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第92話・グレメン国を後に


「それじゃ、出発しますか」


「はいっ!

 じゃあみんな、またお願いするわね」


俺の言葉に、スフィアさんがテイムしている

魔物たちに号令をかける。


グレメン国での『面倒ごと』―――

闘士テルム』・『魔術師マジクール』・『格闘家ルクタートル』の

三派閥の揉め事を解決した俺たちは、


それと引き換えに、国王に召喚者や

非戦闘系スキルへの差別待遇の改善などを

約束してもらって、


アスタイル王国へと引き返していた。


「でもまいったわね、雨霧あまぎり君」


俺のもう一方の隣り……

スフィアさんとで挟むように、眼鏡の女性が

緑羊グリーン・シープ』に乗りながら

近付いて来て、


「あれですか―――

 まさか僕もあんな事になるなんて」


武田さんが言っているのは、実はあの後、

どうしても納得出来ない三派閥の

リーダーたちが来たので、


どうして自分たちは負けたのか、本当に

魔法やスキルは使っていなかったのか

問われ……

実践じっせんも兼ねてアドバイスしたのだが、


一通り終わった後、


『師匠!!』

『雨霧様ぁ♪』

『一生ついていきます!!』


と反応が豹変ひょうへんしたのだ。


「そりゃあねえ。

 あんな事を言われたら」


「プライドというか、心をくすぐるのが

 本当に上手いわよね」


先頭で護衛している、熊谷くまがやさんに

白波瀬しらはせさんが、


俺と同じ『風狼ウィンド・ウルフ』と、

岩熊ロックベアー』にそれぞれ揺られながら、

言葉と同時に振り返る。


「人聞きの悪い……

 まあ恨みを残さないよう、ああ言いは

 しましたけど」


彼らにスキル・魔力無しの技術を教えるに

あたって俺は、


『いがみ合っているとはいえ、あなた方の

 愛国心が高いのはわかります。


 しかし、常に万全の状態で魔法やスキルが

 使えるわけではないでしょう。


 国の危機に―――

 魔法を封じられたり、もしくは魔力が

 尽きた時、あなた方は両手を挙げてただ

 降参するのですか?


 魔法もスキルも無くなった時にこそ、

 あなた方自身の真価が問われるのでは

 ないでしょうか?』


それを聞いた彼らはハッとした表情となり、


『闘士』リーダーは両目を閉じて

こぶしを握り締め、


『魔術師』リーダーはなぜか顔を赤らめ、

紅潮こうちょうした目付きで俺を見つめ、


『格闘家』リーダーは雄叫おたけびを上げる

ように、大声で叫び……

それからは、俺の教える技術をどん欲に

学び始めたのである。


「まあ、あそこの三派閥がこちらに同調して

 くれれば、改革も進むでしょう」


「シュロランド教国への書状も、国王から

 頂けましたし―――

 とにかくまずは、アスタイル王国へと

 戻りましょう」


武田さん、スフィアさんに俺は挟まれ

ながら、帰りの道を進んでいった。




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