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第93話・逃亡発覚


「島村が逃げた?」


アスタイル王国に帰還した俺たちを待って

いたのは、


王城の一室で、申し訳なさそうな表情で

報告する―――

アンク王女とグリーク宰相さいしょうだった。


「ま、まことに申し訳ありません!」


「いったい、いつの事なんですか?」


熊谷くまがやさんが問うと宰相が

口を開き、


「それが、担当者が発覚を恐れて

 黙っていて……


 あなた方がグレメン国にった後……

 いえ、もしかしたらもっと前かも……」


その答えに白波瀬しらはせさんがため息をつき、


「でもそれなら、逆恨みであたしたちを

 襲撃して来てもおかしくないわ。


 こっちには来なかったのかしら?」


「周囲はわたしのテイムした子たちが、

 警戒していましたから―――

 スキを伺う、という事も無かったと

 思います」


スフィアさんがそれについて補足する。


「となると、逆方向に行ったという

 事かしら?


 グレメン国、シーライド王国方面では

 なく……」


武田さんがまとめるように話すと、


「反対方向ですと―――

 北方のシュロランド教国しか

 ありませんが」


「そことアスタイル王国との伝手は?

 何かありますか?」


俺が聞き返すと、アンク王女はただ

首を横に振る。


「……わかりました。


 どちらにしろ、次の行き先は

 シュロランド教国です。


 情報ありがとうございます。

 警戒して行く事にしましょう」


俺の言葉で、王族と宰相への報告は終わり、

まずは『ゴミ捨て場』の町で休む事にした。




「行きましたか?」


「……はい……


 しかし、よろしかったのでしょうか。

 島村逃亡を明かしてしまっても……」


召喚者組が去った後、王女と宰相は

二人きりになった部屋で語り合う。


「そのまま真っ直ぐ襲いに行かなかったと

 いうのは、想定外でしたからね。


 いつまでも隠し通せはしませんし、

 もしバレてしまったら、再びこちらの

 信用は地に落ちる。


 頃合いだったでしょう」


あの役立たず―――

一緒にいるグリークにすら、聞こえない

ような小さな声で彼女はつぶやく。


「となると、やはりシュロランド教国方面へ

 逃げたというのが妥当でしょうか……」


「彼の『封印ロック・アウェイ』はかなり強力ですからね。

 どこかの国に逃げ込めば、重宝される

 でしょう。


 しかしあの火傷は完治していない―――

 こちらがそのように治療したのですから。


 あの状態でもスキルが使えるのかしら?」


アンク王女の問いに、陰湿そうな表情をした

宰相は、


「どうでしょうね……

 逃亡の際、担当者たちに『封印』スキルを

 受けた者はいないという話でしたが……」


「まあ召喚者同士、潰し合ってくれれば

 それでいいわ。


 それに彼―――

 もともとそういう役目だったし?」


そう言って高らかに笑う彼女に、宰相も

追随ついずいする。


この時、2人はある可能性を完全に

失念していた。


彼を倒した雨霧あまぎりが島村に恨まれている、

それは事実であったが、


アンク王女やグリーク宰相もまた、

彼の復讐対象に入っている可能性を……




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