「
これからどうするつもりなの?」
「?? どうする、というと?」
例の『ゴミ捨て場』と呼ばれた町中を
歩きながら、武田さんの問いに俺は
聞き返す。
「バダールが逃げたでしょう?
絶対、王城にこの事を報せにいった
はずよ?」
「まあ、そうですね。
そのための役割もあったでしょうし。
ただ僕は彼に反撃以上の事はしません
でしたし、要求も何もしていません。
ですので、確認に来るのでは……
と思っています」
「確認?」
今度は武田さんが聞き返してくる。
「少なくともこの町が―――
どんな目的で、どんな事が行われて
いるのか、僕は知ってしまった
わけです。
でもその僕は、未だに何のアクションも
向こうに対して起こしていません。
そりゃあ気味が悪いでしょう」
返事の代わりに彼女はコクリとうなずく。
「なので、確認を兼ねてこの町に誰か
寄越すはずです。
また、何の被害も出ていないとわかれば、
上の人間が出てくるはず。
それも、自称頭が良い、優秀と思っている
人間ほどね。
まあいきなり戦闘、という事には
ならないと思いますが……」
そう言うと武田さんは俺の顔をマジマジと
見つめて、
「ねえ、雨霧君って本当に子供?
ずいぶんと大人びているというか」
「ははは、老人くさいとはよく
言われていました」
多分、召喚される時の影響で年齢や
外見にもバグが生じてしまって
いるのだろう。
今のところ、子供に見られていると
いうのは、甘く見られるという事も
あって、有利に働くから黙っているけど。
すると、見知った顔が向こうから走って
来た。
あの門番2人組だ。
「あっ、いた!」
「おーい、呼び出しがあったんだ!
悪いが来てくれないか?」
俺と彼女は互いに顔を見合わせ、
「呼び出しって、誰からですか?」
俺がそう聞くと、
「
この町にいらっしゃっている」
「失礼の無いようにな」
その名前が出た時、武田さんの顔色が
サッと変わった。
「いやあ、急に呼び出して申し訳ない……
確か名前は雨霧君、でしたね?」
恐らく町の領主かバダールに割り当てられて
いた屋敷、その応接室で―――
俺は武田さんと一緒にバダールと
座っていた。
当然ながら、周囲には護衛と思われる人物が
5・6人ほどぐるりと囲み、
「お久しぶり、とでも言えばいいん
ですかね?」
「おっと……
ずいぶんとトゲのある言い方ですね?」
そこで隣りに座っていた女性はカッと
なって、
「当たり前でしょう!?
こんな子供をいきなり召喚して、こんな
扱いをして!」
怒りをあらわにする武田さんに対し、
グリークとやらは目もくれず、
「……そこはこちらも申し訳なく思って
いるんですよ。
ゴミと一緒に、間違って大事な物まで
ゴミ箱に捨ててしまう……
という事は誰にでもあるでしょう。
今回はあなたのようなゴミに埋もれた
中から、それを取り出そうとしに来た
だけの話……
関係の無いゴミは口を挟まないで
頂けますか?」
「無理やり召喚しておいて、よくも
そんな事を!!」
抗議の声が大きくなるが、それもどこ吹く
風というように、
「困りましたね……
第一、こちらとしましては、きちんと
選択肢をお渡ししたつもりなのですが。
それをわざわざ、使えないスキルを
選んで、それで扱いが低いなんて
言われましてもねぇ……
気の毒とは思いますが、能力の差によって
扱いが異なるという事は―――
あなたの世界では無かったのですか?」
「……それは……」
返答に詰まる武田さんの顔をグリークは
見ようともしない。
「ゴミはゴミらしく大人しくしていて
ください。
私は今、有益なスキルを持つであろう
彼と交渉しなければならないのでね……」
そこで彼は改めて俺と向き合い、
「さて、雨霧君。
君が望めば、いつでもこんな町から
ふさわしい場所へと移る事が出来ますが、
君はどうしたい……ですかね?」
俺とグリークの一対一の交渉が始まった。