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114 悪党のアジト

電話を切ってから、リカもクリスマスの日が近いことに気づいた。

「間に合うかどうか分からないけど、プレゼントを用意しようか……」

リカは小さく微笑んだら、また真面目な表情になった。

「でもその前に、邪魔なやつらをなんとかしないと、クリスマスも楽しくなくなる」

両親から扉を開けるほどの霊力をもらったから、いつでも異世界に行けるようになった。

この間、マサルと一緒に活動をした結果、何人から協力の承諾をもらった。

協力者たちをカモフラージュにやってもらって、落合を誘き出すことができる。

みんなを騙す罪悪感を振り切らないが、疑い深い落合たちを騙すには、「本番」を用意しないといけない。


「仲直りデート」の日から、エンジェはイズルを積極的に攻めていた。

天童大宇の容疑を証明するために、天童大宇一家がやっていた数々の悪事をまとめて、イズルに資料を送った。

もちろん、そんな数々の悪事に、「リカは一枚を噛んでいる」と明記されている。

更に、イズルが要求する前に、天童大宇から彼を守ってくれる「貴人」を紹介すると提案した。

エンジェの情熱的な愛情表現に、イズルは感心した。ある意味、このエンジェの器はとても大きい。

イズルは喜んで取次をエンジェに頼んだら、案の定、落合の名前が出た。

「いろいろ手間を省けたな」

エンジェの返事を見て、イズルは鼻で笑った。

思ったより順調ということは必ずしもいいことではない。

そんな簡単な道理は当然分かっている。

相手は打算があっても、それでいい。

エンジェや落合にとって、今はただ探り合いの始まりだろう。

だが、イズルにとって、今は決着寸前だ。

つまり、相手が油断しやすく、イズルは集中している状態だ。

落合みたいな陰険者を相手に、彼が油断しているうちに一撃必殺しないと二度目のチャンスはないだろう。

皮肉にも、イズルに最後の決心を与えたのは、マサルからの情報だ。

もう一度自分の意志を確認してから、イズルはリカに電話をして、落合を誘き出すための準備を頼んだ。


次の休日、エンジェはイズルを落合に別荘に案内した。

最初にその別荘を目にしたら、イズルは不気味な感じしかない。

こんな建物、とても別荘だと思えない。

大体の別荘は、美観か実用性の高いデザインになっているが、落合の別荘は、灰色の立方体になっている。

建物の周りには黒色の鉄の檻。庭の中に植物があるが、冬のせいで、緑が一切なし。

北風が吹いている曇った天気を背景に、この別荘は監獄に見えなくもない。

「どうしたの?驚いた?」

イズルが戸惑っているのを見たら、エンジェはイズルの腕を組んで、彼を引っ張った。

「知っている?立方体って神聖な形よ。神が残されたと言われている、いろんな宗教建物も立方体になっているの」

「なるほど、深い意味のある建物だね」

(ということは、落合は神の使者でいるつもり?それとも、神そのものになりたいのか?傲慢というべきか、恥知らずというべきか)

