◆<聖女クレアside ~三人称視点~>
魔導コロニー地下、人工世界樹の拘束から逃れ、クレアは
「聖女様、大人しく拘束されてくださぁ~い」
ダークエルフの持つ漆黒の弓から放たれる無数の矢は朱く黒く染まった闇色の矢。襲い掛かった矢の持つ
「あんたばかぁ~聖女様殺しちゃだめなのよ?」
「え? でもエルフィン様がぁ~♡クレアはそう簡単に死なないから逃げた時は本気でやれってぇ~♡」
「でも死んだらどう責任取るのよ?」
ダークエルフ達が何やら揉めている間に、やがて爆発の黒煙が晴れた……のだが、そこには聖女の姿は無く……。
「え? そんなばかなぁ~?」
「どこへ行った! 聖女クレア!」
エルフ達が右往左往している中、広い地下実験施設上空、全身に風を纏った聖女は杖先に籠めた光を眼下へ向け、エルフ達の呼び掛けに応えた。
「此処ですわよ、光よ、彼の者達の闇を照らせ! ――
実験施設を満たす〝浄化〟の光。闇に染まったダークエルフの紫黒色の肌は爛れ、そのまま肉体を保てず消滅する……かに見えたのだが、同時に純白の光が風に乗って彼女達の肉体を包み込み、元のミルク色の肌へと再生していった。
「あれ? ワタシ達は一体何を?」
「え? 此処、どこ?」
正気を取り戻していくダークエルフ達。無傷のクレアは彼女達に微笑み、上空からゆっくりと降り立つ。矢による攻撃を受け、爆発を受けても尚、彼女は無傷だった。
元々結界術に長けている彼女、闇属性でない物理攻撃や先日の人工世界樹のように直接拘束するしか彼女を捕える方法はない。加えて、〝加護〟による結界だけでなく、
「さぁ、エルフの皆さん。皆で地上を目指し……」
クレアがそう誘導しようとした瞬間、実験施設と魔導師達が研究をしている施設の間の扉が開き、今度は魔導師団の精鋭部隊が入室して来たのだ。
「罪のない者達を傷つける訳にはいきません。此処は一旦引くしかありませんね……どうすれば……」
クレアが次の作戦を考えていたその時、彼女の横にあった白い壁面に突然穴が開く。穴は人が一人入れるサイズまで広がり、そこから伸びた腕にクレアの手が掴まれ、一気に引き寄せられた。
「え?」
穴はすぐに消滅し、元の白壁へ。魔導師団の者達はざわめき、やがて、叫ぶ。
「聖女クレア様が逃げたぞ~~!」
◆
そこは漆黒に覆われた
「成程、闇魔法の空間全体を
「初めまし……え? そうでしたっけ? 女魔導師ルーズと申します。聖女クレア様、私の師匠であるアンリエッタ様の命を受け、魔国カオスローディアよりあなたを救いに参りました」
「まぁ! アンリエッタが師匠! そう……あの子も成長したのですね。魔国で酷い待遇を受けていないかと心配しておりましたが、そのご様子だとわたくしの心配も杞憂だったようですね」
グリモワール王国闘技大会準々決勝、アンリエッタがソルファと対峙したあの日。ソルファを撃破した後、まさにこの〝
アンリエッタに弟子が居る事に驚きながらも、妹が無事である事に安堵し、彼女と握手するクレア。そして、隣に控えている人物へも聖女は自ら頭を下げた。
「
「魔国カオスローディア、皇帝直轄密偵部隊、部隊長を務めるジズと申します。以後、お見知り置きを」
クレアがお務めの際、密告者として王国へ潜入したジズ。彼の姿を見てクレアは眼前の人物があの時の密告者であるとすぐに気づいたのだ。ジズがクレアへ〝聖女システム〟という言葉を残した事で王国の真実を暴く新たな物語が始まったと言えるのだ。
「心強いですわね。そうだ、ルーズさん。この杖はあなたへ返しましょう。風精霊の恩寵、受けられたのでしょう?」
「杖、取り返してくれたんですね! ありがとうございます」
これで魔国の者とクレアが初めて直接相対する事となった。
早く魔導コロニー内部の人工世界樹をなんとかしなければならない状況だったが、外ではけたたましい警報が鳴っており、まずは魔導コロニーから脱出するのが最善と皆判断する。
「すいません。わたくしの仲間が今、魔導コロニー地上階で恐らく暴れています。目的はわたくしの救出。脱出前に
「奴等……特にあの王国の
「私が
「ありがとうございます。よろしくお願いします。その間に、今の王国の現状をお話します」
思っていたよりも深刻な状況に、時折ルーズも口元を押さえ、いつも無表情のジズもフードで覆った顔から見える眉根を何度も潜めた。
「もう少しで地上だ。聖女クレア殿。今、あなたを救いに向かっている人物は信頼に値するのか? 王国は闇が多い。念のため確認しておきたい」
「ええ。一人はアンリエッタへのお手紙でも告げた幼馴染のランス・アルバート、王立図書館の司書です。そして、もう一人は……わたくしの母、先代の聖女レイシアが救世の旅をしていた時、仲間だった一人です。幼い頃、『もし、将来困った事があったときは、彼を尋ねなさい』と言われていた人物です」
闇の空間が地上へと到達し、眼前に広がる壁の向こうから、何やら激しい戦闘の音が聞こえ漏れていた。
「その人物の名は?」
尋ねたジズと、闇の空間を風魔法で保護していたルーズへ微笑みかけ、クレアは応える。
「現代最強の