「レイ、アンリエッタよ。まずは此度の働き、見事であった。アンリエッタ、
「ありがとうございます」
アーレスとミルフィーの治療を終えた翌日。謁見の間にてジークレイド皇帝との謁見を果たすレイとわたし。グリモワール王国での任務の報告を終えると、皇帝から労いの言葉を掛けられた。そして、皇帝は静かに嘆息を漏らした後、言葉を続ける。
「そして、アーレスと我が娘、ミルフィーの治療。アンリエッタ、其方が居なければ、王国は滅んでいたかもしれぬ」
「え? そんな……そこまでは。とんでもないです」
そこまで言われると思っていなかったので思わず否定するわたし。横で何故かレイも頷いている。わたしは目の前で倒れている人を放っておけないだけで。やるべきことをただやった迄だと告げる。
「アンリエッタ、君が此処に居なければ父上も目を覚ましていない。王国の闇も暴かれる事無く、魔竜が復活し、ミルフィーとアーレスは命を落としていたかもしれん。アンリエッタ、君は間違いなく魔国の救世主だ」
「……」
レイがそう言ってくれたものの、素直に喜べない自分が居た。魔竜が復活していて、まだ王国の闇を完全に暴いた訳ではない。まだまだわたしは道半ばだ。
「あの……皇帝陛下。魔竜を、どうにかしないといけないんですよね」
「嗚呼、知っての通り、魔竜カオスドラゴンが復活した。お前達が遠征している機を諮ったかのようなタイミングでだ」
「え?」
そうか、ジズの部下である密偵の人が魔竜は何者かの手によって復活したと言っていた。これは意図的な復活。一体、誰が、何の目的で……。そう考えていると、レイの横で影が揺らぎ、ジズさんが突然謁見の間へ姿を現した。
「報告します。魔竜の眠る洞窟は現在静かです。が、漏れ出す
「ならば、その前に御す必要があるまいな」
「それと……」
「言ってみよ」
魔竜討伐への指示を皇帝が出す前に、ジズがもう一つ報告があると手を挙げた。
「魔の森周辺、魔力の残滓を追いました。魔竜の眠る洞窟西側にて〝復活の儀〟の痕跡を発見、犯人は恐らく魔竜の眠る洞窟へ潜んでいるかと」
「成程、彼奴は何らかの方法で魔竜を制し、魔国を転覆させる気なのだろう」
ジズと皇帝の会話。既に犯人の目星は付いているという事だろうか?
「アンリエッタ、何か事件が起きた時、すぐに捕えず犯人を泳がせる事も大事だ。そして、逃げ場が無いところへ追い込み、尻尾を掴む。狩りの鉄則だ」
「あの……その犯人って?」
「以前、アンリエッタへ全員が味方とは限らないという話をした事、覚えていないか?」
「えっと、何かの時に聞いたような気も……」
あまりに色んな事が起きすぎていて、正直忘れてしまっていた。わたしがう~んと唸っていると、皇帝が先に答えを言ってくれた。
「エルヴィス・グラハム。カオスローディアの公爵家、現当主が一人」
「えっと……」
「香水の香りがきつい、いけ好かない男だ」
「あ」
名前を聞いてもピンと来なかったんだけど、レイの補足説明を聞いて思い出した。沢山の宝石を散りばめた衣装に整髪料で固めた髪のきつい香りの貴族。わたしが一度だけ逢った事がある人物だった。
「恐らくエルヴィスは行商を通じ、グリモワールと内通しています。そして、レイス様とアンリエッタ様が遠征するタイミングで魔竜を復活させた。
「なっ、まさか!?」
まさか、この魔竜の復活も王国の謀略だと言うの!? 下衆王子の顔が浮かび、内側から怒りがこう、沸々と湧き上がって来る。
「王国は手を汚さず、内部から崩壊させる。王国がやりそうな手だな。エルヴィスとしても、魔国を転覆させ、自身が実権を握る絶好の機会。互いの利害が一致し、手を組んだのであろう」
「それにしても俺達の密偵部隊を舐め過ぎだ。魔力の痕跡を残しているあたり、エルヴィスも余程焦っているのか、想定外の事態でも起きたのか」
ともかく、そのエルヴィス卿は洞窟内に潜伏しているらしい。通常なら強力な
「父上、魔竜討伐。俺が行きましょう」
「わたしも行きます」
「行ってくれるか、レイ、アンリエッタ」
恐らく皇帝もそれしか方法がないと考えていたのだろう。否定はしなかった。そして、魔竜に集中出来るよう、エルヴィスとかいう貴族が何かしようとした際はジズが止めるよう手を挙げてくれた。ジズの密偵部隊数名も一緒に同行してくれるそう。
アーレスとミルフィーを瀕死に追い込んだ魔竜カオスドラゴン。果たしてレイとわたしだけで止める事が出来るのか?
「それと、もう一名。魔竜討伐へ同行したいと言っている者が居る。今、その者は城の客間で休んでいる。ノーブルへ案内させよう」
「分かりました」
わたしは皇帝陛下へ一礼し、レイと謁見の間を後にする。入口にて待機していたノーブルさんに連れられ、お食事の部屋近くにある客間へと向かう。丁度、お昼ご飯を準備していたナタリーさんが厨房から出て来たタイミングでわたしの姿を見つけ、駆け寄ってくれた。手を取り合って再会を喜ぶわたしとナタリーさん。
静謐室での治療の後は疲れが酷く、レイとノーブルさん以外、誰とも逢っていなかった。ナタリーとは王国潜入後、久方振りの再会だ。
「アンリエッタ様! ご無事で何よりです!」
「よかった。ナタリーも元気そうで」
「アーレスとミルフィー様の件も聞きました。本当、アンリエッタ様には言葉で言い表せないくらい、感謝の言葉でいっぱいです」
「待って、泣かないで。ナタリー」
ナタリー、本当いい人だな。常にみんなの事を思って行動してくれている彼女。ノーブルさんは昨日何も言わなかったけれど、あの紅茶と一緒に置かれていたクッキーは、ナタリーの手作りだ。いつも食べていたから分かる。ナタリーとは後でいっぱいお話しようと告げた後、目的の客間へと向かうレイとわたし。ノーブルさんが客間の扉をノックした後、中へわたし達を招き入れる。
「失礼致します。アンリエッタ様とレイス様をお連れしました」
椅子に座っていたその子は、暫く虚ろな表情で焦点が合っていなかったのだが、わたしの顔を見つけた瞬間、まるで曇り掛かっていた心が一気に晴れたかのように明るい表情となる。その特徴的な
「アンリエッタ様! 嗚呼……なんて感動的な!? 今、私、全てを思い出しました♡」
「ルーズ!」