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116 夢見る「お父様」

「エンジェ、戻れ。任務完了だ」

「い、いいえ!」

エンジェは一歩前に出て、両手を広げてイズルを守ろうした。

「信頼できなくても、イズルちゃんはいろいろ利益を提供してくれますよ!」

「もう任務完了と言った。『仲良し』を演じる必要はもうない」

落合はもっと厳しくエンジェを命令した。

「え、演じるじゃないわ!あたし……」

とんでもない大きな勇気を絞ったように、エンジェは辛そうな表情を作った。そして、思いきり叫んだ。

「あたしは彼のことが好きになったの!!」

「!」

「マサルちゃんに裏切られたあたしを救ってくれたのはイズルちゃんの親切と友情……もう好きな人を失いたくない!!落合さん、お願い、イズルちゃんを見逃してください!!」

「……」

さっきまで本気に緊張したが、エンジェの一生懸命のアピールを見たら、イズルは安心した。

笑いたい気持ちを我慢して、そのわざとらしい芝居に合わせた。

「これは僕と落合さんのことです。お嬢様を巻き込むわけには……」

「いいえ!イズルちゃんをここに連れてきたのはあたしだから!」

完全に勢いに乗ったのか、エンジェはイズルの胸に飛び込んで、泣きついた。

「あなたは別の目的があるのを知っいる。あなたはあたしを疑っているのも知っている。けれどっ、けれどもぉ、感情をコントロールできないの!今は分かったわ、あたしの運命の人はイズルちゃんなの!今までの悲しいことも辛いことも、全部あなたと出会うための試練なのよ!あたしはもうあなたしかいないわ!」

「……」

この劇的な激しい告白にイズルは困った。

「キュービットの矢」の影響か、それともエンジェの演技か、もう考えたくない。

すでに落合に餌を撒いた以上、ここに残る意味がなくなる。長引きしたら、気付かないうちにボロが出るかもしれません。

一刻も早く帰還したほうこそ得策だ。

このエンジェを黙らせる方法と言えば、はやりそれか――

イズルは体勢を低くして、エンジェの耳元で囁いた。

「大丈夫です。お父様はただ僕を試していると思いますよ。お嬢様」

「っ!?お、お父様……?」

案の定、エンジェはびっくりした。

「どうしましたか?天童大宇から聞いたけど、落合さんはお嬢様の実のお父様ですよね」

「っ!」


その時、落合は態度を緩んだ。

「その小僧、そんなに気に入ったのか?まあ、いいだろう。お前やよく働いた。ご褒美に、その男の命をくれてやる。だが、二度とそんな怪しい者を僕の前に連れてくるなよ、エンジェ」

落合は手を一振りしたら、用心棒たちは銃を下げて、庭から引いた。

イズルは適切な力でエンジェを押しのけて、この陰気な別荘を後にした。

エンジェをしばらく呆然に、イズルの離れた方法を見つめていて、「お父様」という言葉を繰り返した。


「ふ、名女優並みのいい演技だな」

エンジェは書斎に入ると、落合のちょっと不気味な褒め言葉を聞いた。

「彼はあたしへの偏見がとても大きいです。油断させるために、少々やりすぎが必要だと思いますわ」

口でイズルのことを話しているけど、エンジェの思考はすでに別のことに移した。

彼女は父の顔を知らない、母娘だけの家で育てられていた。

母の彼氏がと絶えたことはいないが、その彼氏たちは、みんなひたすら自分だけの快楽を求める利己主義な男、エンジェを邪魔者扱いをしていた。

母も子育てなんかより、自分の人生を楽しめる主義だった。エンジェは中学生になってから一人暮らしをさせられていた。

エンジェは母のような社会の底辺で遊びまくりの人生に満足するような女になりたくない。もっと高い地位と権力が欲しい。エンジェは自分を見下ろした男たちが自分に跪く姿を夢見ている。

優秀な男を虜にすれば、自分はあの男たちよりも、あの男たちに選ばれなかった女たちよりも優れていることの証明できると信じている。

なのに、理想の実現は簡単ではない。プライドを捨てて、屈辱を我慢して権力者たちに媚びを売っても、受け入れられるとは限らない。場合によって、嘲笑われ、もっとひどく軽蔑される。

