目次
ブックマーク
応援する
4
コメント
シェア
通報

第37話・再発防止プログラム、その後


「お疲れ様でしたー」


「はぁ~……緊張しました」


『再発防止プログラム』にて、

『皆殺し案』と『差別意識改革案』の二択が

出され―――

無事、後者が選ばれた後、


俺と武田さんは、一仕事終えたかのように

一緒に大きく息を吐いていた。


「熊谷さんもお疲れ様」


「いやぁ~、白波瀬さんも」


今、ここにいるのは4人しかいない。


ステラさんは一応は王族なので、

警備兵のいる公共施設へ泊まらせた。


街の住人の毒気もあの会議で抜かれている

だろうし、危険が及ぶ事はないだろう。


「しかし雨霧あまぎり君、本当に少年?

 ちょっと末恐ろしいんだけど」


「あはは、アタシはもう慣れました」


白波瀬さんと武田さんが、聞きように

よっては失礼な事を言ってくる。


まあ実際、中身は少年ではないので

返しづらいところではあるんだけど。


「これで王城のみんなも頭が冷えたと

 思うし……


 次の段階へ進めるんじゃないか」


そう、この会議は―――

前もってこの4人で決めた通りに

進行された。


俺と武田さんが被害者代表として、

強硬派・過激派に……

そして熊谷さんと白波瀬さんが、

妥協派・現実派に別れ、


あえて『皆殺し』という極論を出す事に

よって、感情的になっているみんなを

落ち着かせたのである。


「もっといろいろな意見が出て来ると

 思いましたし―――

 いつまでも会議が混乱していたら、

 和解そのものが吹き飛ぶ可能性も

 ありましたからね。


 騙したみたいで気の毒ですけど、

 でもこういう恨みって絶対消えないし、

 晴らせるものでもありません。


 ましてや和解なんて論外ですよ」


「だから二択にして、穏便な方を選ぶよう

 誘導したのね。


 しかも自分たちで選んだという『責任』も

 あるでしょうから……

 今後はスムーズに話が通るでしょう」


俺の説明に、武田さんがうなずく。


これで、もし不満が再燃したとしても、

まず強硬派代表である俺か武田さんに

話は持ち込まれるはず。


つまり俺たちは、不満を持つ人間のせき

もしくはクッションとなるのだ。


「ま、バダールとやらは処刑済みだし、

 島村も恐らく、ほどほどに治療された後、

 こちらに寄越されるでしょうね。


 多分、しゃべれないような状態で」


「それで、これからどうするんだ?」


王城組の代表の男女から、今後の事を

問われ、


「例の3ヶ国―――

 シーライド王国・グレメン国・

 シュロランド教国についての情報を

 アスタイル王国に求めましょう。


 もっとも、その前に動きがあると

 思いますが」


「動き?」


俺の言葉に眼鏡の女性がその位置を直す。


「ステラさんです。


 多分、使い捨てとして寄越したの

 でしょうが……

 生きているなら利用しようとするはず。


 手っ取り早く考えられるのは、

 スパイとして活用する事ですね。


 今頃、王国の手の者が接触しているんじゃ

 ないですか?」


俺がそう言うと、3人は顔を見合わせ、


「い、いいのか?」


「だから打ち合わせや、こういう場では

 彼女を遠ざけたんですよ」


熊谷さんの不安に俺は答え、


「ホント―――

 敵に回したくない子だわ」


「こればかりは、アスタイル王国に

 同情します……」


女性陣の評価を、俺は微妙な表情で

聞いていた。




「……ステラ様。

 ステラ様、お起きを……」


その頃、ステラはやや精神が消耗した

状態で寝ていたが、


自分以外は無人の寝室に、突然声が

聞こえた事で目を覚ます。


「あ、あなたは……!?」


黒づくめの男はフードを被ったまま、

その素顔も見せずに質問を続ける。


「……アンク王女様からの使いです……


 生きているのなら、最後まで王国の

 役に立つようにと……」


それは、彼女の母親と姉を手中にしての

命令を意味し、


「……何なりと」


彼女は諦めたかのように先を促す。


「まず、彼らの動き……

 また被害者であろう召喚者たちと

 出会った事で、どのような感情を

 抱いているか……


 知っている事を全てお話しください」


するとステラは目を見開いて、


「い、今―――

 大変な事になっています!


 どうかこの情報を本国にお伝え

 頂きたく……」


「!? ス、ステラ様?」


その男にすがりつくようにして、

彼女は会議での出来事を語り始めた。




この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?