測によると、霊力の急上昇が発生した。両親の能力に連想したら、リカはやはり安心できない。

「頭は……大丈夫?精神的に安定している?」

「意味は分かっているけど、言い方を変えてくれないかな」

イズルは苦笑した。

「……」

自分でもその言い方に違和感がしたリカは聞き方を変えた。

「両親とどんな話をしたの?」

「婿試練だ」

イズルはにっこりと笑った。

「……」

リカの疑いの目線を見て、イズルは笑顔を収めて、真面目な表情になった。

「リカは、ご両親の実の娘じゃないよね?」

「!どうして、それを……」

「やっぱり、リカも知っているんだ」

「……」

リカは口を噤んだ。

そんなことは誰からも教えられていない。

でも、リカは数年前からそれを知った。

祖父はよく「リカは私に似ている」などを口にしているけど、リカは両親と外見面で全然似っていないのが事実だ。

なにより、リカは偶然に両親の身体検査の報告を見たことがある。

両親の血液型はAとB、でもリカのは珍しいRhA型だった。

自分の本当の出身を気にならないのは嘘だけど、リカは両親や祖父から真実を伝えられるまでに、その疑問を胸の中に抑えるつもりだった。


「実の娘じゃないけど、ご両親はリカのことをとても思ているよ」

イズルはコートの中から、小さな箱を取り出した。

箱はブレスレットが入れるくらいの大きいさで、色が地味な黒。

でも、その中に眠っているのは、不思議に光っている六つの虹色の宝石だった。

「!!」

リカは秒で分かった。宝石の中に、とんでもない霊力が宿っている。

「ご両親からの贈り物だ。このだけの力があれば、異世界への扉を開けられるだろ」

「でも、どうしてそれをあなたに……」

リカの質問はまだ言い終わっていないのに、いきなり、イズルに抱きしめられた。

「!!」

「一緒に万代家を離れよう」


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