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第14話・懐柔策


「いったい何用じゃ? グリーク。

 わらわは忙しい身なのじゃぞ?」


長い銀髪を揺らしながら、身分の高そうな

女性は用意されていた席に腰掛ける。


王城の一室で、天井の高いその部屋で、

1人の男が彼女と対峙たいじする。


「申し訳ございません、アンク王女。


 実は例の『ゴミ捨て場』にて、少々

 想定外の事が発生したようですので」


魔導士風の男が、いったん席を立って

一礼すると―――

すぐに着席して話を再開する。


「例の召喚システムは全てお主に一任して

 いるのだぞ、グリーク。

 いちいち些細ささいな事でわらわを

 呼び出すでない」


「それでもこれは、王女様に申し上げておく

 べき事だと思いまして。


 覚えておられますか?

 あの、『ハズレ』の少年を」


そこで彼女は少し首を傾げ、


「『ハズレ』という事はゴミであろう?

 わらわがいちいち役立たずのゴミの顔など

 覚えているとでも?」


「いえ、ですが……

 特徴的な少年だったと私も記憶に

 ありまして。


 ステータス欄は真っ白だった―――

 恐らく、召喚時に気絶していて、

 設問に答える事なくこちらの世界へ

 やって来た者ですよ」


アンクは人差し指の先を額にあてて、


「ああ、そういえばそのような子供も

 おったような……


 そやつが何かしたか?」


ようやく本題に入れると、グリークは

軽くため息をついた後、


「監視役として派遣していた、『怪力パワーストレングス』の

 バダールの腕をへし折ったそうです。


 彼の話では、『反射リフレクト』スキルも

 あったとかで。


「―――反乱か?」


眉一つ動かさず、王女は聞き返すが、


「いえ、それが……

 彼はバダールに、『そうした』行為を

 止めさせただけだそうで。


 特に要求も報復もしなかったと聞いて

 おります」


それを聞いたアンクは両目を閉じて、


「ふぅむ。

 どうやら、身の程はわきまえていると

 見える。


 この世界でこちらと敵対するより―――

 身の置きどころを探っている、という

 ところかの」


「はい。私もそのように考えます。


 『こちら側』の召喚者と同じように、

 使えるのであれば引き込むのも一つの

 手かと思いまして」


すると王女はうなずいて、


「そうだな……

 それに、『ゴミ捨て場』の状況が他の

 召喚者たちに露見するのは少々マズい。


 手駒となっている召喚者だけでは

 ないからのう。


 英雄気取りでこちらの思うがままに

 なっている召喚者が知ると、少々

 厄介じゃ」


「はい。手駒の召喚者を送る事も

 考えましたが」


「それは後でよかろう。


 とにかく今は、その少年と連絡コンタクトを取れ。

 出来るなら『こちら側』に引き入れよ。


 金でも女でも称号でも、好きな物を

 くれて懐柔かいじゅうするがよい」


「ハハッ!

 ……アンク王女様の仰せのままに」


そこで彼女は席を立つ。

だが、何かを思い出したかのように

振り向き、


「おお、そうだ。


 もし今回の『ゴミ捨て場』の件―――

 外部に漏れたらどうする?」


「ご安心を。


 すでにバダールをこちらで確保して

 あります。

 いざという時はあの男の独断・暴走という

 事にして、事を収めますれば」


男女は互いの言葉が終わると、いやらしい

笑みを浮かべ、


「もともと、そのような時のために

 飼っていたようなものであろう?」


「仰る通り……


 あくまでもこちらは彼に監視役を

 命じただけで、虐待や暴力については

 関知しておりませんからね。


 ではまず、私自ら『ゴミ捨て場』へ

 おもむく事としましょう」


それを聞くと、王女は今度は振り返る

事なく、従者が外から開けた扉から

退室していった。



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