まもなく、イズルの結婚に関心を寄せる英子はイズルの相談電話を受けた。
「
更に五日後、午前二時、エンジェはようこの狂ったようにかけてくる着信音にびっくりした。
ブルースのBGMが流れている夜のバーで、エンジェは新しく知り合った若者たちに自分が「旦那さん」に捨てれら、家に不公平に扱われた悲しいエピソードを語っている。
まさに、流行っている「いじめられた花嫁」や「毒婦に誤解されたいい女」の小説や漫画のパターンで、みんなかなり興味津々に聞いていた。
そんないいところを邪魔されてくないので、エンジェはようこの電話を何度も出ないままで切ったが、ようこは諦めずにかけつづけてくる。
うんざりでたまらなくなったエンジェはやむを得ず、ナンパをやめて、トイレに隠れて電話に出た。
「何をするのよ！今は何時だと思う？またどっかのチンピラに振られたの！？」
「振られた振られた！」
エンジェの文句に、ようこから興奮しそうな叫びが返された。
「だから言ったでしょ！男というものはね……」
「うちじゃない、リカだよリカ！リカが振られたの！！」
「リカ？どいうこと！？」
「ニュース見た！？CEO兄ちゃんはお金持ちのお嬢様と結婚したの！だから、リカは振られたの！！」
エンジェは五里霧中にようこが送ってきたリンクをクリックして、ニュースの内容を読んだ。
「まさかの『婚約発表』、
もう一方、朝っぱらから、
「クソイズル！！あたしをここまで利用して！！絶対殺してやる！」
奇愛は等身大なカエルのおもちゃに突き込んで、思いきりおもちゃの頸を絞めた。
隣に、ぼうっと突っ立っている軌跡がいる。
彼の背中に傷がなかったら、絞められたのは彼の頸かもしれないだろう。
「軌跡兄ちゃん、誤解しないほしい！！あたしの眼中にあなたしかいないの！」
怒りをカエルにぶつかったら、奇愛は軌跡の胸に飛び込んだ。
「誤解？どうして？聞いたところで、いいことじゃないか？」
「どこがいいことなのよ！親たちが無理やりに決めて、相手がイズルのバカのことを伏せてた！！」
「お二人は会社の継承者だから、適切な組み合わせだと思うけど？」
「どうしよう！あんなやつの思う壺にならないわ！」
奇愛はそわそわ部屋中を歩き回って、そして、人生の重大事項を決めたようにきりっと拳を握りしめた。
「軌跡兄ちゃん！駆け落ちをしよう！」
「駆け落ち！？」
軌跡は更に訳が分からなくなった。
「そうよ！それしか方法がないの！！」
奇愛は軌跡の両手を握りしめて、熱い目線で軌跡を見つめる。
「資金とルートはあたしが確保するから、軌跡兄ちゃんはあたしについてきて！！」
「なるほど、小さい頃によくやってたままごとか。今回は何処に逃げる？廃棄されたお化け屋敷？営業終了のデパート？テレビタワーの頂上？」
奇愛の意味を誤解して、軌跡はアハハと笑った。
「ままごとじゃない！本気の駆け落ちなの！！」
奇愛は弁解しようとしたが、軌跡はもう聞き耳を持たない。
「分かった分かった。久しぶりだから、俺も本気でその遊びに付き合おう！」
「…………」
また告白に失敗した奇愛は悶絶しそうになる。
「ところで、そんなにやりたくないなら、そのCMのモデルをほかの人にを頼めばいいだろ？」
エンジェやようこを驚かせて、奇愛を怒らせたのは、神農グループと趙氏財団の新しい協業プロジェクト。
神農グループのブランドホテルと趙氏財団のブランドジュエリーが共同開発する豪奢ウェディングサービスだ。
プロジェクト自体の客層が狭くて、それほど話題になっていないが、起用されたCMモデルが風の匂いに敏感な人たちの神経を刺さった。
神農グループはイズル、趙氏財団は奇愛を出した。
それに加えて、イズルが用意したニュースでは、そのCMはまるで、二人の婚約発表のために作られたもののように書いてあた。記者会見でも「仲間」を使って変な質問を出して、「婚約」のニュアンスを匂わせた。
