「
「おはようございます」
それから数日、俺はこの町で過ごした。
召喚者は一応、衣食住を保証されて
いるのか―――
これといった強制や労働はなく、
のんびりとした日々を送っており、
「雨霧君、ありがとう」
「あれ以来、バダールはずっと大人しいよ。
いやあ、解放感がすごいわ」
人々から、事あるごとにこのように
感謝される。
あれさえ無ければ、余計な反発や
恨みを買う事も無く……
普通に暮らせる町だったんだろうに。
ただ俺は、報復や王国に告発するのは
止めておいた。
まずバダールに抵抗出来るほどの
スキル持ちがいなかったから、ヤツは
ここまで
それにこの監視システムが崩壊した事を
王国が知ったら、どのような手段に出るか
わからなかった。
もし二重三重に策が張り巡らされていると
したら、他の召喚者たちに知られる前に、
魔物や盗賊の仕業と見せかけて全滅させる、
という事もあり得る。
なので、俺はひとまずどんな事が起きても
対応できるように、町で待機し、
バダールを泳がせていたのだが―――
「あ! おーい! いたぞ!」
「バダールのヤツが逃げた!
町からいなくなっちまった!」
俺の顔を見て駆けつけてきたのは、
門番をしていた兵士たちだ。
十中八九、任務に失敗し、想定外の
召喚者がこの町に来た事をアイツは
報告しに行ったはず。
「雨霧君!」
別方向から、今度は武田さんが
駆けて来た。
彼女もバダール逃亡の話を聞いて、
不安になったのだろう。
「落ち着いてください。
想定内ですので……
多分、そのうちお城から使者か何か
やって来ますよ」
俺がそう事も投げに言うと―――
みんなはポカンと口を開けた。
「……どうしたのですか、バダール。
あなたには例の『ゴミ捨て場』を監視して
おくよう、命じたはず……」
魔導士風の格好をした男は―――
うっとうしそうに、
スキンヘッドの大男を見下す。
「どうした? って聞きたいのは
俺の方ですよ、グリーク様!!
あそこに俺と同じか俺以上の『
それに『
来るなんて聞いてねえ!!」
王城の一室で、グリークと呼ばれた男……
召喚システムを一手に担っている彼は、
バダールからの報告に耳を傾ける。
「……なるほど。
では、その者は今、その町の支配者に?」
するとスキンヘッドの男は困惑した表情で、
「い、いやそれが―――
そのガキは、俺の『そうした』行為を
止めるようにと。
ただそれだけでした」
「……それだけ?
要求や報復は?」
「そ、それだけです。
特に行動制限もされませんでした。
それでスキを見て、あの町からこの事を
報せようと、逃げて来たわけです」
それを聞いた彼は少し考え、
「交渉の余地はある、という事でしょうか。
まあまだ子供のようですし―――
荒事は避ける性質かも知れません。
……その腕は彼に?」
「あ、ああ。
俺も『怪力』スキルを持っているんで、
それで
いつも通り殴ろうとしたら―――
ふむふむ、と魔導士風の男はうなずき、
「した事は反撃のみ。
ケガ人はあなた1人……
報復も要求も無し、ですか。
わかりました。
今後の方針はこちらで考えましょう。
あなたはもうあの『ゴミ捨て場』に
戻る事はしなくていいです。
まずはその腕を治す事に専念しなさい」
「あ、ああ。わかった。
しばらくこちらで世話になるぜ」
バダールは来た時と同様、折れた腕を
かばうようにしながら退室して、
「……誰かいますか?」
「ハッ、ここに」
グリークの言葉に、忍者のように
男が姿を現す。
「すぐにアンク王女様との接見を
取り付けなさい……
至急、相談する事が出来たと」
「ハハ……ッ」
その言葉を最後に、忍者らしき男は
姿を消した。