この世界初の国際会議が終了し、
表面上の条約と、裏の密約を使者が
持ち帰ると―――
各国は当然の事ながら、大混乱に
| ■シーライド王国 |
「最後の1国になるまで殺し合え、
だと……」
「は、はい。
同盟は認められているようですが」
使者より報告をもたらされた、
シーライド王国上層部は―――
国王を始めとして、その対応に
頭を痛めていた。
「……そういえばスフィア。
あなたは、あの召喚者たちと親しかった
でしょう。
これは、どのくらいの本気度―――
正気でやっていると思われますか?」
シルバーの髪のテイマースキルを持つ
女性は、まず息を飲み込んで、
「本気だと思われます、フィーズ様。
そもそも、この世界を皆殺しにするという
案は、アスタイル王国の召喚者たちの間で
一度出た事があるそうです。
さすがに現実的ではないと却下され
ましたが、シュロランド教国での
しまったのです」
彼女に質問した、糸のように細い目をした
青年は、その答えに眉間にシワを寄せる。
「低スキル持ち同士を殺し合わせるという
あれか」
「まったく、余計な事をしてくれたものだ」
「せっかく大人しくしてくれそうで
あったのに……!」
大臣クラスと思われる
「そこは、我がシーライド王国も大差無いで
あろう。
ここはいかに動けばよいか―――
真剣に考えるべきである」
王の言葉で、彼らは議論を加速させた。
| ■グレメン国 |
「これは……
本気だと思うか?」
密約の件を受け取ったグレメン国では、
国王以下、あの三派閥のリーダーたちも
緊急に呼び出されており、
「師匠を怒らせていますからね」
「
お方だと思われますが」
「それにしてもシュロランド教国は
やり過ぎました。
この対応もやむを得ないかと」
『
リーダー、
ブレーメン・イノン・ニバダの3名は、
同調するようにうなずく。
「しかし、国が滅ぶのを
いかん。
何か対策は無いのか?」
国王が問いかけると、
「まず反発は、最も
「今は大人しく従い、例の差別と待遇改善を
真剣に行って……
彼らの敵意を
「幸いにして時間はあります。
20年後までに、彼らの意識が変わるのを
期待するしか無いでしょう」
すると大臣クラスであろう初老の男たちは、
「王よ、今はそれしかありますまい」
「消極的ではありますが―――」
「時が経てば頭も冷えるというもの。
この者たちに命じて、
手でありましょう」
一人の大臣が、『闘士』『魔術師』、
『格闘家』の代表を指差すと、
「うむ……
ではブレーメン・イノン・ニバダに
命じる。
アスタイル王国の召喚者たち―――
この密約の提案者に取り入り、
考えを変えるよう誘導せよ」
「「「ハッ!!」」」
王の言葉に3人は頭を下げる。
そしてさり気なくアイコンタクトを
相互に取って、
「(まあここまでは想定内か)」
「(後は雨霧様の言う―――
この密約の
ですわね)」
「(しかもそれが出来なけりゃ、俺たちが
誘導しろ、なんてよ。
子供ながらに恐ろしく、また頼もしいぜ、
師匠……!!)」
彼らは雨霧から何らかの密命を受けて
いるようで、
口元の笑みを隠すと同時に、頭を上げた。
| ■シュロランド教国 |
「な、なな、何じゃこれは!?
20年後を目途に各国で戦争しろ、
だと!?」
密命の説明を受けたこの国のトップの
老人は―――
後ろに倒れるのかと思うくらいに、
のけ反った。
「お前たちはそれを承知して来たのか!?」
「こちらが下出に出れば……
調子に乗りおって!」
「こんなものはとうてい受け入れられ
ません!!」
司祭クラスであろう連中が、教皇に対し
詰め寄る。
そしてその中の1人が、
「教皇様、これはむしろチャンスです!
これを逆手に取り、各国へ召喚者どもを
討伐するよう、働きかけましょう!
そして我が教国が主導権を握り、
世界を導くのです!!」
だが、それを聞いた教皇はというと、
雨霧から受けたケガは
叩きのめされたトラウマは心に刻まれ、
即座に同意出来ないでいた。
「……無駄だと思われます」
そんな時、使者の1人が重そうに口を開く。
「なぜだ!?」
「亡国の、いや世界の危機ではないか!
ここで協力し合えないでどうする!?」
と、使者に口々に非難が向かうが、
「そもそも、この提案がなされたのは、
我が国で低スキルの者同士を、
殺し合わせていた事がきっかけだと―――
そうあの召喚者は申しておりました。
そのため各国の代表の空気は、
『余計な事をしてくれた』と……
非難一色でしたよ。
むしろ各国に協力を呼びかけたら、
召喚者たちへの心証を良くするため、
こちらへ攻めて来る可能性まであります」
彼の答えを聞いたシュロランド教国上層部は
黙り込み―――
沈黙が、今後の方針を語っていた。