目次
ブックマーク
応援する
3
コメント
シェア
通報

第9話・思い出02


「どういう事なんですか!?


 聞けばあなたは武術の道場をやっている

 そうですね!

 こんな暴力的な人間を育てて、恥ずかしく

 無いんですか!?」


病院に運ばれた俺は手当てを受け、

そのまま入院する事になったのだが……


その入院している部屋の外から声がする。


どうやら、Kの両親が到着し……

それで俺の親父を責め立てているようだ。


「大変申し訳ございません。


 ただ、少し話を息子から聞いたのですが、

 息子は私が教えた武術は使っていないとの

 事です。


 噛みつくなんて技は教えていませんから」


「屁理屈を言うな!!


 現にうちの息子は怪我をさせられたんだぞ!!

 それなのにのうのうと入院って、被害者面でも

 するつもりか!?」


「いや怪我人はうちの息子もそうですので……

 今安静にしておりまして」


「とにかく一言言ってやらねば気がすまん!!」


「そうよそうよ!!

 そこをどきなさい!!」


そしてガラッ、と乱暴に音を立てて入って来た

Kの両親は、俺を見て言葉を失った。


それはそうだろう。


顔は1.5倍くらいに腫れ上がり、全身あちこち

包帯でグルグル巻きにされ……

誰がどう見ても、こちらの方が怪我が酷いと

いうのは明らかだったからだ。


絶句しているKの両親の横で、

ボサボサ髪に無精ひげの親父が口を開き、


「おたくの息子さん、確か指の治療だけ受けて

 もう帰宅されたんでしたっけ?

 あ、3週間ほど通院が必要なようですけど。


 ウチの光郎みつろうは―――

 全治3ヶ月らしいですがね」


実際にKの指は噛みちぎってはおらず、

数針うだけの処置となったと聞いた。


さすがに分が悪いと思ったのか、彼らは

顔面蒼白がんめんそうはくになるが、


「で、でもそれはそちらが指を噛んだからで、

 それを引き離すために必死に……!」


「そ、そうですよ!

 それに武術をやっているんでしょう!?

 怖がってやり過ぎてしまったに決まって

 います!」


なおも反論してくるKの両親に、親父は頭を

かきながら、


「コイツにはね、道場に来た初日に言って

 あるんですよ。


 『いいか、人間は素手で人を殺せる。

 だから冗談でも人に向けるな』


 と―――


 だから武術を使わずに、今回は指を噛むと

 いう手段で対抗しちまったんでしょう」


そこで親父はK両親の方に振り向き、


「だってそうでしょう?

 おたくの息子さんは格闘技も何もやって

 いないんですよね?


 それでもこれだけ人間をボロボロに

 出来るんだ。


 もしコイツが本当に武術を使ったら、

 おたくの息子さん、指だけで済んじゃ

 いませんよ」


その言葉に、Kの両親は言葉を失い……

思わず顔を伏せるが、


「いやあ、大丈夫かい雨霧あまぎり君?」


そこへ担任の先生がニヤケた笑いと共に

部屋に入って来た。



この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?