権力者たちはみんな陰険で狡猾だ。明らかに成り上がりを狙っているエンジェを簡単に信頼しない。何も持っていないエンジェに資源を分けるのを惜しむ。

そんな権力者の中で、リカは彼女を受けれいた数の少ない人間の一人だ。だから、蛇となって、リカの懐で体を温めて、逆上の隙を狙っていた。

それでも、リカに勝ってなかった。渾身の力を使ってリカの人生を乗っ取ろとしても、天童大宇が復活したとたんに、すべては元に戻された。

母の言った通りだ。自分の「母」・出身はだめだから。

もしも、リカのような権力者の祖父や両親がいれば、自分はきっとリカに負けない!

もしも、父親がいたら、権力者やお金持ちの父がいたら……

そう、例えば、落合が自分の父親だったら……

「やりすぎのはいいけど、はまりすぎるなよ」

落合は皮肉そうに笑った。

「低い姿勢に装って、自分に貢献できそうな男をたぶらかすのはいいけど、夢中し過ぎると、そのうち演技か本気か分からなくなる。結局、マサルの時と同じ、振られたのはお前のほうだぞ」

「……」

落合の教訓はいつも耳が痛い。

しかし、それを厳しい父親が娘に与える愛の鞭だと捉えば、なぜか愛しさを感じた。

脳内で妄想を走らせたエンジェはついに勇気を出して、疑問を口にした。

「落合さん、あたしは確かにいろいろ未熟です。ご期待に添えないこともあるでしょう。ですから、ずっと不思議と思います。当初、どうして何の実績もないあたしを抜擢していただいたのでしょうか?」

落合の眉が軽く動いた。エンジェの質問の理由をすでに悟った。

「それは、もちろん、古い友人のお前の母さんのためだ」

「母!?では、本当に、落合さんは母と……あっ、す、も、申し訳ございません!なんでもないです!」

エンジェは口が滑ったふりをした。

落合は気にしないように、不愛想な笑いを作った。

「聞きたいことは分かる。お前は僕の隠し子という噂だろ?」

「!!」

「ふ、否定はしない」

「えっ、ほっ、本当に!?」

エンジェは喜ぼうとしたら、落合は話を補完した。

「だが、肯定もしない」

「えっ、一体どういう……」

「確かに、僕はお前の母さんと付き合っていた。だが、僕は後で知っていた、僕と付き合いながらも、お前の母さんは今のお前と同じように男コレクションをやっていた」

「!?」

「あの時の僕はまだ七龍頭じゃなかった。彼女のお腹の子は僕の子かどうか、僕は知らない」

「!!」

驚きと同時にエンジェは寒気を感じた。

なんということだ。自分がやっていることは、母の通った道!?

まさか、自分も母と同じような結末になるのか!?!?

「だが、お前には僕の面影があると思う」

エンジェが言葉が出なくなったら、落合はまた飴を投げた。

「お互いに安心させるために、渡海イズルの件を解決した後、DNA鑑定をしよう」

DNA鑑定の「条件」を理解し、エンジェは態度を表明した。

「は、はい!必ずこの件を完璧に処理いたします!渡海イズルから『品物』を回収し、天童大宇の陰謀を暴き、リカを万代家から蹴り飛ばします!!」

「リカ」の名前を聞いて、落合はがっかりそうに頭を横に振った。

「まだリカとの取り合いに拘っているのか?」

「そ、そうじゃないです。リカは天童大宇の継承人だから、彼女を蹴り飛ばしたら、天童大宇がきっと困るから……」

「ふふふ、ふふふふ」

落合は不気味に笑い続けた。

エンジェは思わず震えて、話を止めた。

「まだ目が覚めていないなら、いっそう教えてやろう――」

毒でも溢れそうな口調で、落合はエンジェに「ライバル」の真実を伝える。

「リカを蹴り飛ばしたら、困るのは天童大宇だけじゃない。たとえ天童大宇が復活しなくても、渡海イズルが入族できなくても、お前たちのリカを追放する提案は通らない――リカの力こそ、この万代家を異能世界の頂点に押し上げるためのお宝物だ!」

「!!」



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