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第18話・交渉04


バタバタと慌ててグリークたちは部屋から

退室し―――

後には俺と武田さんのみが残され、


「……すいません、大丈夫でしたか?」


未だ心ここにあらず、といった体の彼女へ

手を差し伸べる。


「えっ!? あ、は、はい……」


ようやく我に戻った武田さんをソファーに

座らせて、


「本当にすいませんでした。

 怖い思いをさせてしまって―――


 ですが、僕に人質は効かないとまず

 相手に認識してもらう必要があったので」


そう弁解するも、見捨てたようにしか

見えなかっただろう。


俺は意を決して口を開き、


「あの、今後はもう僕と離れて行動して

 もらって」

「ごめんなさい」


と、俺が言い終わる前に彼女が言葉を発し、

それがあまりにも意外過ぎて、俺の方が

言葉を失う。


「えっ?

 た、武田さんが謝るような事では」


俺は何とか、何か答えようと頭をフル回転

させるが、


「ううん。

 雨霧あまぎり君にそうさせてしまった事、

 どうか謝らせて欲しいの。


 本当なら、あなたのような子供じゃなく、

 アタシたち大人が覚悟を決めてしなければ

 ならない事だったのに。


 本当にごめんなさい……!」


俺は外見は子供でも中身は大人なので、

ズルもいいところだから、却って罪悪感を

覚えてしまう。


「き、気にしないでください。


 それにこう見えても、親父が道場を

 やっていまして―――

 それで鍛えられているというのも

 ありますから」


俺は何とかなだめるように語り、

感情的になっていた彼女も少しずつ

落ち着いてきたようで、


「でも、これからどうするの?

 この国の宰相さいしょうにあんな事をして

 しまって……」


「でもそれは、あちらの提示したルール、

 『弱肉強食』に合意しただけですからね。


 いきなり宰相が来るとは思いません

 でしたけど―――

 次はもっと上が来るんじゃないで

 しょうか。


 それに扱いはどうあれ、殺すまでは

 考えていなかったみたいですし。

 それにもしそれを実行したらどう

 なるか、という事もお伝えして

 ありますしね。


 またしばらくは、あちらの出方待ち

 でしょう」


「……そうね。


 アタシたちにはそもそも何も出来ないし、

 ここは雨霧君に任せるしかないと思う」


そこで場は一段落し、それが知れ渡ると

ようやく町は落ち着きを取り戻した。




「それで逃げ帰って来たと言うのか?


 アスタイル王国宰相ともあろう者が、

 ずいぶんと無様な事よのう」


「も、申し訳ございませんアンク王女!」


魔導士風の男が、ロングの銀髪の女性に

向かって、深々と頭を下げる。


ここは王城の一室で―――

グリークは雨霧との交渉後、それが

不首尾ふしゅびに終わった事を報告に来ていた。


「して、その子供はいったい何を要求して

 おるのだ?」


「そ、それが……

 弱肉強食というルール、それに従うと。


 つ、つまりそれは―――

 アスタイル王国はおろか、この世界の

 強者以外に従う意思が無いという事かと」


自分が提唱したルールとは言えず、話を

うまく作り替えてグリークは説明する。


「仕方がない。

 今回はわらわが動きましょう。


 これも、国をつかさどる者の役目」


「と、とんでもございません!

 王族が自ら出られる事では……!」


その申し出にグリークは反発するが、


「どうもその者はかなり強力な能力を

 有しているようです。

 放置は出来ません。


 それに―――

 わらわがあの臭いドブネズミを飼って

 いるのは、こういう時のため」


「な、なるほど!

 あの召喚者の内通者を使うのですな!


 それならば安心でございます」


その言葉と共に宰相は顔を伏せると、

同時に王女は口元を歪めて笑みを浮かべた。




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