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第96話・シュロランド教国01


「……うっ、この匂い……」


アスタイル王国を出てから数日後―――

ある方向から、俺たちは物理的に不穏ふおん

匂いを感じていた。


「武田さん、この匂いって」


「ええ。

 こっちの世界に来てから、嫌でも

 覚えた匂いだわ」


俺を挟んで、両隣り同士で武田さんと

スフィアさんが言葉を交わす。


「なあ、本当にこっちで合っているのか?」


「これから向かう国って宗教国よね?

 そこから血生臭ちなまぐさい匂いが漂ってくるって、

 どういう事なのよ」


熊谷くまがやさんと白波瀬しらはせさんが、

グチるように話すと、


「し、しかし……

 方向はこちらで合っているはずです」


王国から派遣された案内役の人間が、

不安そうに答える。


ちなみに、この匂いに気付いたのは

スフィアさんがテイムした子たちが

最初で、


最初はどこかで誰かが、盗賊にでも

襲われているのかと警戒したが、


日を追うにつれて―――

それが一定の方向、シュロランド教国から

流れて来る事を嫌でも認識し、


俺たちは不安を通り越し、困惑していた。


「どうしましょうか?

 まさか、国に入った途端に襲われるような

 事は無いと思いますけど」


俺が全員に問うと、


「一応、入ってみよう。

 こっちはアスタイル王国からの使者だし、

 話くらいは聞いてもらえるはずだ」


「……あたしたちはね。

 そう言って、シーライド王国でも

 グレメン国でも、そこの3人は

 散々な目にあったじゃないの」


熊谷さんの言葉に、白波瀬さんが苦々しく

答える。


この2人は『全武器特化ウェポンマスター』と、

全天候魔法オール・ウェザー』スキルの

使い手。

真正面からケンカを売るような真似は

されないだろうが、


俺たちはというと―――

無能ノースキル』に『浮遊フロート』、

そしてテイマー。

あまりいい扱いをされないであろう事は、

これまでの国で経験済みで……


「2人は俺が何とか守ります。


 熊谷さんと白波瀬さんは、この国の

 現状を調べるためにも上層部に

 会ってきてもらえませんか?」


それを聞いた武田さんとスフィアさんは、

なぜか顔を赤らめるが、


「わかった」


雨霧あまぎり君に任せておけば

 問題ないとは思うけど―――

 油断しないようにね」


そして俺たちは、シュロランド教国へ

入る事を決意した。




「アスタイル王国からの使者だと?


 ふむ、『全武器特化』と『全天候魔法』は

 問題無いだろうが……


 『無能』、『浮遊』、テイマーの3人は

 別室へ向かえ」


翌日、目的地へと到着した俺たちは、

門番に書状を見せ、応接室のような

場所へと通されたが、


案の定というか、熊谷さんと白波瀬さんとは

そこで別れる事となり、


俺たちはそのまま、別の場所へと

案内された。




「ほら、好きな物を持て」


武器や防具がたくさん置かれた部屋に

案内された俺たちは―――

無造作にそれらを指差されて命令される。


「どういう意味でしょうか?」


俺が聞き返すと、案内役の男はハー、

とため息をついて、


「まあ何だ、頑張れ。


 恨むのなら、そんなスキルを持って

 産まれた事を恨むんだな」


そんな事を言われても、俺はこの世界に

産まれたわけでは無いのだが……

と思っていると、


「オイ!

 何をグズグズしている!!


 さっさと武器と防具を装備して出ろ!!

 お客様がお待ちだ!!」


と、外から声が聞こえて来て、

俺と武田さん、スフィアさんは

顔を見合わせた。





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