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第38話・平等


「グリーク様」


いかにも諜報といった任務について

いそうな、全身黒づくめにフードの男は、

顔を見せようともせずにひざまずく。


「……あいさつは結構です。

 それより、ステラ様とは接触

 出来たのですね……?」


魔導士ふうの格好をしたアラフォーの

男性が、彼を見下ろしながら問う。


ここはアスタイル王国王城、その奥にある

一間ひとま


そしてグリーク宰相の他に、長い銀髪の

女性もおり、


「ステラからの情報、詳しく話せ。

 どのような些細ささいな事でも構わぬ」


その声に、男の視線は宰相から王女へと

シフトする。


「はっ!


 ステラ様は一人で、警備兵のいる

 施設でお眠りになっておりました。


 どうやらひど憔悴しょうすいしていたご様子で」


その答えに、アンク王女とグリーク宰相は

互いに顔を見合わせる。


「暴行でも受けたのか?」


「……まあ、あの『ゴミ捨て場』まで連行

 されたのです。

 報復を受けてもおかしくは無いと

 思われますが……」


彼女の受けた仕打ちを想定しながら、

二人は他人事のように語ると、


「いえ―――

 外傷などは見受けられませんでした。


 召喚者たちから怒りを向けられたものの、

 それ以上、何かされたという事は無いと

 言っておりました」


「ふむ?」


「……うん……?」


そこで2人は首を傾げ、


「まあ良い。

 話は聞いて来たのだな?」


「……まずはそれを話してください……」


それを聞いて彼は跪いたまま、


「ハッ!


 あの街に連れて行かれた後、召喚者たちの

 会合に参加させられたようです。


 そこで話し合いが行われたようなの

 ですが―――」


そこで男は一息ついて、


「その会議では、『再発防止プログラム』

 というものが議題に上がったそうです。


 ただ、内容は2つに別れまして」


「『再発防止プログラム』?」


王女が聞き返すと、


「はい。『再発防止プログラム』と

 いうのは……

 今後、自分たちのような被害者を

 出させないための方針だと」


「……それが2つに別れたというのは、

 どういう事でしょうか?」


次に宰相が疑問を呈する。


「そ、それが―――


 例の雨霧あまぎり光郎みつろうという

 少年が提唱したのですが、


 召喚そのものをさせなければ、

 自分たちのような被害者は出ないだろう

 との事で、


 この世界の知的生命体を全滅させる事を

 提案しました。

 それに対して、『ゴミ捨て場』にいた

 武田という女性も賛同しています」


その余りの内容に、王女も宰相も絶句する。


「ですが他の召喚者たちが反対に回り、


 王城にいた熊谷くまがや白波瀬しらはせ両名を

 中心に、この世界のスキル差別を

 是正ぜせいしていくという対案を提示、


 多数決でこちらの方針に決定したとの

 事です」


その報告に2人は、ため息とも安堵とも

取れない大きな息を吐く。


「し、しかしなぜ全滅させようと?

 和解したのではなかったのか?」


アンク王女が困惑しながら問い質すと、


「彼……雨霧という少年は、こちらを全く

 信用していないようです。


 アスタイル王国は、今は仕方なく

 従っているだけだと断言していたとの事。


 また、今後召喚される際に対策を

 重ねられたら、どうしようもないとも

 言っていたと」


「……な、なんと……」


グリーク宰相はそれを聞いて驚愕きょうがく

声を上げる。


「そして、ステラ様はこの事を一刻も早く、

 王家に伝えるようにと―――

 私を急がせました。


 『今、召喚者たちは大人しくしているが、

 今後どうなるかわからない。

 いつでもくつがえる可能性がある。


 くれぐれも彼らを刺激する行為は避けて

 ください。

 引き続き、連絡用に誰か派遣を』


 これがステラ様の伝言であります」


それに対し、アンク王女は軽く頭を振って、


「しかし、ずいぶんとステラは協力的に

 なったな?

 ただの使い捨ての生贄いけにえだとわかっている

 はずだが……」


彼女の疑問に宰相が口を開き、


「……もし、彼らが知的生命体の全滅に

 舵を切った場合……


 その時は、人質にしている彼女の母も

 姉も、関係なくなりますからな……


 ……みな平等に、死が待っている……

 という事でしょう……」


グリーク宰相の言葉を最後に、部屋は

重苦しい雰囲気に支配された。




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