2023年11月20日、事態が急加速している。
未来調整官fuは、データストリームの奔流を前に眉をひそめる。ガザ地区、死者数は容赦なく積み上がっている。2023年10月7日以降の民間人の死者13,300人以上、その内訳は子ども5,600人、女性3,550人。行方不明者は6,500人。各陣営がそれぞれの正義を叫ぶ中、fuは一歩踏み込み、状況を解析する。
ジャバリヤ難民キャンプ付近のインドネシア病院、ここは紛争の最前線。イスラエル軍が病院を包囲、戦車砲撃によって12人が死亡、約200人が負傷したという。パレスチナ側は、病院内は武装勢力が不在だと否定する一方、イスラエル側は、病院からの発砲に対する反撃だったと主張する。情報錯綜、まるでパズルのように入り組む状況だ。
さらに追い打ちをかけるように、中部ヌッセイラート難民キャンプとブレイジ難民キャンプへのイスラエル軍の空爆。この攻撃によって40人以上が命を落とした。病院当局の悲痛な声明がデータストリームを駆け巡る。無情にも繰り返される、終わりの見えない惨劇だ。
「データが過負荷寸前だ。タイムラインの分岐が多すぎる」
fuの脳内では、並列処理された複数の可能性がフラッシュバックする。
ここで、イスラエルのガムリエル情報相の声明が、更なる火種を投下した。ガザ地区のパレスチナ人の「自主的な移住」を国際社会が推進すべきだと発言。これは事実上のパレスチナ人の追放を示唆している。国際社会がこの意見を支持した場合、事態は制御不能になり、地域全体の不安定化、そして連鎖的な惨事を招くだろう。
「時間がない、速く」
fuは、高度情報解析ツールを起動させる。まずは情報の整理、それから具体的な介入が必要となる。パレスチナの現状分析、イスラエルの軍事作戦分析、そして国際社会の動向分析。同時多発的に、複雑な演算が開始された。
その時、通信回路に別の影が浮かび上がる。
「paです、データストリームの歪みを検出した」
過去補填官paだ。paの介入によって過去の調整が行われれば、現在が修正される可能性がある。fuにとってpaは頼れる戦友だ。
「情報相の声明、時間軸に干渉が入っているわね」
paが分析結果を共有する。どうやら、情報相の発言そのものに、強い意図的な誘導が見られるようだ。タイムラインの特定ポイントをわずかに変更するだけでも、彼の言動の拡散を抑制できるはず。
fuは直ちに具体的な作戦行動を開始する。
「ジャバリヤ難民キャンプ病院、交戦時刻軸を再調整、軍事的行動、微少時間差誘導により戦車砲撃の範囲を縮小させ、パレスチナ民間人への被害を最小化する。パレスチナ医療班へ医療支援情報開示と同時にイスラエル軍に戦術情報誘導を行い、病院内部での武力衝突は回避、民間人避難経路を即時構築。各避難先へは過去の事例に基づく効率的避難指示を適用する」
続いて、fuはヌッセイラート難民キャンプとブレイジ難民キャンプの空爆に関わるタイムラインの変更を行う。標的選択プロセスに情報ノイズを挿入し、攻撃地点を意図的にずらすことで、民間人の死傷者を減らすための措置だ。
「目標座標を精密に再計算、過去事例に鑑みて最適な攻撃範囲へと誘導。周辺住民への避難誘導支援システムを最優先で起動。情報漏洩阻止、迅速かつ確実に行動する」
fuの声は静かだが、確かな決意が宿っている。
fuの修正作業に並行して、paは情報相の声明を調整する。paは歴史データバンクへのアクセスを試み、発言内容を微調整し、声明の持つ負のエネルギーを拡散させないように過去の干渉を実施する。
「過去の出来事を再構成、発言時の周囲への影響と関連要因を相殺する補填作業開始。情報相の発言、各国首脳陣への伝播経路、その情報の拡散を抑制せよ」
paの指示は、緻密で迅速。
情報調整の嵐が吹き荒れる。fuはガザ地区全域の戦況をリアルタイムで監視、過去改変ツールを用いて細かい調整を行う。
「イスラエル軍、パレスチナ勢力、双方の軍事行動を微調整。衝突を誘発するタイムライン要素の緩和、偶発的な衝突による被害規模の縮小化。それと同時に医療、食料支援ルート構築。民間人の保護を最優先にする」
fuは休む間もなく、複雑な演算を続ける。
数分後、タイムラインへの調整は一定の成果を見せ始める。ジャバリヤの病院への攻撃は当初より規模が縮小され、死者と負傷者は減少する。ヌッセイラートとブレイジの空爆は回避はできぬまでも、結果として最小限に被害を食い止めることに成功する。情報相の発言は弱体化され、国際社会がそれを支持する可能性は著しく低下した。
fuの身体は限界寸前だ。連続稼働による疲労が蓄積している。paが駆けつける。
「まだ微小ながら残存要素が複数存在、補填作業と現状監視の同時稼働が必須」
paは過去の情報ストリームと現在のデータ解析を繰り返す。二人の協力によって、ガザの惨劇は辛うじて最悪の結末を回避し始めている。
「状況、わずかながら改善している。調整目標達成まで、あと少し」
fuは安堵の息を吐くが、同時に次の課題が目前に迫っていることを察知している。状況は改善傾向だが、その調整の脆さも理解しているからだ。パレスチナの人々の怒りと絶望は、依然として根深く存在する。これらの感情をいかに沈静化させるか、これこそが最大の問題なのだ。
「持続可能な安定化のためには、双方の意識の変革が不可欠よ」
paの言葉に、fuは同意する。調整を続ける中で、根本的な問題への対処も考えなければならない。未来の衝突を防ぐためには、根本的な構造の改革が必要になる。
夜が明けようとする頃、fuとpaの長時間にわたる調整作業は、一旦の区切りを迎える。ガザの情勢は、完全に落ち着いたとは言えないが、状況は明らかに緩和していた。今回の出来事を経て、fuとpaは新たな調整計画の作成を開始するだろう。
未来は、まだ流動的だ。fuの瞳には、その先にある、より平和な未来を見据えている。