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113 偽りの「デート」

イズルは自分の動揺を心配していたが、その心配を打ち消せる事件がすでに進行している。

とある民家で、マサルの体はマリオネットのように、ソファに倒れている。

彼の意識は、この民家の主人の体の中にある。

マサルは、民家主人の男の体を操縦して、パソコンから情報をコピーしている。

「やはり、落合があんなに進んで渡海わたるみ家を抹消したのはわけがある……これらの証拠をあの渡海イズルの前に投げたら、どうなるのだろう……?」


週末。

イズルの誘いで、イズル、エンジェ、ようこ三人はブランド店が並んでいる高級商店街でデートをした。

イズルは今までリカからもらった辛口コメントをうまく加工して、リカが彼を舐めている諸々としてエンジェとようこに愚痴をつけた。

エンジェはまるで長年の友人のように、優しくイズルに寄りそう。

ようこは「怒っている時はご飯!」という理由で高級レストランに案内して、フルコースにお祝いのケーキまで注文した。

「今日は記念日だ!三人が友達になったことに、乾杯!!」

ようこは乾杯の音頭を取った。彼女が盛り上がり役を買ったから、話はかなりスムーズになった。

お酒が進んだら、イズルは計画通りに、天童大宇を疑っていることをエンジェたちに流した。

天童大宇てんどうだいうを疑っている?下手な言い訳だね。このイズルはまだリカのために働いている可能性が高いわ。でも、まあ、適当に合わせて、まず彼の機嫌を取って、油断させよう)

イズルを疑いながらも、エンジェはイズルの家族の件に遺憾を示して、自分にできることがあれば遠慮なく言ってとアピールした。

イズルも分かっている。今日は「初めてのデート」、これ以上

押したら目的が露骨し過ぎる。

イズルは愚痴を聞いてくれるお礼として、エンジェとようこにブランドバッグを注文して、友好な雰囲気で食事を終わらせた。


度数の低くないワインを5杯連続飲んでいたのか、レストランを出る時に、エンジェの足元はもうフラフラ。

イズルは紳士的に手を伸ばしたら、エンジェにギュッと腕を抱きしめられた。

「気を付けて」

腕を引き出そうとする衝動を抑えて、イズルは礼儀正しい笑顔を見せた。

エンジェは赤くなった顔と潤んだ瞳で、恋する少女のようにイズルの腕を軽く揺らしながら、甘い声を返した。

「イズルちゃんこそ、気を付けてね。イズルちゃんの力は、とても珍しいもの、リカはきっとイズルちゃんを見逃さないわ。天童大宇もかなり危険だから、彼のことを疑っていても、表では逆らってはいけないわ」

「分かっている。だから、こうして、自分に有益な人脈を早く作りたいんだ。お二人にも頼っているよ」

「ええ、もちろん、イズルちゃんのためなら……ぐすっ」

話の途中、エンジェの声はいきなり震えた。

そして、訳の分からない愚痴を言い始める。

「以前もこんなことがあったの……あいつらは、マサルちゃんの力が珍しいから、彼を奪った……今は、イズルちゃんの力が珍しいって……絶対、言い訳だよ。どうして、どうしてリカはいつもあたしの好きな人を狙うの?みんな、みんな彼女が先だと言って、あたしを責めるばかり……先に好きになったのはあたしなのに……恋に先着はないでしょ!?いいえ、違う、あるよ、あたしが先だから!」

乱れた話を喋っているうちに、エンジェは小さく泣き始めた。

「……」

イズルは警戒を高めた。

リカから聞いた話だと、エンジェは飲み会や夜のバーの常連、酒癖がこんなに悪いはずがない。

なんのためにこんな下手芝居をしているのか?

隣に、ようこは気持ち悪くくすくすと笑っている。

「イズルちゃん、大好き~家まで送って~」

エンジェはナマケモノのようにイズルにべたついて、馬鹿笑いながらねだっていた。

(どうやら、今日はもう話せなくなるな……)

イズルは明日の朝に仕事があると言って、エンジェとようこにタクシーを呼んだ。


タクシーが去ったまもなく、イズルはようこからメッセージを受けた。

「CEO兄ちゃん!うち偉いことをしたよ!感謝して!

 うちはエンちゃんに秘蔵の異能力『キュービットの矢』を使ったの!彼女はもうCEO兄ちゃんに恋をしたの!

