「う……っ」
バダールが目を覚ます。
俺と武田さんは、一緒になってコイツを
店内の奥へと移し―――
改めて事情聴取を行うため、腕を応急処置
した後、意識を取り戻すのを待っていた。
「ひっ」
俺の顔を見て、ヤツは肩をビクッと揺らす。
「さて、あなたにはいくつか聞きたい事が
あります」
また気絶でもされたら二度手間だ。
あくまでもていねいに、ヤツに問い質す。
「あなたがやっていた事について、
いくつか質問しますので、正直に
答えてください」
カクカクと彼は首を縦に振る。
もはや抵抗する気は無いようで何よりだ。
「あなたがここで行っている事は、
アスタイル王国は承知なのですか?
それとも王国の命令で?」
「あ、ああ。
ここの連中を監視しろって言われている。
『やり方』は任せるって、上にも言われて
いたからな」
ここは召喚者たちを集めた町……
監視役と支配権限を持たせて、
やらせていたって事か。
しかし
「用無しの召喚者とはいえ、こんな扱いを
したら他の召喚者も黙ってはいないと
思いますが?
中には兄弟姉妹、もしくは仲の良い
友人と一緒に召喚されたケースも
あるでしょう。
このやり方はあまりにも
思うのですが」
『使える』召喚者であれば、それなりに
実力も高いはず。
もし彼らの中に知り合いや身内がいたら、
バレた時のダメージは計り知れない。
下手をすればその
アスタイル王国へと向かうだろう。
俺の疑問に対してバダールは、
「ここにいる召喚者は、身内や知り合いに
出会う時は―――
半々で面会する事になってんだ。
もしそこでここでの出来事をバラしたら、
残りの半分を殺すって
俺がセミロングの髪の眼鏡をかけた女性に
視線を向けると、同意するようにうなずく。
「それにしても危険じゃないですか?
誰かが覚悟を決めて、告発でもしたら……
それこそ召喚者対王国の全面戦争に
突入しますよ」
「し、知らねぇよそんな事まで!
それにアスタイル王国は昔から、
ろくなスキルを持たないヤツにはもともと
差別が激しいんだ。
あんたらが召喚者だから、まだこの程度で
済んでいるんだよ。
他の町や村に行けば、ここ以上に扱いが
酷いところなんて、ゴマンとあるぜ」
そもそも使えないスキルの人たちは、
この王国では扱いが低い―――
まあ短期間で嫌というほど叩き込まれた
から、理解してはいるけど。
一応、別世界の人間、それに非スキルの
世界から来た事を考慮して……
『この程度』の扱いになっているという
事かな。
俺が考えをまとめていると、
「な、なあ。
俺はこれからどうなる?」
その問いに俺は天井を見上げ、
「そうですね―――
あんなみっともなく格好悪い真似は
もう許しません。
とだけは言っておきます」
俺は別にここの世界の裁判官でもなければ、
世直しさせる使命も無い。
ただコイツには自分の課したルールには
従ってもらう。
相手より力があるから好き勝手出来る、
というルールで動いていたのだから、
俺は同じルールに
従ってもらうだけだ。
それ以上は俺のする事じゃないだろう。
それにまあ、コイツにはもう1つの
役割があるはずだ。
それを実行すればコイツは……
そこまで教えてやる義理も無い。
「わ、わかった」
バダールはそう言うと折れた腕を
かばいながら―――
店から出て行った。