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第36話・再発防止プログラム


「再発防止プログラムだと?」


「それはどういうものだ?」


頭が冷えたのか、ようやく落ち着いた

トーンの質問が飛んでくる。


「和解案の後、アンク王女・グリーク宰相さいしょう

 話し合ったのですが、


 何でもこの世界は、アスタイル王国と

 同規模の国があるようなのです。


 シーライド王国、グレメン国、

 そしてシュロランド教国―――


 これらの国もまた、ここと同様に

 召喚者を確保しているとの事。


 ……非戦闘系スキルの召喚者の扱いも、

 大差無いものと思われます」


俺の説明に、

『そういえば、他国の侵略もあるとか

 言っていたな』

『相手にするの、魔物だけじゃ無いって

 話だったし』

『つまり、元々はそっちとの戦争のための

 戦力だったって事か……?』


と、今さらながら自分たちの立場について

考察し始め、


「ですから―――

 このアスタイル王国を僕たちだけで

 滅ぼしたところで、他国が喜ぶだけだと

 思うんですよね」


「それに、下手をすると他国の召喚者の

 監視や扱いが……

 より厳しくなる事も想定されますし」


「何より、アスタイル王国だけ今は

 召喚者の待遇を改善しているが、


 こういう事は世界単位でやらなければ、

 意味が無いと思う」


俺の後に、白波瀬さん・熊谷さんが、

補足するように続く。


「あと武田さんの言うように、

 アスタイル王国を滅ぼしたとしても、

 警戒を強めてしまう可能性があります。


 下手をすれば残り3ヶ国が手を組んで、

 こちらに攻めて来るかも知れません。


 あと我々の手だけで皆殺しをするのは、

 ちょっと効率が悪いというか、現実的では

 なくてですね」


と、先ほどまでうなずいていた面々は、

『え?』『ん?』『今なんて』

と、視線を俺に向けてくる。


「いや、だってそうでしょう?


 僕だって彼らを許すつもりは毛頭

 ありませんよ?

 ここに連れて来られてから、

 どれだけ理不尽な目にあったと

 思っているんですか。


 僕たちのような存在を二度と出させない

 つもりなら、その解決方法は明白。


 『召喚をさせなければいい』―――


 そのために確実な手段は、この世界の

 知的生命体を全滅させる事。


 僕、何か間違った事言ってます?」


強硬派と思われた男性陣も、いつの間にか

口をパクパクさせていて、


改めて俺は会議に集まった面々を見渡し、


「で、ここまでが僕の言う、

 『再発防止プログラム』です。


 何かご質問はありますか?」


俺がそう言うと、ざわざわという

どよめきが広がる。


すると、身近にいた白波瀬さんが

手を挙げて、


「皆殺しにしなければ再発防止は出来ない、

 というのは短絡的だと思うわ」


「そ、そうだ。

 現にアスタイル王国は待遇改善を約束

 したわけだし……


 そもそも根底にスキル差別が

 あるわけだから、そこの意識改革に

 取り組んでいけば」


俺は首を左右に振り、


「アスタイル王国は、僕がバダールも

 追手も何もかも返り討ちにしたから、

 今は仕方なく従っているだけでしょう。


 僕たちが死ぬか寿命を迎えた後―――

 『次はもっと上手くやろう』

 『次は最初から逆らえないようにしよう』


 そうならない保証はどこに?」


「アタシも、雨霧あまぎり君と同じ

 意見です。


 もうこんな目にあうのは、アタシたち

 だけで十分じゃないですか。


 今は和解という形を取っていますが、

 最終的には皆殺しでいいと思います。


 ただ他の国もあると、今すぐその手段を

 取れないだけで」


武田さんが俺の意見に同調し、そこで今度は

白波瀬さんに目配せする。


「……わかったわ。


 でも、せめて召喚者たちの間では民主的に

 決めたい。


 『再発防止プログラム』について―――


 雨霧君と武田さんの言う皆殺し案と、

 あたしたちの言う、スキル差別の

 意識改革。


 どちらを取るか、ここにいる全員で

 採択を取りたいの」


「じゃあまず、『皆殺し案』に賛成の

 方は挙手を……」


次いで熊谷さんが司会のように話を進め、


そして俺と武田さんの案は、『無事』

却下された。




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