 どうどう?うち、でき女でしょ!CEO兄ちゃんのために、親友を裏切ったの!何かご褒美をちょうだい!!」


「……そういうことか」

イズルの口元がぴくっと動いた。

でも、ようことエンジェが同じ穴のムジナであるのは一日二日のことじゃない。

いくら金銭のメリットがあっても、ようこは簡単にイズル側に付くはずがない。

「でも、異能力の影響がなくてもあんな恥知らずの演技ができたら、さすが感心するな」

イズルは一度冷笑して、追加でようこに限定版のブランド財布を送った。


「見てた?お金は、こうやって増やすものよ!」

タクシーの中で、エンジェはイズルの追加プレゼントのメッセージをようこに見せながら自慢した。

酔っぱらった様子はもう全然ない。

「はいはい、エンちゃんって、主演女優賞並みの演技だよね。キュービットの矢がなくても、ふか~~い愛を演じるのね」

ようこは感情の込めていないない拍手をした。

「ふん、これで、いろいろ便利になるわ。『愛情』のために狂った女は利用しやすい。誰でも知っていることよ。一度あたしを利用して、甘みを味わったら、男は気が緩む。だんだん、本気であたしを頼りにする。マサルちゃんの時のようにね」

「すごい!じゃあ、最後は、マサルちゃんと同じように、エンちゃんを捨てるのね!」

ようこはわざとエンジェに棘を刺す。

「なんだと!!」

エンジェの人でも殺せる目線に睨まれたら、ようこはさっそく言い換えた。

「あはは、冗談冗談!お二人はぜひお幸せに、うちは愛人で満足するよ!あっ、そろそろ駅、運転手さん、そこに止まって!」


逃げるように走って行ったようこの後姿を睨んで、エンジェは鼻から怒りの火を噴いた。

「あんたの企みを知らないとでも思って?こっそりマサルちゃんを狙っていたことはまだ忘れていないわ。あたしはリカのようなバカじゃないわ。自分の男をほかの女に共有するものか。待っていろよ、リカの次はあんたの番よ!」

この時、ようこを処分するチャンスがもう訪れないことを、エンジェは思いもしなかった。


そんなに飲んでいないとはいえ、イズルはお酒を飲んだことがほとんどない。家に帰って、気が緩んだら、気持ち悪いめまいを感じた。

次の対策を考えようとしたが、頭がうまく回らない。

微熱に唆されて、イズルは青野翼からもらったスマホでリカに電話をした。

「助けて……」

「どうしたの?」

イズルの弱気の声を聞いて、リカは少し緊張した。

「気持ち悪い……」

「悪いものでも食べた?」

「悪いエネルギーをいっぱい食わせた……正直、リカはどうやってあんな奴らを十数年も我慢できたの?」

(エンジェとようこのことか……)

リカはとにかくほっとした。

でも、なぜ我慢できたのかと言われても……エンジェやようこたちに関して、我慢というより、軽信というほうが正しい。

「……私は馬鹿だから」

「違うよ。リカはやさしいから」

イズルは微笑んでリカの解釈を訂正した。

顔を見ていないのに、イズルがきっと優しく微笑んでいるとリカは知っている。

その言葉で、心の中の暗いものが暖かい色に染められたような気がした。

リカの情緒の変化に気づいたのか、イズルは軽く笑って、甘える口調になった。

「オレの心臓は悪いエネルギーのせいでだめになった。優しいリカに癒してもらいたい」

「……どうやって?」

そんな話し方、恥ずかしくないの?という疑問を持ちながらも、リカはイズルの要求を聞いた。

「そうだね……」

ぱったり思いついたねだりだけど、イズルは目じりでカレンダーの日付を覗いたら、いいアイデアを浮かべた。

「歌ってほしい」

「歌?」

いきなりの注文にリカは戸惑った。

「『クリスマスおめでとう』……いいえ、『きよしこの夜』とか」

「なんで?」

「『クリスマスおめでとう』はクリスマスの日の残しておきたい」

「……答えになっていない」

リカが聞きたいのは、なんで「歌」と「きよしこの夜」なのか、でもイズルは勝手に次の注文まで確定した。

「はぁ……リカがいない、妖怪が手ごわい、お酒がまずい……オレは一夜も眠れないかもしれない」

お酒のおかげか、イズルの甘えぶりが更に大胆になった。

「……お酒か」

リカはやっとイズルの「混乱」の理由が分かった。

酔っぱらった人に論理性を求めてもどうしようもない。

リカは「きよしこの夜」の半分くらいを歌った。

「……もういいでしょ、お酒に弱いなら、早く寝たほうがいい」

イズルもこれ以上わがままを言わない。ただ、スマホに

「リカ、好きだ」と囁いた。

電話向こうのリカの頬がお酒を飲んだみたいに赤くなった場面を見えなかったのは、とっても残念なことだった。


リカの声に癒されて、エンジェたちの対応でごちゃごちゃになった気持ちも楽になって、イズルは良い眠りを期待していた。

しかし、いきなりのドアベルは彼の睡眠を邪魔した。

受話器を付けたら、管理員の五十嵐が画面に映された。

いつもの元気いっぱいな五十嵐の目が、重い影に覆われている。

「俺だ。マサルだ」

(五十嵐じゃない!?)

「!!」

リカからマサルの異能力について聞いたことがあるが、さすがイズルも驚いた。

「お前に話したいことがある。お前の家族の一件の真相だ」

「……」

イズルの楽になったばかりの神経はまたきつく張った。

(この夜は、きよこしにならないみたいだね……)


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