その日、町は驚きと不安に包まれていた。
アスタイル王国の王族の1人―――
アンク王女自らが、『ゴミ捨て場』へと
やって来たからだ。
島村迎撃から、およそ10日ほどが経とうと
していた頃だった。
そこで俺は、小火からある程度は修復された
お屋敷で、彼女と相対する事になり、
「お久しぶりですね、勇者様」
「勇者?
どこにそんな方がいらっしゃるんですか?
僕にしてみれば……
いきなりこの世界に問答無用で誘拐され、
さらに役立たずと勝手に判断されて―――
この『ゴミ捨て場』とかいう場所に放り
出されただけですけど。
勇者というのは、そういう扱いをされる
人間をそう呼ぶんですか?」
銀髪ロングの王女様に皮肉たっぷりに
聞き返す。
『貴様』『黙って聞いていれば』と、
護衛の兵士たちがいきり立つが……
彼女はそれを片手で制し、
「それにつきましては、心から謝罪
いたします。
いくつかの行き違いの末……
させてしまいました。
すぐにあなた様にふさわしい場所で、
相応の待遇を用意いたしますので」
すっ、とアンク王女様は立ち上がったかと
思うと、
一礼して俺の隣りに座る。
「わらわは―――
いえ、アスタイル王国は、有能な勇者を
必要としております。
バダールを倒し、グリークを
そして島村までもが相手にならなかった
あなたなら……
わらわ自身が報酬でも構いませぬ」
そして俺の膝に手をやり、さらに胸を
密着させてくる。
色仕掛け―――とも思ったが、
この世界、そしてこれまで差し向けた
連中が返り討ちになった後の事を考えると、
恐らく何らかのスキルを使っている事は
想像に難くなく。
俺が距離を置こうと離れると、それを
恥じらいと見たのか、
「あら……
そんな対応は傷付きますわ。
わらわだって女。
一応、この容姿には自信があったの
ですけれど。
それとも、まだ雨霧様には刺激が
強過ぎましたか?」
俺の外見は中身とは異なり、小学校高学年か
中学生くらいになっている。
それを知らない彼女はクスクスと微笑み、
「もしかして、経験がまだ無いとか?
それならば安心してください。
年上として、きちんと導いて差し上げ
ますから―――」
すっかり自分のペースにハマっていると
思い込んでいるのだろう。
それならば乗ってやろう。
俺は子供っぽい仕草をしながら、
「お、お願いですから離れてください!
それで、あの……
条件は聞いて頂けるのでしょうか?」
するとアンク王女はニコッと笑って、
「そうでしたね。
わらわは、話し合いに来たのでした。
そちらからの要望は可能な限り聞いて
差し上げます。
どうぞ仰ってください」
そして元の位置―――
対面に座ると、俺に話の先を促した。
「は、はい……それでは」
ここで俺はおずおずと、こちらからの
条件を提示し始めた。