「ふぐぅうっ!?」
俺の蹴りを喰らったグリークはそのまま
ソファーからのけ反って、向こう側へ
頭から落下し、
同時に、護衛であろう兵たちが俺に向かって
剣を突き立てた。
しかし―――
「!?」
「なっ!?」
「こ、このガキ……!?」
複数の武器は俺の体に弾き返され、
彼らは姿勢を崩す。
するとソファーの後ろ側から、グリークが
頭を出して、
「いっいきなり何をするかぁああっ!!
貴様らもいったい何をしている!?」
「はっ、そ、それが」
「ぶ、武器が弾かれまして」
俺に怒鳴りつけると同時に、部下たちを
「何を、って……
僕は言いましたよね?
『そのルールに賛成します』って。
聞こえていなかったんですか?」
「はぁああっ!?」
納得していない、というように抗議の表情で
こちらをにらむが、
「??
ですから、弱肉強食ですよね?
そのルールに従えば当然、あなたは
僕よりも弱いんですから……
何をされても文句は言えないはずでは?」
俺が周囲をそう言って見渡すと、
誰もが目を丸くしてこちらを見つめる。
「ふー……
こちらが言っているのは、そこに
いるようなゴミどもに対する話だ。
ああ、何ならそのメスは君に渡しても」
そう言いながらグリークは、武田さんの方を
指差すが、
「あの、武田さん」
「は、はいぃっ!?」
俺の言葉に彼女は驚いて体を震わせる。
やはり女性の前で暴力をふるったのは
マズかったか。
俺はなるべく冷静に静かに話す。
「武田さんは―――
『弱肉強食』。
このルールに賛成なのですか?」
その問いに彼女はふるふると首を
左右に振る。
そして俺はグリークに向き直り、
「僕は別に、ルールを他者に押し付ける
ような事はしません。
だけど、相手が持ち出した時は別です。
あなたは『弱肉強食』のルールを
持ち出した。
そして僕はそれに賛成した。
どうして自分だけはそのルールの
適用外だと思ったんでしょうか?」
「……ぐぐっ、こ、この……!」
鼻血を出しながら彼は姿勢を立て直し、
そして護衛の者たちに目配せすると、
「きゃっ!?」
彼らは武田さんを拘束すると、俺から
引き離すように距離を置く。
「んー、人質ですか?」
俺がこともなげに語ると、
「ああ、そうだ!
どうせ平和ボケの貴様らは、
こうされたら手も足も出せまい!
ったく、そういうゴミどもに同情して
下手に
まあ、こちらとしても君は非常に
貴重な研究対象だ。
せいぜい実験してやるから大人しく
して―――」
護衛の1人が俺を捕まえようと、手を
伸ばして来るが、
「ぎぇっ!?」
俺はそのまま彼に正拳を入れ、その衝撃で
後方に倒れ込む。
「は? は?
……ま、待て!
彼女がどうなってもいいのか……!?」
想定外の事が起きた、というような
目をしているグリークに、俺はゆっくりと
一歩踏み出す。
「ま、待て! 本気か!?
あの女が死んでもいいというのか!?」
ソファーの後ろに隠れるようにして、
彼は問い質してくるが、
「1人殺されたら―――
100人殺します」
「……は?」
間の抜けた声を出すグリークに構わず、
俺は続ける。
「僕が王城まで行ってやります。
とにかく、手当たり次第に100人
殺します。
2人殺されたら、1万人殺す。
3人殺されたら、100万人殺す。
僕にはそれが出来ます。
ま、手間ではありますけどね」
こういう連中はテロリストと同じ。
交渉、という名の脅迫しかない。
やられたら10倍100倍にして返す。
一方的には出来ない、報復があるのだと
思い知らせてやる必要があるのだ。
「…………」
言葉を失っているのか、口を開けたまま
無言になるグリークを横目に、
「というわけなので、武田さんを解放して
もらえますか?
彼女を殺して、最初の100人の中に
入りたいのであれば、話は別ですが」
そう言うと、彼らは慌てて武田さんの
側から離れていき、
硬直している彼女を俺の側へ引き寄せて、
「さて、まあ―――
お話は
グリークさん。
確かあなたは
ならば決してその言葉は軽くないはず。
アスタイル王国のお考え、そして
『弱肉強食』のルールは受け入れました。
まずはそう、国に帰って帰ってお伝え
ください」
俺の方からそう切り出すと……
グリークを先頭に、次々と部屋を
飛び出していった。