「っ!?
目つぶしのつもりかあ!?
こんなもの……っ!?
グフッ、ゲホッ、ゴホゴホッ!!」
ここには胡椒や唐辛子もあったので、
それを小麦に混ぜておいたのだ。
こればかりはスキルも関係ないだろう。
激しく咳き込む島村を置いて、俺は
ダッシュで扉へと向かう。
「このクソガキがぁあっ!!
逃がすかよコラァアア!!!」
もはや取り繕う事もせず、彼は一直線に
手を伸ばして追いかけてくる。
「ゴホッ、ゴホホッ!!
とっ捕まえたらテメェ、楽に死ねるとは
思わ―――」
と、そこで彼の言葉は途絶える。
彼の片足は宙に浮き、そして尻もちを
つくように床に体を強打させる。
「ぐっはぁああっ!!」
恐らく腰をやられたのだろう。
そして、反射的に床についた手を見て、
状況を理解する。
「な、何だこれはぁああ!!」
「油ですよ、島村さん。
もっとも僕は、靴で
踏んで、
平気ですけど」
「こ、このガ……ッ!?」
僕の声に反応した彼は、今度は
突進しようとして、前のめりに
顔面から床に突っ込む。
「その様子ですと、本当に何らかの
攻撃スキルは無いようですね。
僕と同じ、という事でしょうか」
「あ、あぁ!?
テメーはバダールの野郎を倒したん
だろうが!
それなら、かなり強力なスキル持ちの
はずだ!!」
そこで俺は、油で滑って身動きが
取れず、顔面を強打した時に出たで
あろう鼻血を垂れ流している島村に
近付いて、
「グリーク
ですか?
僕はどうもシステムの想定外の事が
起きたらしく、スキルそのものが
与えられなかったんですよ。
試してみますか?」
俺がそう言って顔を下げると、彼は
胸倉をつかみ、
「なるほど、そういう事かよ……!
だが余裕ぶって近付いて来るたぁ、
バカかテメェは!?
捕まえさえすりゃこっちのモンだ!
よくも散々バカにしてくれたなぁ?
テメーは数日かけてゆっくりと
俺を捕まえる島村を、ただじっと
見下ろすように見つめ、
「……今まで、どのくらいそういう事を?」
「さてなぁ、まだ10人はやってないと
思うぜぇ?
あ、王国が報酬でくれる人間はカウント
してねーけどよぉ!」
まあそうか―――
同胞である召喚者さえ手にかける
コイツが、異世界の人間に手を出して
いないはずがない。
「さぁて、どうすっかなー?
指を1本1本折って斬るのもいいなぁ?
特に女子供はいい声で泣いてくれる
からよぉ?
あーお前、顔もちょっといいな?
ヤりながらってのもいいかも
知れねぇなあ―――」
「もうしゃべるな」
俺は彼の片腕を内側にひねると、人体の
構造上、そのまま背中を向ける形となり、
「あがっ!? な、なんだぁ!?」
そのまま背中に乗るようなポジションを
取ると、腕に力を入れ……
「ぐぎゃぁあああぁあっ!!!」
筋肉の
ミックスした音が短い間した後、
同時に島村の絶叫が室内に響き渡った―――