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115 張本人との対面

イズルは一度長いため息をして、困りそうに「事情」を話し出した。

「さっきもお伝えしたように、家族のことより、今の僕は僕自身のことを一番大事にしています。万代家に入った当初、リカは僕の身の安全を承諾したけど、僕はその安全をまったく感じていません」

「ほぉ?」

興味ありそうに、落合は眉を吊り上げた。

「まずは、リカの僕に対する態度は最悪です。僕の力が必要云々って言ったのに、ちっとも僕を尊重してくれない。僕を道具のように扱っています」

「分かりますわ。リカはそうなの……」

エンジェは悲しそうに視線を下げた。

「あたしも、以前から有能なリカお姉さんが大好きで、彼女に近づくために頑張っていたわ。けれども、あたしの継承順位が上がった途端に、リカの態度がガラと変わったの……渡海くんの力はリカが家に残るための重要な条件だけど、リカの目的はもう果たした。リカにとって、渡海くんはもう用済みでしょう……」

「でしょうね」

イズルは自然な冷笑でエンジェの話を認めて、また不満そうに落合に訴える。

「それに、僕が入族した当初、天童大宇から彼の側近に抜擢すると約束をくれました。でも最近、あのマサルという男がかなり目立ちます。裏切り者なのに、天童大宇一家の食事に招かれました。僕はリカにあんなに貢献したのに、リカは僕のことを放置して、あのマサルと一緒にこそこそ行動しています。我慢して待っていても側近の話が来ない……僕は明らかに外部者に扱されたと思います」

「ふ」

落合は薄い笑顔を浮かべた。

イズルの話が本当だったら、マサルを使う計略が効いたということだ。

「それに、先日、僕はリカの両親に呼び出されて、厳重に警告されました。僕はリカの配偶者になる資格がないと言われました。マサルには家族団楽、僕には警告、どう思っても、僕は安心に暮らせない状態でしょう」

「事情は分かった。マサルは僕さえ騙した八方美人だ。お前が勝てないのも当然だ」

責任をマサルに投げて、落合はしらを切った。

「で、こんな愚痴を僕にぶつけて、僕の信用を買おうとして、一体なんの取引をしたい?お前は、『商人の息子』だろ」


いきなり強調された「商人」という言葉を聞いたら、イズルは気づいた――落合が危険を冒しても自分を招いた狙いは何なのか。

「さすが落合さん、我が神農グループの長年のパートナー。すぐに僕を信じてくれと言っても唐突ですから、『取引』はお互いに一番やりやすい形ですね」

イズルは落合の話に応じて、要求を出した。

「今、僕が一番欲しいものはリカに握られている『入族の証』の勾玉です。それがある限り、僕はリカに従わなければなりません。完全に天童大宇側から脱離するために、まずそれを削除する必要があります」

「ありえない。『入族の証』は、この家が成り立つ基本ルールだ。該当族人が裏切り者にならない限り、七龍頭でもそれを削除できない」

落合は冴えない顔で断った。

「それなら、リカを万代家から蹴り飛ばしてほしい。リカが万代家の人でなくなれば、彼女に従う必要はなくなります」

イズルの目的はともかく、今の提案がちょうどエンジェが熱望していることだ。エンジェはすぐに反応した。

「実は、リカが星空プロジェクトに失敗した後、あたしたちは彼女を追放することを提案しました。でも、途中であなたが彼女の部下として入族して、天童大宇も復活、その話がなくなりました……」

「ということは、僕は自分で穴を掘ったのか……」

「いいえ、渡海くんのせいじゃないわ!リカは悪運強いですから」

エンジェは苦い顔になったイズルを慰めた。

イズルがリカの部下として入族したことを聞いた当初、その場でイズルの命を狙ったことを完全に忘れたのように。

「でも、提案で追放できるのなら、もう一度やればいいでしょう。目の前には絶好なチャンスがあります」

「とは?」

落合はただイズルの出札を待っている。

イズルは視線を沈んで、慎重に餌を撒いた。

「実は、落合さんが担当していた、うちに契約を破棄された『品物』は、すでに『生産完了』で、今はうちの倉庫にあります」

「――」

微かだが、落合の暗い目に光が現れた。

イズルはその微小な変化を見逃さなかった。

「天童大宇もその『品物』に興味があるようです。おそらくリカに通じて、あの品物を手に入れようとしています……」

「やつらは、どうするつもり?」

イズルの話のスピードが遅くなったら、落合は催促をした。

「リカは星空プロジェクト失敗のことにずっと気になっていて、再び異世界に行こうとすることは、ご存じですよね。つい先日、彼女は行けるようになったと言って、僕に扉を開けるための場所を借りた――彼女が選んだ場所は、あの『品物』を保管されている倉庫です」

「倉庫?まさか……」

エンジェは話しに割り込んだ。

「そう、お嬢様の部下を閉じ込めたあの製薬工場の倉庫です。僕の不注意で、リカにその情報を漏らしました。本当に情けないです」

イズルはまた苦笑いをした。

「いいえ!渡海くんのせいじゃないわ!きっとリカがそうさせたのです!」

エンジェもまた、部下がイズルにボロボロやられたことを忘れて、親切にイズルを慰めた。

「あの製薬工場か……」落合は不気味にから笑いをした、「つまり、リカが異世界へ渡る際に、『品物』も一緒にあちらに運ぶつもり、と言いたいのか?」

「可能性は高いでしょう」

イズルは密かに落合を観察し続ける。

「品物」が狙われていると聞いて、彼の目の中の陰険さがいっそう強くなった。

マサルからの「情報」は本当のようだった。

自分の家族が殺害されたのは、万代家の契約を破ったことではなく、落合の「品物」と「個人計画」のためだ。


落合は「検討しとく」だけを言って、イズルとの話を終わらせた。

暗い別荘から出て、イズルはまずエンジェに礼を言った。

「今回は本当にありがとうございました。お嬢様がいなかったら、落合さんは僕の話を聞いてくれないでしょう」

「いいえ、イズルちゃんが優秀だから、認められるのは当然なことだわ」

エンジェがさりげなくイズルの腕を組んだ。

「でも、意外だったわ。イズルちゃんの力は異世界に行くために必要なものなのに、リカはなんでイズルちゃんを冷遇するの?」

さっきのイズルの話を聞いて、エンジェはうずうずしてたまらなかった。ひょっとして、本当に「霊護」なしでも異世界に行けるのか。

「僕もよく分かりません。多分、『釣り上げた魚にはもう興味がない』のと同じでしょう。どうせ、あの入族の証があるから、僕を意のままに使えると思っているのでしょう」

イズルはエンジェの考えを知らなくて、ただ彼女が好きそうな方向で話を合わせた。

「まあ、リカらしいわ。でも心配しないで、イズルちゃんはリカの道具じゃない!あたしが手伝うわ!リカや天童大宇からのすべての悪いものを振り切ってあげる!」

エンジェはマサルにも言ったセリフをそのままイズルに流用した。


二人が話しながら庭の入り口前まできたら、鉄の扉がいきなり自動的に閉まった。

別荘の脇門から、何人かの黒衣の用心棒が駆け出して、二人を囲んで、拳銃をイズルに向けた。

書斎の狭い窓から、落合の声が響いた。

「天童大宇の計画を知った以上、お前はもう用済みだ。信頼?寝返り?取引?笑わせるな。天童大宇のところで一日でも働いたら、僕はもう信用しない。それに、たとえ天童大宇のことがなくても、お前の後ろに、あの忌々しい『新世界』があるだろう」

「……」

イズルは神経を強く引き締めた。

これはまた自分への探りなのか、それとも、本気なのか?


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