イズルは心の中で嘲笑った。

「フフ、物事を外見で判断してはいけないよ。いい女も同じ~」

エンジェはイズルの軽蔑も知らずに、目を瞬いて、今日の学生風メイクをアピールした。

「だろうな」

イズルはその話に同意した。

確かに、人は見かけによらずものだ。

でも、外見で判断しなくても、エンジェはいい女のわけない――と、イズルは密かに笑った。


エンジェはイズルを別荘の二階にある落合の書斎に案内した。

不気味な外見にふさわしく、書斎もかなり気味悪い。

部屋の面積が狭くないのに、天井まで届く本棚が何個も並んでいて、何本の大きな梁が天井から突き出している。

空間全体が圧迫されていて、部屋に入る途端にとんでもない窮屈を感じる。

それに、入り口が狭く、窓のカーテンがかけたまま。

カーテンの間に、一本の細い隙だけが残している。一筋の光はその隙を通して室内に射す。

落合は、いかにも悪役ボスのように、重そうな無垢材の机の後ろに座っている。

「落合さん!イズルちゃん……渡海くんは、若くて誠実、頭もよくて、一人で大きなグループをまとめています。人脈も広いし、きっとお役に立ついい人材です」

エンジェはイズルのことを誉めまくった。

「身に余るお言葉です、お嬢様」

イズルは笑顔でエンジェに一礼をした。

「お嬢様」という呼称に気に入ったように、エンジェは誇らしそう顎を上げた。

逆光に座っている落合の顔は影に隠されて、表情がよく見えない。短い間をおいて、落合はイズルに掠れた声と冷笑が聞かせた。

「いい人材だと?いい人材に装って、僕を殺しに来た殺し屋の間違いだろう」

「落合さん!違います!」

落合のやり方を熟知しているエンジェはわざと焦ったふりをした。

「こいつは、復讐のために万代家に入ったのは誰でも知っていることだ。本当は、天童大宇を疑うんじゃなくて、僕を家族を殺した首謀者だと思っているのだろう」

「そ、そんなことないですよ!ね!渡海くん!」

エンジェが弁解を催促したが、イズルは素直に認めた。

「落合さんのおっしゃる通りです。僕は、落合さんを家族を殺害した首謀者だと疑っているから、ここに来ました」

「……」

その素直な答えを聞いて、落合は「やっぱり」と片方の口元を上げた。

「落合さんが僕の家族を殺した張本人だと、リカから教えられたから」

「またリカなの!?なんてひどい!あの件は、彼女のせいなのに!!」

エンジェは落合を庇おうとしたが、落合も素直に認めた。

「そう、僕がやったんだ。どうする?ここで僕を殺すのか?」

「まさか」

イズルは顎を少し下げた。

「家族のことはもちろん大事ですが、今一番重要なのは僕自身です。僕に何かあったら、家族はあの世でも安眠できないでしょう」

「ほう、見た目より分かりのいい若者だな」

その考え方を認めたように、落合は不気味に笑った。

落合の笑いを一目して、イズルは低い姿勢で話を続けた。

「それに、僕はバカじゃありませんよ。天童大宇は万代家の首席です。ほかの張本人がいない場合、僕は必ず彼を復讐相手にするでしょう。落合さんは天童大宇のライバルです。もし僕は落合さんを復讐相手にしたら、天童大宇の陣にとって、かなり都合のいいことでしょう。ですから、僕はリカの話を完全に信じていません。落合さんを疑っていながらも、裏事情があると疑っています」

「では、どんな裏事情を想像しているのかね?」

「落合さんは僕の目的を予想したのにもかかわらず、こうして、僕をお宅にお招きいただきました。本当の張本人は、こんな危険なことをするのでしょうか。あくまで僕の憶測ですが……僕の家族件に関して、落合さんは直接に手をかけた犯人かもしれないが、その後ろに本当の首謀者がいます。落合さんは、その人の身代わりになりました。ある意味で、同じ被害者です」

イズルは心もない嘘を付きながら、落合を観察した。

落合はわざと苦味な表情を作った。

「この地位まで昇ったら、言葉を慎重に選べないといけない。お前の話に是も非も言わない。お前自身の判断に委ねる」

「……」

(さすが、老獪だな。)

イズルは心の中で嘆いた。

今の言葉で、イズルは落合に「疑い深い」一面を見せた。

疑い深い人間にとって、はっきりと答えを教えられたら、逆に疑いを深める。でも、匂わせる程度で教えられ、自分で答えに辿り着いたら、その答えを信じやすい。

落合は曖昧な返事で、「疑い深い」イズルを誘導しようとしている。

隣から、エンジェが落合の代弁者として乗り出した。

「渡海くん、落合さんは厳しく見えるけど、本当は器の大きなお方です。どんな誤解があっても、ちゃんと話せば、きっと分かり合えます。万代家の理不尽のルールで、彼も苦しめられています。渡海くんは真心で事情を教えてくれれば、落合さんはきっと渡海くんを助けます」

「言え、家族を殺した張本人だと疑っている僕のところに来て、一体なんの用がある?」

エンジェの話しに合わせるためか、落合は厳しい顔を作って、話を投げた。


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