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109 継承人失格

リカの身分以外に、リカの両親はイズルにもう一つの事実を伝えた。


「リカは落合たちに陥れたのことを知っているだろう。なぜそうなったのか、分かるのかね?」

「相手が卑怯すぎて、リカが優しすぎる……だけじゃないですね」

そう聞かれた以上、イズルも裏事情があるのに気付いた。

「リカの祖父は七龍頭の首席だ。数匹のネズミから自分の継承人を守るくらいのは簡単なことだ。オペレーターの選出といい、異世界へ行くメンバーといい、精査しないわけがない。あえてやつらの陰謀を放置したのは、おそらく、リカに試練をかけていたのだろう」

「!」

意外な事実だったが、イズルはさほど驚かなかった。

タイミングよく復帰して、リカにガイアリング点検の任務を与えたのはあの老人だ。自分にガイアリングの破壊を助力したのも彼だ。

むしろ、なるほどと感服した。

「父が見たいのは星空プロジェクトの成功ではない。その任務が失敗してもいい。リカは失敗から立ち上がれるかどうか、立ち上がったらどのように反撃をすることこそ重要だ」

「リカは見事に立ち上がって、相手に反撃したと思います」

リカが自分を守るために、エンジェたちに対抗することを思い出して、イズルは思わず心が暖かくなって、微笑ましい気分になった。

だが、天童嵩から疑問があった。

「本当に、そう思うのか?」

「……」

やはり、自分を守ることはハズレなのか……

「確かに、リカの個人能力は彼女の代ではずば抜けている。だが、異世界から戻ってから、あなたの命や仲間の助けを優先する時点で、すでに家の継承人としては不合格だ」

「……ということは、仲間をきっぱり捨てて、影であの件を利用してエンジェやマサルを追い詰め、落合を引っ張り出したほうが正解だったのかな」

イズルはから笑いをした。

「そんな老獪みたいなことをしたら、リカじゃないでしょう」

「やはり、あなたはリカより万代家の上層部に相応しい」

「光栄です」

何と言っても、屈辱を我慢して、密かに工作して、長年をかけても復讐することを、イズルは実際に企んでいた。

「でも、これで話はおかしくなりますよね。私の復讐に問題がない、私の能力にも問題がない、私を万代家から追い払う理由が成立しなくなります。ひょっとして、問題があるのは私ではなく、リカのほうですか?」

話がここまできたら、イズルはいよいよ自分が試される理由が見えてくる。

「お二人の本当の頼みは、『リカを連れて万代家から離れる』より、『万代家からリカを守ってほしい』ですよね」

イズルの頭の回転が速くて、話が思ったよりも早く進んでいる。

天童嵩に一度頷いてから、綾綺はイズルの推論を認めた。

「ええ、私たちは、もう一人の娘を失いたくない」


リカの両親には、実の娘がいた。

その子が順調に生まれたら、万代家の第七代目の長女となり、未来の七龍頭の首席の資格を持つ。

しかし、その子は生れる前に邪法を施され、奇形で生れた。

二人は自らの手で、あの子の苦しみを終わらせた。

それを知った天童大宇は、孫娘の死亡を隠して、二人に一人の赤ん坊を渡した。

その赤ん坊はリカだった。

天童大宇の孫娘が七代目の長女であることは変わらなかった。

万代家の上層部では、リカの「力」を頼っているので、天童大宇のやり方を黙認していた。でもその同時に、反対派は継承ルールの変更に手をかけた。

リカの働きによって、彼女は相変わらず継承人順位一位を占めているが、天童大宇の実の孫娘ではないことはもう隠しきれない。

リカの両親が帰国する日、青野翼は二人に交渉を持ちかけた――

万代家がリカを徹底的に手放すのか、それとも、

リカが天童大宇の実の孫娘ではないことを万代家の全員に知らせて、天童大宇の反対派に口実を与えるのか。


リカの両親は青野翼の交渉のことを伏せて、娘思いの理由だけどをイズルに伝えた。


***

「奇妙だね。両親はあなたのことをよく知らないはずなのに、なんで一回の試しだけで……」

イズルの説明を聞いてもリカはピンとこない。

彼女の印象では、両親はもっと慎重な人だ。余程のことがないかぎり、知らない人のイズルにこんな唐突な頼みをしないはず。

「やはり、青野翼は二人に何かを言ったのかな……」

「正直、オレもまだ疑問を持っているけど、ご両親はあなたのことを害しないだろ」

「……それはそうだけど」

リカの表情が深刻になったら、イズルは軽い口調でちゃらかした。

「なるほど、リカから見れば、オレはご両親に認めてくれるのがおかしいことだね。つまり、オレは簡単に信用できない人間……青野翼の言葉より信用できないんだ」

イズルのわざとらしい表情はムカつくけど、リカはなぜか笑いたくなる。

リカの気が緩んだ隙を見て、イズルはリカの両頬を掴んで、彼女の目を自分の目に合わせた。

そして、もっと真剣な態度で告げる。

「リカに謝らなければならない。リカを万代家から連れ出すのがオレの望みでもあるけど、オレはただでご両親の依頼を受けたんじゃない」

「あなたの条件は……?」

「知っているだろ――復讐だ」

「復讐」の二文字を口にすると、イズルの目に重い影が走った。

その条件はリカの予想中のものだ。

「これは、オレの一生のお願いだ。一カ月をくれ。復讐の結果はどうであれ、オレはあなたと一緒にあなたの仲間を助けに行く」

異世界の扉を開ける力を手にした以上、リカはきっとすぐにでも仲間たちのところへ行くのだろう。

でも、イズルはそれを止めなければならない。

一つ目の理由は、もちろん復讐のためだ。

もう一つの理由は、彼の本当の力は守護系じゃない。リカを異世界に送れられない。この事実をまだリカに知られたくない。

リカに利己主義の自分を恨ませても、リカの希望を潰したくない。

「わがままを言っているのは分かっている。でも、リカはオレのことが好きだと言っただろ?なら、オレを一人にしないで」

甘えるように、イズルは自分の額をリカの額に当てる。

「……」

家族を失ったイズルの痛みをリカはもちろん知っている。

そして、彼が復讐のこと以外にも、何か葛藤していることもなんとなく感づいた。

復讐の闇に捕らわれたイズルを見いていて、リカは心が痛む。

それでも、リカは「復讐してもあなたの家族が戻らない。イズルの幸せにために復讐をやめよう」なんか言わなかった。

イズルの辛みも、幸せも、イズル自身しか判断する権力がない。

リカが異世界から戻ったばかりの頃に、たくさんの人に助けを求めていた。その人たちの中で、「親切」にリカに「諦めよう」と助言をする人もいた。

「残念な結果になったけど、エンジェやマサルたちを追い詰めてもみんなが戻れない。エンジェたちの行為はすでに過失だと判断されていた。リカはまだ若いし、将来にいっぱいチャンスがある。今は家に固執しても、リカのためにならない」

他人が本当に大事にするものも分からないのに、勝手な親切で人に「正しい道」を勧める――なんて滑稽だ。

少なくとも、リカはそのような「お人よし」になりたくない。

人間ドラマみたいな綺麗ごとを語ってイズルに説教するより、

今はイズルを信じ、イズルと一緒に彼の選んだ道の重さを背負いたい。

リカは自分の両手をイズルの両手に優しく覆う。

「一か月、復讐に手伝うわ」




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