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第二十三章 別れは復讐の始まり

110 別れの言い訳

デートの定番と言えば、観覧車は一席を占める。

澄み渡る空、冬の暖かい陽射し、薄い雪に飾られた都市……

このような人の体温に恋する季節に、好きな人と一緒に徐々に上昇する観覧車の中にいれば、ドキドキしないものはいないだろう――

が、殺風景にも、今この観覧車の小屋にいる二人が、「別れ」の話をしている。

リカはしばらく沈黙していたら、イズルは声を一層やさしくした。

「別にこの計画じゃなくてもいいよ。偽装と言っても、『別れ』のようなもので、よい思い出にならないだろう」

一刻も復讐を実行するために、二人は一芝居を売るのを検討している。

その第一歩は、イズルとリカの関係を「断つ」ことだ。

そうでもしないと、落合に接近するチャンスを作れない。

でもいざ詳細の検討に入ったら、リカは何も言わなかった。

その沈黙が「偽装決別」という計画に気に入らない意味だと思って、イズルはちょっと嬉しかった。

でも残念なこと、リカは別の解釈を出した。

「この計画に問題があるわけじゃない。何も言わなかったのは……私は、高所恐怖症があるから」

「……」

「この高さまで来ると、頭はもう空っぽ、なんの策も考えられない」

「……」

(なんてことをしたんだ……)

イズルは自分のチョイスに死ぬほど悔しかった。


「ごめんなさい!全然気づかなった!早く教えてくれればよかったのに」

観覧車から降りたら、イズルは急いで甘さたっぷりのタピオカミルクティーを差し上げて、謝罪をした。

「遠足の小学生みたいにわくわく列に入ったあなたの前で言いづらかった」

リカは肩をおろして、ミルクティーを一口飲んだ。

「……オレはもう大人だから、そんなことを気にしなくていい」

もう小馬鹿にされたくないから、イズルはさっそく自分の精神年齢を主張した。

リカは相変わらず毒舌だけど、最近採点スマホの減点メロディーを鳴らしていないのが一種進歩かも知れない。


陽射しは暖かいし、二人はしばらく飲食エリアに座って、賑やかな通行人たちを見ながら話をした。

「でもおかげで、リカの苦手なものが一つ分かった。これからちゃんとリカを配慮するよ。ほかに苦手なものはある?」

「まとめてから送る」

「どれほどあるんだ……」

イズルはツッコミをしたら、リカからの冷たい目線を感じた。

「どれほどあっても、全部覚えておくっと言いたいんだ!」

イズルもまた慌てて不適当発言を挽回する。

その下手な言い訳が、リカに出会った当初の小馬鹿を扮するイズルを思い出させた。

そんなに昔なことではないのに、なぜか懐かしくて、リカは思わず口元に微笑みを浮かべた。

「そんなことより、さっきの『別れ』の計画――」

リカは話を戻した。

「私は意見なしよ」

「訂正、『偽装決別』の計画だ」

イズルはニコニコして訂正を入れた。

「一点だけ、偽装だからこそ、納得できる理由を作らなければならない。落合は狡猾で、エンジェやマサルもあなたに接触しことがある。いつでもあなたのことを落合に流せる」

リカは軽く眉を顰めて、真面目に「別れのシナリオ」を考える。

「でも、マサルの線をそのまま利用できる。例えば、マサルが祖父や私を取り込もうとするところ、あなたが阻止に入る。祖父はきっとあなたたち二人を和解させようとする。そこであなたは不服を持って上司の私に訴えて、私に相手にされなかった。それで、あなたは疑心暗鬼が生じて、ほかの後ろ盾を探し始めて、以前から面識のある落合にアプローチする」

リカが描いたシナリオにイズルは納得しなかった。

「それって、やきもちの理由で裏切者になったような流れだろ。オレの設定、ひどい方向に行っていない?」

「もともとひどいでしょ?このシナリオは唐突もないし、理に適うと思うよ」

「……」

リカの当たり前のような表情を見て、イズルはまた悔しく思った。

当初はなんであんなひどい設定でリカに近づけたのか……

「落合たちはオレの初期設定を知らないはずだ」

「それもそうだね……ごめん、考え直すわ」

リカが次の設定を言い出す前に、イズルは自分の案を出した。

「一番簡単な理由は、オレは大宇さんがオレの家族を殺害した張本人だと疑うことだ。あなたに媚びを売って万代家に入ったのも、大宇さんを疑っているからだ。最初から復讐一直線、裏切りより自然だろ?」

