わたし、アンリエッタがお姉様と魔導コロニー最深部へと向かった後、残されたレイとエルフィン、ミルフィーとラーディによる壮絶な闘いが幕を開けてしまった。
「彼とやるにはやや狭いな。ラーディ、そっちも窮屈だろう?
「分かりましたぞぉおおお。人工世界樹よ、各
ラーディが手に持つ杖で地面を叩く。すると、翠色の床が蠢き、四方の壁がだんだんと広がっていき、先日の闘技大会会場ほどの広さへと拡大した。各領域の境界は厚い結界で覆われており、あらゆる攻撃を遮断する仕様。誰にも邪魔されない状況下での戦闘が始まった。
「サァ、あちらも始めているようですし、こちらも始めましょうか?」
「そもそもあんたのこと、うちは知らないんだけど?」
「は? なんと!? なんとぉおおお!? 我を知らないと? グリモワール王国王宮魔導師団団長ラーディ・ヘンダーウッドをご存知ない?」
「え? 派手でへんなウッドですって?」
フッっと息を吐きながら聞き返すミルフィーのその台詞に丸眼鏡の淵を右手で掴んだラーディのこめかみあたりに血管が浮き出る。
「……あなたこそ、どこのどなたですかぁ?」
「魔国カオスローディア第一王女、ミルフィー・ラミア・カオスロード。覚えておきなさい。あんたに死ぬよりも恐ろしい凍える程の恐怖を与えてあげるわ」
「……それは興味深いですねぇ~では、行きますぞぉおお」
「準備運動には丁度いいわね」
言葉の応戦を終えた両者が相手へと杖先を向ける。ラーディは火球、ミルフィーは氷塊。互いに放った魔法が領域中央で爆発を起こす。それが開戦の合図となる。
続け様に火球と氷塊を放ちつつ、円環を描くように領域の端を旋回する両者。互いに足を止めた瞬間、ミルフィーは上空へ杖先を向け、ラーディは地面へ杖を突き立てる。
「〝
「〝
五月雨のように襲い掛かる無数の
「〝
今度は氷の波をミルフィーが放つ。領域全体、翠色の床が一瞬にして凍る。その場に立つ者は回避不能の氷結魔法……だったのだが、この時ラーディは既に足許に風の膜を張り、宙へと浮かんでいた。
「〝
「っつ!?」
領域全体に突如巻き起こる
「おやぁ~おやおやぁ~? その程度の魔法では、我に恐怖どころか傷すらつけられませんぞぉ?」
「ま、そうでしょうね。今のはいいマッサージになったわ。で、もう終わり? 魔導師団の団長なんでしょう? もっと色んな魔法、使えるんじゃない?」
「勿論ですぞぉ~」
「なら、うちを止めてみなさいよ」
ミルフィーが広範囲の氷による波を引き起こすと、今度は炎の壁を巻き起こすラーディ。氷の波が相殺されたところでミルフィーへ向けて上空から溶岩の雨が降り注ぐ! ミルフィーはそれを踊るような捌きで回避していき、返しに圧縮した水流を一直線にラーディの胸元目掛け放つ。ラーディが創り出した結界を貫通した水流は、今度はラーディの身体を後方の壁まで吹き飛ばした!
ラーディの身に着けている赤紫色のローブは魔法による耐性がついていた。もし、そうでなければ彼の肉体を水流は易々と貫通していただろう。互いに準備運動は終わったようだ。ラーディはいつもつけていた丸眼鏡を懐へしまう。
「あなたが魔国の魔女であるという事は分かりました。此処からは本気でいきますぞ。
彼の体内に封じていた魔力が橙色の火花となり、刹那、領域の空気が重たくなる。ミルフィーへ圧し掛かる
「
「遅いですねぇ~」
「かはっ」
この時、圧縮させた風の刃を纏わせたラーディの杖が、ミルフィーの背中を貫いていた。口から血を噴き出すミルフィー。杖先を引き抜かれ、腸からも液体が飛散する。振り返ったミルフィーの苦悶の表情を見て、勝利を確信したラーディは高らかに宣言する!
「魔国の魔女、討ち取ったりぃいい! 恐怖? 恐怖なんてぇえええ微塵も感じませんでしたぞぉおおお!」
「そうね、だって……勝負はこれからだもの」
「は?」
刹那、腸を貫いたミルフィーの身体が液体となって溶け落ちた。消滅するミルフィー。透明な水がラーディに向かって流れていく。と同時、ラーディの立つ
「残念ね、さっきのは水魔法による分身よ」
「まさか……恩寵の力!?」
ラーディの誤算。それはアンリエッタやレイは監視していたものの、遥か東、サザナミ国の監視まで手に及ばず、ミルフィーが
水色へ変化した
冷たい眼差しで微笑むミルフィーは、彼へ向けて息をひと息吹きかけた。
「
「そんなものぉおお、魔力解放中の我には効きませ……あ」
ミルフィーの周囲を除く、
この時、あらゆる魔法を極めるべく、人体実験を繰り返し、魔法に絶対の自信を誇っていた王宮魔導師団団長は一瞬にして活動を停止したのだった。
「悪かったわね、あんたが恐怖を感じる前に、全部凍らせちゃったわ」