◆<聖女クレアside ~三人称視点~>
魔国カオスローディアの密偵ジズとアンリエッタの弟子・ルーズ。聖女クレアは彼等と邂逅の後、魔導コロニー地上フロアで暴れていたバトラス・ウエストリバー、王宮図書館ランス二名と合流した。
「クレア殿。お逢い出来て嬉しいです。あなたの仰せの通り、オレの所属する民間の
「バトラスさん、ありがとうございます。サザナミ国密偵部隊〝宵闇〟の長であるサザメはわたくしの仲間です。避難民の誘導は彼女達に任せて問題ないでしょう」
固い握手を交わすバトラスとクレア。その背後で慌てふためく様子の青年は、王宮図書館司書のランスだ。
「クレア様――、これ、何が一体、どうなっているんですか!?」
「話せば長くなりますが、妹アンリエッタが色々やってくれているようです」
クレアは魔国の密偵ジズと女魔導師ルーズをバトラスとランスへと紹介する。魔導コロニーへ一人、自ら潜入調査を試みたクレア。その準備期間の間に彼女は事前にランスと接触していた。バトラスを尋ね、陰に潜み、民の避難誘導を準備するようにと。そして、民の避難が完了した時点でバトラスと共に魔導コロニーへと侵入する。これがクレアの作戦だったのだ。
奇しくもジズとルーズが拘束より脱出したタイミングとバトラス達が魔導コロニーへ侵入したタイミングがほぼ同時だった事も幸いした。よって、
「ジズさんと言いましたね。この〝黒影〟の魔法。陰の空間内での潜伏は最長何日持ちますか?」
「単独ならば一日。ですが、風精霊の結界により、三日は持つかと」
「充分ですね。では、魔導コロニー地下にある
こうして、敵の本拠地内部という大胆な場所にて、クレアによる作戦会議とコロニー内での潜伏が始まったのだ。
◆
それから一日経ち、クレアの前にずっと逢いたかった人物がようやく姿を現した。
肩まで掛かる銀髪に、
(嗚呼、どれだけこの時を待ち望んでいた事か……)
姿は以前と変わらない彼女だったが、内に秘めた膨大な魔力と、強い意思が、彼女の身体より滲み出るオーラから溢れ出していた。妹の成長を肌で感じながら、ゆっくり一歩一歩近づくアンリエッタを黙って待つクレア。こうして、離れ離れとなっていたアンリエッタとクレアが時を経て、無事に再会を果たす。
再会を喜ぶ姉と妹。妹が追放されたと知った時、クレアはもう妹に逢えないのではないかと思ったほど。でも様々な困難を乗り越えて妹は姉の下へと還って来たのだ。
妹の流す再会の涙が聖女の胸を濡らしていく。胸の中でむせび泣く妹に、クレアの
その後、アンリエッタは魔国カオスローディア第一王子であり、〝契り〟の契約をした相手であるとレイス王子を紹介する。彼を紹介するアンリエッタの頬が一瞬夕焼け色に染まったように見える。レイス王子とアンリエッタの距離感から、二人は形だけの〝契約結婚〟ではなく、より親密な関係性を築いているのでは? とクレアは感じ取る。アンリエッタにも信頼における相手が出来たという事実に、姉は安堵する。
続けて第一王女のミルフィー王女。一瞬、挨拶する事を躊躇うような仕草を見せたミルフィーであったが、クレアへ向かって彼女は無言ではあるが、恭しく一礼した。
「魔導コロニー地下、この先の道はどうやら回廊が日々変化しているようです。王国の王子エルフィンと、魔導師団長ラーディ・ヘンダーウッドの待つ先に、王国の闇・あの汚泥の原因を創っていた根源、人工世界樹があります。参りましょう」
〝人工世界樹〟という単語には、流石にレイス王子もミルフィー王女もアンリエッタも、皆驚きを隠せない様子だった。大地に浸透する
そして、その人工世界樹に拘束されていた時、クレアは世界樹の巨大な幹の中に、何か悍ましいものが眠っている……そう確信していた。
「これ以上、何があるって言うのよ!?」
それまで黙っていたミルフィー王女がたまらず呪詛のように言葉を吐く。
「分かりません。ですが、王国は膨大な魔力を持った何かを産み出そうとしているのかもしれません」
「大丈夫よミルフィー。わたし達で、それを止めればいいのね? お姉さま」
「ええ。今のあなたとわたしなら、何でも出来る。そんな気がしますわね」
これで準備は整った。各回廊で足止めをしてくれている仲間達。この〝黒影〟の空間の外では今もバトラスが王宮魔導師団の猛攻を一人で退けている。
そして、皆の前へ聖女クレアは立ち、こう進言する。
「もし、諸悪の根源が手に負えない対象だった場合、わたくしが〝封印〟の魔法を発動します。そのためには四大精霊の恩寵の力を一つに集める必要があります。その時はご協力をお願いしますわ」
「勿論です、お姉さま」
「分かったわ」
この時、この〝封印〟の魔法に関してクレアはとある覚悟をしていたのだが、アンリエッタを始め、他の者はその事実に気づいていなかった。
そして、クレア達は諸悪の根源が待つ魔導コロニー最深部へと向かう。
この先、この場に居る誰もが予想しなかった真実が待ち受けている事を、クレアはまだ知らない。