「落合は疑い深いよ。あなたの家族の一件の張本人と言ったら、誰でも真っ先に彼に連想する。いきなり祖父を疑うと言ったら、逆に彼の警戒心を強める」

「言い訳を二重にすればいい」

イズルを指二本を立てる。

「まず、落合側の人に通して、『大宇さんを疑っている』ことを落合に流す。きっと落合も仲介人も信じないだろう。そこで、負けを認めて、『大宇さんを疑うのはただの言い訳。大宇さんが『落合が張本人』だと言ったから、落合に接近して、真相を求めたい、と、二つ目の嘘をつく」

「人間は疑問を持っている状態で過激な行動をしない。疑い深い落合だからそう考えるだろう。彼にとって、復讐目標を定められないオレは利用しやすい相手だ。いい人に扮して、オレに『張本人はほかにいる』とアピールしてくるかもしれない。落合と直接にやり取りができれば後のことはなんとかなる」

「なるほど……それなら、ルートを最短にするために、仲介人は落合の側近である必要があるね――」

リカは少し考えたら、人選を出した。

「じゃあ、私たちたが一度交際をして、そして別れたことを――エンジェに伝えて」

「エンジェ?あいつはオレのとこで何回も転がった。オレのことをかなり警戒しているはずだ」

リカは冗談なしでイズルの目を見つめながら、エンジェを選ぶ理由を伝える。

「エンジェは、『他人のもの』が大好きよ。それに、マサルがこっちの戻った今、メンツのためにも、彼女はきっとあなたの寝返りを歓迎する」

イズルはちょっと驚いたが、何かいいことを聞いたように、くすっと笑った。

「ということは、オレはリカのもの?」

「!」

イズルの話の意味を理解したら、リカの心臓が小さくドキッとして、思わず目を逸らした。

「とにかく、エンジェはきっとあなたに興味を持つから、彼女に当ててみて」

リカの反応を気に入ったのか、イズルは笑顔で続けた。

「でも、『リカのもの』のオレは直接にエンジェに連絡したら、人を頼む側になる。あいつはもったいぶるかも。できれば、真ん中に誰かを挟んで、エンジェを釣り上げる形のほうがいい」

「……」

エンジェに情報を流す餌と言ったら、リカとイズルは同時に同じ人物を思いついた。

二人の目線が会ったら、呼吸ぴったりにその人の名前を口にした。

「ようこ」

ようこやエンジェの性格を知り尽くしたリカ、狡猾で頭の早いイズル、二人が真面目に話せば、すぐに初歩の計画を完成した。

一息を休んだら、イズルはずっと気になっていることをリカに聞いた。

「そういえば、オレはどうやって復讐するのを、聞かない?リカを危険な境地に引きずるかも知れないよ?」

リカはその質問に答えしなく、別のことを聞き返した。

「祖父は七龍頭の首席。本当に、祖父が張本人ではないと信じているの?祖父が張本人じゃなくても、一枚を噛んでいるはずよ。復讐相手を落合だけにして、本当にいいの?」

「……」

二人はしばらくお互いの目を真っすぐに見つめいてた。

疑問があっても深く追い詰めなかったのは、相手なりの優しさ。

お互いに傷つけないために、二人はできるだけの妥協をした。

その妥協はハリネズミが適切な距離を保って温もりを分け合うようなものだけど、幸い、二人はハリネズミではない。

こうして、手を繋げて、触れ合うことができる。

短い沈黙を破ったのはイズルのほうだ。

「リカ、計画をうまく実行するために、オレはリカのものである証拠がほしい」

「証拠?指輪……とか?」

「それはそのうち必要となるけど、今じゃない。今のオレが欲しいのはようこたちに見せるためものじゃない。オレの気持ち的な証拠だ」

「気持ち的な証拠?」

リカがまた真面目な考えに入ろうとしたら、イズルの笑顔が柔らかくなった。

イズルはリカの後ろ頭を受け止めて、その暖かい唇でミルクティーの香りをふんわりと味わった。

「!」

リカはちょっと驚いたが、なんとなくこう来ると予感した。

イズルの唇から伝わった触感の甘さが、好きな味だった。

遊園地はとても賑やか。みんなも自分の楽しみに夢中していて、誰も二人を気付けなかった。

花壇に立っている真っ白な天使の彫像だけが、この一刻を見届けた。


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