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第19話・茶番


「ど、どういう事だよこりゃあ!?」


数日後……

王城の広間、その中央に―――

身長2メートルはあろうかという

スキンヘッドの男が、後ろ手に縛られて

ひざまずいていた。


彼はあの『ゴミ捨て場』の町を我が物顔で

支配していた、バダール。


その周囲には、この世界に召喚したで

あろう人々が集まっていた。


そして銀の長髪をした、身分の高そうな

女性が……

その人々を前に深々と頭を下げる。


「この度、皆さまに謝罪しなければ

 ならない事が起こりました。


 このバダールという男に―――

 非戦闘系スキルの召喚者の方々を

 保護した町を守らせていたのですが、


 この男が町で召喚者を相手に好き放題

 やっていた、との報告が上がりました。


 まことに申し訳ございません……

 わらわの不徳ふとくの致すところです」


アンク王女の説明に、召喚者たちは

ざわざわと顔を見合わせる。


「非戦闘系スキルの召喚者の安全は、

 確保するという話では無かったのか!?」


「好き放題って、何をしたんだ!?」


「あそこには俺の妹も……!!」


集められた彼らは次々と非難を口にするが、


「申し訳……ございません……!


 魔族や戦線から離れた場所に置けさえ

 すればいいと、過信しておりました


 まさか部下がこのような不始末を

 しでかすとは―――」


王女は悲痛な表情を浮かべ、何度も

頭を召喚者たちに向けて下げる。


そこへ魔導士風の格好をした宰相さいしょう

グリークも現れ、


「……王女様の責任ではありません。


 戦線に忙殺ぼうさつされ、後方管理がおろそかに

 なってしまったようです……


 この男は元より、任命した私の責任でも

 あります。

 お怒りであれば、私の身もご自由に……」


アンク王女とそろって彼も頭を下げると、


「はぁっ!?

 ふざけんじゃねぇ!!


 あのゴミどもは殺す以外、好きにして

 いいって俺は言われたんだぞ!!

 そこの宰相様によぉ!!」


バダールがそう怒鳴ると、召喚者たちは

さらにざわつくが、


「な、なんという事を……」


「このに及んで貴様は……っ」


アンク王女とグリークが苦々しい表情で

うめくが、


「ごはっ!!」


スキンヘッドの男が突然吹っ飛び、


「島村様!!」


それを行った、まだ10代後半に見える

若者に、王女は駆け寄る。


ややボサボサ髪の短髪をした彼は、

その髪をかきあげながら、


「俺は王女様の方を信じるぜ。


 拘束してこの男を連れて来たのなら、

 しゃべれないようにする事だって、

 先に始末する事だって出来たんだ」


すると彼に続き他の召喚者たちも、


「そりゃそうだな」


「本当にマズい事を言われたく

 なかったのなら―――

 そのまま連れて来る事なんてないわよね」


「確かに」


と、その島村という男に同調する。


「……ですが、その男に保護した町を

 任せたのもわらわたちなのです」


「どのような処分も要求も受け入れ

 ましょう……」


しおらしく2人は彼に謝罪するが、


「それより、その町は今どうなって

 いるんだ?

 今は安全なのか?」


そこで王女と宰相は顔を見合わせ、


「そ、それがですね―――

 あそこは非戦闘系スキルの召喚者を

 保護している町なのですが」


「手違いで、強力な戦闘スキルを持つ

 召喚者を移送してしまったようなのです。


 それがバダールを追い出し、あの男の

 ように傍若無人ぼうじゃくぶじんに振る舞っているとか」


2人の言葉に、あちこちから悲鳴のような

声が上がる。


「アンク王女様……


 俺が出ますよ」


その島村という若者が対応を申し出る。


「で、ですが―――

 あなにはもう、何度も同胞どうほうを」


「こちらに来たからには、こちらのルールに

 のっとってもらわないと困ります。


 もちろん、話し合いが出来れば

 そうしますよ。


 ですが……」


「それは……仕方ないな」


「好き勝手に暴れ回られては、他の

 召喚者たちのイメージにも傷がつく」


「だけど、また島村君に嫌な役割を

 押し付けてしまうが―――」


周囲から申し訳なさそうな言葉が出るが、


「まあ、そんなの今さらですよ。


 それに、俺一人でやった方が……

 気楽ですからね」


彼の答えに周囲は押し黙るように沈黙し、


「では、島村様。


 至急、町へ急行してください」


「出来れば穏便に、と言いたいところ

 ですが―――

 手に余った場合はお任せします。


 それはこちらの落ち度であり、全責任は

 アスタイル王国にありますれば」


アンク王女、そしてグリーク宰相の

許可を受けて……

召喚者・島村は雨霧あまぎりのいる

町へと向かう事が決定した。




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