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第16話・交渉02


「どうしたい……ですか。


 その前にいくつか質問があるのですが、

 それは構いませんか?」


「ええ、もちろん」


魔導士風の男が、テーブルの上に身を

乗り出すように聞く姿勢を見せる。


「まずこの町―――

 『ゴミ捨て場』と呼んでいるよう

 でしたけど。


 このような扱いを召喚者が受けている

 事を、他の召喚者はご存知なので

 しょうか?」


すると周囲を取り囲む護衛の口から、

失笑のような声が漏れ、


「いやいや……

 それは当然知られていませんよ。


 まあ、感付いていらっしゃる方は

 いるかも知れませんが……」


「あまりにもリスクが大き過ぎや

 しませんか?


 下手をすれば、第一線で活躍している

 召喚者の身内だっているでしょう?


 バレたらその矛先があなた方に

 向かうんですよ?」


俺の問いにグリークはやれやれ、

といった表情で、


「バダールに聞かなかったのですか……?」


「いえ、だいたいは聞きました。


 交互に身内に会わせる事で、互いに

 人質として脅しているとも。


 ですがそれを差し引いても―――

 危険だと思われるのですが。


 どうして、ただ普通に暮らしていく

 だけではダメだったんですか?」


すると彼はフゥ、とため息をついて、


「これでもずいぶんと譲歩したつもり

 なのですよ。


 だってそうでしょう?

 こちらからしてみれば、召喚だって

 かなりのコストがかかっているんですよ?


 処分という方法も考えましたけど……

 証拠は無くなりますが、言い訳も出来なく

 なり、暴走を誘発する可能性もある。


 なので今の状態に落ち着いた、という

 ところでしょうか……」


それを聞いて、今度は俺が大げさに

ため息をついて、


「でもそれは、完全にそちらの都合

 ですよね?


 召喚したけど役立たずだったから、

 せめて八つ当たりって事ですか?

 普通に手厚く保護して、他の召喚者の

 信用を得て協力的にさせる、という事では

 ダメだったんでしょうか。


 ここまで合理的ではない行動を

 初めて見ました……」


『このガキ』『言わせておけば』

という声が周囲から発されるが、


「まあまあ……


 私が聞きたいのは雨霧あまぎり君、

 君がどうしたいか、という事なのですよ。


 こんなゴミ捨て場でずっと暮らしていく

 つもりですか?

 それとも自分のスキルを正当に評価して

 くれる場所で、活躍しますか?

 という事です。


 ああもちろん、最初に召喚した時の

 手違いは詫びますよ。

 望むなら何でも出しましょう。


 隣りにいるゴミを好きにしたい、でも

 構いませんよ?」


グリークの言葉に、武田さんがビクッ、

と肩を揺らす。


「あの、武田さんが―――

 バダールに何をされていたのか

 ご存知で?」


「え? さあ……


 ある程度の裁量は与えていましたが、

 とにかく死なせなければいい、

 くらいしか命じておりませんでしたし

 ねえ。


 あの脳筋じゃ、細かい命令は覚えられ

 ないでしょうし……」


彼がそう話すと、周囲から今度は苦笑が

もれる。


私はポリポリと頬をかいて、


「ん~……


 でもやっぱり、こんな事が他の

 召喚者たちにバレたら―――

 大変な事になると思うんですよ。


 少しは改善しようとか、そういう事は

 考えないんでしょうか?」


グリークはそれを聞いて芝居がかった

ように首を大きく左右に振って、


「それは仕方がありませんよ。

 あなた方のいた平和的な世界とは

 違って―――

 こちらの世界には敵が多過ぎるんです。


 魔物もいれば盗賊もいる。

 他国との戦争はしょっちゅうありますし、

 とても弱者に対して優しくは出来ない

 世界なのです。


 君たちの世界でも……

 弱肉強食、というのですか?

 そのルールで動かなければならない

 のですよ……」


そこで俺は頭を軽く左右に振って、


「弱肉強食、ですか」


「ええ。現にそこのゴミは―――

 どう言われてもどうされても、

 何も出来ないでしょう?


 バダールに何をされたかはだいたい

 想像はつきますが……

 抵抗するにしろ主張を通すにしろ、

 力が必要なわけですよ……


 君はバダール以上に力があったから、

 彼に抵抗し、倒せたわけでしょう?


 ならばそのルールは理解出来る

 はずです……」


俺は武田さんとグリークの顔を交互に

見た後、


「わかりました……

 そのルールに賛成します」


雨霧あまぎり君……!?」


隣りの彼女が目を丸くして驚くが、


「おお!

 わかってくれると信じていましたよ……!


 君は子供ながら、さといようですからね」


彼は立ち上がり、こちらに手を差し伸べ、

俺もそれに応えるために立ち上がって、


そのまま蹴りをグリークの顔面へと

叩き込んだ―――




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