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第21話・同胞01


例の『ゴミ捨て場』と呼ばれた町―――


そこへ1人の召喚者が、ふらりと姿を

現した。


「ん? 召喚者?」


「ああ、島村という者だが……

 雨霧あまぎりという少年がここに

 来ていると聞いてな。


 会わせてもらえないか?」


翌日、王女と宰相から密命みつめいを受けた彼は、

門番と言葉を交わす。


「わかった、ちょっと待ってくれないか」


するともう1人の門番兵が、その事を伝えに

町中へと入っていった。




バダールに割り当てられていた屋敷、

その応接室に俺はいた。


そして門番の人から、自分と同じ

召喚者が王城から来た事を報され、


「雨霧君」


ちょうど一緒にいた、セミロングの髪の

眼鏡の女性が、声をかけてくる。


多分、この町の現状が他の召喚者に

伝わったのだと期待しているのだろうが、


「……わかりました。


 こちらも準備がありますので、

 30分ほどお時間を頂けると

 ありがたいのですが」


「わかった。

 じゃあ、そう伝えるよ」


そう言って門番兵は退室していき、

後には俺と武田さんの2人が残されたが、


「準備って、何の?」


不思議そうな顔をして聞いてくる彼女に、


「同じ召喚者だからと言って―――

 味方とは限りません。


 アスタイル王国の連中は恐らく、

 今回の件を秘密裏ひみつりほうむりたいはずです。


 相手は仮にも国家なのですから……

 何でもして来ると思った方がいいです」


それを聞いて、武田さんの顔が曇る。


やっと状況が改善するとでも思って

いたのだろう。

そして俺の言葉で、現実に引き戻されたに

違いない。


「でも、何をする気なの?

 雨霧君の能力は、何も受け付け

 ないんでしょう?」


彼女には俺の能力を伝えていたので、

無敵とも認識しているのだろうけど、


「用心に越した事はありません。


 そこで、武田さんにお願いがあるの

 ですが―――」


そこで俺は、彼女と打ち合わせをし……

その召喚者の到着を待つ事にした。




「おー、君が雨霧君か」


「初めまして、島村さん」


ボサボサ髪の彼と対峙たいじした印象は、

『場慣れしているな』というもの。


交渉や荒事において―――

妙に肝がわっているというか。


この部屋には俺と彼、2人きりで会う事を

提案し、武田さんはこの場にいない。


前回、グリークとの交渉で人質に取られ

かけたという事もあるが……

対処のために動いてもらっているからだ。


「グリークから聞いたんだが―――

 かなり強力なスキル持ちらしいな?


 で、だ。

 何も言わず、王城に迎えられる気は

 無いか?


 いろいろとマズいんだよ、お前みたいな

 ヤツがいるとさ」


いきなり最初から想定通りの要求を

突き付けられる。


「あー、一つ言っておくけどよ。

 お前がどんなに強力なスキルを持って

 いてもムダだぜ?


 俺のスキル……

 『封印ロック・アウェイ』が発動すれば、

 何やってもスキルは無効化されるからな。


 ま、俺もそれ以外、スキルらしいスキルは

 無いっちゃ無いんだが―――

 あいにくと俺はケンカ好きでよぉ?」


そこで俺は彼をじっと見つめる。


首回りが細い。

という事は、何か特別な訓練を受けたとか

いうのではないらしい。


人間、一度きたえた筋肉というのは

何もしないとおとろえるが……

首の筋肉だけはなかなか衰えない。


つまり純粋に腕っぷし、または場数を

踏んで来ての上で、自分に自信を持って

いるタイプか。


「その言い方だと―――

 ここで行われていた事は、どうも

 知っていたように思えるのですが?」


「ああ、もちろん。

 今のところは、あのバダールってヤツに

 全部おっかぶせたけどよ。


 お前の口から、いろいろとしゃべって

 もらっちゃ困るんだよ。


 あと、同じ召喚者だからと言って、

 甘い考えは捨てた方がいいぜえ?

 何せ、始末したのは1人や2人じゃ

 ねーからなあ」


予想は当たっていた、か。

それも最悪の方向で。


『召喚者の中に内通者がいる』……

バダールのようなヤツにこんな管理を

任せるなんて、余りにも杜撰ずさんでリスクが

大き過ぎるとは思っていたが、


やはり『後始末』を行う存在があった。

それも同じ召喚者とは―――


「なるほど……

 では、話し合いの余地はありそうに

 ないですね?」


「おっ、わかってくれるぅ?

 でも物分かりがいいのも、少し

 残念だなぁ。


 ちょっとは抵抗してくれた方が

 楽しめたんだけどよ。

 俺、女子供も差別はしない

 主義なんでー♪」


「ではこんなのはどうでしょうか?」


俺は手に持っていた袋の中身―――

小麦粉をブチ撒けると、周囲が煙幕のように

煙に包まれた。




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