エンジェはニュースを読み終わって、まだ信じられない。
ようこはまだとても重要な知らせがあると言って、エンジェの家に押し寄せた。
仕方がなく、エンジェは夜店のイケメンたちを放っといて、急いで家に戻った。
夜中にも関わらず、ようこが近くの居酒屋で焼肉フルコースを用意して、上機嫌にエンジェを誘った。
だが、談話する場所がおしゃれなバーからおじさんが詰まっている居酒屋になって、エンジェの機嫌がガクンと下がった。
「……渡海CEOはただ微笑んで、『すべては完成後のCMで確認してください』と言った……？これ、本当に婚約なの？」
ようこは肉を口に詰めながら、スマホでニュースに載せているサンプルの指輪の写真を拡大した。
「当たり前でしょううぅぅ～～もぐもぐ……この婚約指輪のデザインをみれぇ～～ごくごく……Ｉはイズルで、Ｋは奇愛らろおお～～ゲップ！生、お代わり！！」
「……」
その下品な食べ方にエンジェは軽蔑な目線を投げた。
「リカはお姫様だから～自分の男がほかの女とあんなＣＭをやったら、顔が丸つぶれじゃないか？許すはずがないわ！だから～二人は絶対に別れみたいな大きな問題があったのよ！！アハハ」
「あんた、やけに嬉しそうね。リカをそんなに気に入らないだっけ？」
ようこのテンションの高さが異常だと気付き、エンジェは目じりで彼女を睨んだ。
「もちろんよ！リカはまた男を失くしたから！前回のマサルちゃんはあなたのものになって、今回のCEO兄ちゃんはうちのものになるの！リカこそ、親友のキュービットだよ！アハハ！」
「あのイズルがあなたのものに？どういうこと？」
ようこの話がますます意味がわからない。エンジェは眉を釣り上げる。
ようこは身を屈めて、神秘そうに声を低くした。
「へへ、実はね、CEO兄ちゃんから連絡を受けたの！うちを『パパ』になってくれるって！」
「な、なに！？」
エンジェは目を白黒させた。
「今日の午後、CEO兄ちゃんはいきなり電話をかけてきて、リカに恨みがある女のリストも送ってほしいって言ったの！全員をデートに誘って、リカに思い知らせてやるって！
何があったのか分からないけど、リカに怒っているのに違いない！やっぱ、うちが見込んだ通りのドSCEOだった！
うちは『いいな、うちもリカに恨みがあるけど、なにかいいものをもらえる』って試しに言ったら、『じゃあ、これからお前のスポンサーになってやる』って快諾してくれたんだ！」
「馬鹿馬鹿しいわ！絶対にリカの差し金よ。あの男の手を借りて自分に恨みのある女を一掃するためよ」
エンジェは鼻でフンした。
「でも、あのニュースは本物よ！まだリカの男だったら、リカの顔を打つようなＣＭを出演しないじゃない」
「本物でも、CEOの奥さまはあの趙氏財団のお嬢様、あんたじゃないわよ！早く目を覚ませ！」
エンジェは鋭い声でようこを叱ったが、ようこはへらへらと笑い続けた。
「大丈夫大丈夫、愛人くらいでしょ～何年後に愛人が奥様になれば、奥様は愛人になるのよ。勝ったもんは勝ちってことよ！うち、愛人一号でいいから、エンちゃんは二号になったら？」
「酔っぱらってるの！この花畑脳が！！」
マサルに振られて、落合に叱られ、エンジェの機嫌が最悪。
もうようこのバカ話に付きあう余裕がない。
机を叩きながら立ち上がって、離れようとした。
ようこはすぐにエンジェを引き止める。
「あらら、ごめんごめん。実は、CEO兄ちゃんがそう言ったの」
「あたしが愛人二号になってって！？」
エンジェの肝は怒りで炸裂そう。
「違う違う！うちは、リカに恨みがある女と言えば、エンちゃんが一番だとCEO兄ちゃんに教えたの。すると、CEO兄ちゃんは、エンちゃんと誤解が多すぎるから、デートする前にまず仲直りしたいって！」
エンジェは白目を剥いた。
この花畑脳、自分の指導がないとロクな話もできない！
